お前、それは反則だろう・・・






ついでにマのつくお手伝い!
13.5








今まで、色んな奴とそりが合わずに、一人部屋だったが、つい最近ルームメイトができた。
入ってきた奴は、最初こんな細くて小さくて、その上眼を疑うような美形で、本当に大丈夫なのかよと思ったが、訓練を始めていくにつれて、見た目じゃわからないと、本気で思った。
入舎の洗礼というべき、登攀訓練でひょいひょいと昇っていき、途中へばってる奴らに声をかけて励ましたり、手を貸したりしていたし、剣や体術の訓練でも、少々型は変わっていたが既に完璧な基礎を既に身に着けていて、ベテランの兵士二人を相手していた。
まったく、その体のどこにそんな力があるんだか。
最初こそ、距離があったが、きらきらと輝く瞳に、かわいらしい表情、そして、時折見せる鋭い表情に引き込まれて、俺はいつの間にかあだ名で呼ぶほど仲がよくなっていた。


「ザビー、お前なにしてんの?」
「馬に餌やりに。」
「・・・・・・干草に負けてるぞ?」
「・・・気のせいだ。」


体格がちまっこいザビーは運んできた干草に、微妙に負けていた。
腕力的には問題ないのだろうが、でかい干草の束に苦戦しているようだった。


「ほら、貸せよ。」
「うおっ!」


三分の一ほど受け取ると、驚いたザビーが眼を丸くしていた。
ああ、かわいいなぁ・・・
しかし、声には出さない。出したとたん『お前、目が疲れているのか?』と真剣に聞いてくるから。


「助かるよ。二回に分けようかとも思ったんだけど、めんどくてさ。」
「まぁ、確かに面倒くさいがな。
 こんなときこそ、その無駄にいい頭を使えよ。」
「何それ?」


そんなやり取りを、普通にしていたが、10日ほど経つと、模擬戦が控えていた。
俺はてっきり同じ軍に配属されると思っていたため、別陣営―――しかも、圧倒的に不利な陣営にザビーが配属されて頭が真っ白になった。
なんとなく、漠然とずっとこのまま一緒だと思っていたのだ。
それが、根底から覆された。


「あ〜別れちゃったか〜〜」
「ザビー・・・」
「なんだよランス。辛気臭い顔して。」


あっけらかんと笑うザビーにその思いが俺だけのものだと知って、ちょっと、いや、かなりショックだった。
ああ、こいつは俺のことなんとも思っていないのか・・・
そう思ったが、ザビーはニヤリと笑うと、ばしっと頭をはたいてきた。


「でも、これで思う存分手合わせできるな!」
「は?」
「いや〜ほら、いつも一緒に行動してたから、相棒みたいな感じがしてさ、そんな奴と真剣に対決できるなんて面白そうじゃん?」
「・・・・・・・・・」


ああ、そうか、そういうことか。
相棒だと思ってくれていたわけか。
現金なことに、俺はその一言で回復すると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。


「お前、この人数差で勝てるとか思ってるわけ?」
「やってみねぇと分からないだろ?吠え面かくなよ?」


ニヤリと、意地の悪い笑みを返してきたザビーに俺はもう、明日が楽しみで仕方なくなっていた。









そして、運命の日、俺の目の前には艶然とした笑みを浮かべたザビーが立っていた。
背後から朝日を浴び、ザビー自身が輝いて見えるその姿に、俺は意識の遠くのほうで感嘆の声を上げていた。

ああ、コイツは戦いの神か?
コイツになら、命を預けてついていける。

そして、降伏を告げながら、はっきりと決めた。
俺は、こいつに付いていこう。
力が及ぶ限り、こいつの為に剣を振るおう。と。
なのに・・・・


「お前、それ反則だろう・・・・・・」
「いや〜悪いとは思ってたんだよ?」


へらりと笑ったザビーの髪はくすんだ赤ではなく、高貴な黒に染まっていた。
そして、目は水色から濃紺へ。
なんとこの男、噂で聞いていた魔王陛下の幼馴染だったと言うのだ。
それが分かった瞬間の周囲の様子は、それはもう滑稽だった。
教官は地べた這いずって謝るし、先輩方は膝をつくし、同輩たちは気絶するものさえいた。
かく言うおれも、一瞬頭を下げかけたが、本人が『必要ない』って言ったんで、そのままの態度でいることにしたのだ。


「それが悪いと思ってる態度かよ。」
「思ってるって。特に、ランスには悪いと思ってるよ・・・」


正体がばれてしまったため、城に戻るのだと言うことで、ザビー・・・いや、はせっせと荷物をまとめていた。
・・・・・・普通、そういうことって、侍女がやってくれるんじゃないの?


「ランスには色々助けられたし、顔とか見た目で判断しないで、対等に付き合ってくれたろ?
本当にすごい感謝してるんだ。」


・・・・・・耳が痛いな。
初めは思いっきり見た目で判断してたし。
むぎゅむぎゅと、小さいカバンに必要なものを詰めながら、は顔を曇らせる。


「だから、逆に騙してて申し訳なくてさ・・・」


俺はをどけると、はみ出しているカバンに無理やり荷物を詰め込んで、荷造りを手伝ってやる。
そして、用意が終わると、正面からに向きあい、頬に手を沿え・・・


むに。

「ぃひゃい!ひゃんひゅ、いひゃい、いひゃいから!!」
「な〜に馬鹿なこと言ってるんだよ。
 お前がこの宿舎に入らなきゃ、俺とも知り合えなかったわけだろ〜?
 それとも何か?それと知り合いたくなかったとかぬかす気か?」
「わかっひゃ!わかっひゃから!」


引っ張った頬を離すと、は恨みがましい目で俺をねめつける。
まぁ、背がちっこいくせに、頬を押さえて上目遣いだから全く怖くはないけど。


「最後の最後にほっぺた引っ張られるとは思わなかった・・・」
「勝手に最後にしてんなよ。」
「へ?」
「俺、決めたから。」


お前についていく、お前の為に剣を振るうって。
だから・・・


「ヴォルテール卿に私兵志願してみるわ。」


どこに行こうと、追っかけてやるぜ!このヤロウ!!










第二兵舎・実力テスト総合一位、ウォルト・ランス。
若干94歳にして、半切れ状態での私兵に志願する。