お前、それは反則だろう・・・ 今まで、色んな奴とそりが合わずに、一人部屋だったが、つい最近ルームメイトができた。 入ってきた奴は、最初こんな細くて小さくて、その上眼を疑うような美形で、本当に大丈夫なのかよと思ったが、訓練を始めていくにつれて、見た目じゃわからないと、本気で思った。 入舎の洗礼というべき、登攀訓練でひょいひょいと昇っていき、途中へばってる奴らに声をかけて励ましたり、手を貸したりしていたし、剣や体術の訓練でも、少々型は変わっていたが既に完璧な基礎を既に身に着けていて、ベテランの兵士二人を相手していた。 まったく、その体のどこにそんな力があるんだか。 最初こそ、距離があったが、きらきらと輝く瞳に、かわいらしい表情、そして、時折見せる鋭い表情に引き込まれて、俺はいつの間にかあだ名で呼ぶほど仲がよくなっていた。 「ザビー、お前なにしてんの?」 「馬に餌やりに。」 「・・・・・・干草に負けてるぞ?」 「・・・気のせいだ。」 体格がちまっこいザビーは運んできた干草に、微妙に負けていた。 腕力的には問題ないのだろうが、でかい干草の束に苦戦しているようだった。 「ほら、貸せよ。」 「うおっ!」 三分の一ほど受け取ると、驚いたザビーが眼を丸くしていた。 ああ、かわいいなぁ・・・ しかし、声には出さない。出したとたん『お前、目が疲れているのか?』と真剣に聞いてくるから。 「助かるよ。二回に分けようかとも思ったんだけど、めんどくてさ。」 「まぁ、確かに面倒くさいがな。 こんなときこそ、その無駄にいい頭を使えよ。」 「何それ?」 そんなやり取りを、普通にしていたが、10日ほど経つと、模擬戦が控えていた。 俺はてっきり同じ軍に配属されると思っていたため、別陣営―――しかも、圧倒的に不利な陣営にザビーが配属されて頭が真っ白になった。 なんとなく、漠然とずっとこのまま一緒だと思っていたのだ。 それが、根底から覆された。 「あ〜別れちゃったか〜〜」 「ザビー・・・」 「なんだよランス。辛気臭い顔して。」 あっけらかんと笑うザビーにその思いが俺だけのものだと知って、ちょっと、いや、かなりショックだった。 ああ、こいつは俺のことなんとも思っていないのか・・・ そう思ったが、ザビーはニヤリと笑うと、ばしっと頭をはたいてきた。 「でも、これで思う存分手合わせできるな!」 「は?」 「いや〜ほら、いつも一緒に行動してたから、相棒みたいな感じがしてさ、そんな奴と真剣に対決できるなんて面白そうじゃん?」 「・・・・・・・・・」 ああ、そうか、そういうことか。 相棒だと思ってくれていたわけか。 現金なことに、俺はその一言で回復すると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。 「お前、この人数差で勝てるとか思ってるわけ?」 「やってみねぇと分からないだろ?吠え面かくなよ?」 ニヤリと、意地の悪い笑みを返してきたザビーに俺はもう、明日が楽しみで仕方なくなっていた。 そして、運命の日、俺の目の前には艶然とした笑みを浮かべたザビーが立っていた。 背後から朝日を浴び、ザビー自身が輝いて見えるその姿に、俺は意識の遠くのほうで感嘆の声を上げていた。 ああ、コイツは戦いの神か? コイツになら、命を預けてついていける。 そして、降伏を告げながら、はっきりと決めた。 俺は、こいつに付いていこう。 力が及ぶ限り、こいつの為に剣を振るおう。と。 なのに・・・・ 「お前、それ反則だろう・・・・・・」 「いや〜悪いとは思ってたんだよ?」 へらりと笑ったザビーの髪はくすんだ赤ではなく、高貴な黒に染まっていた。 そして、目は水色から濃紺へ。 なんとこの男、噂で聞いていた魔王陛下の幼馴染だったと言うのだ。 それが分かった瞬間の周囲の様子は、それはもう滑稽だった。 教官は地べた這いずって謝るし、先輩方は膝をつくし、同輩たちは気絶するものさえいた。 かく言うおれも、一瞬頭を下げかけたが、本人が『必要ない』って言ったんで、そのままの態度でいることにしたのだ。 「それが悪いと思ってる態度かよ。」 「思ってるって。特に、ランスには悪いと思ってるよ・・・」 正体がばれてしまったため、城に戻るのだと言うことで、ザビー・・・いや、はせっせと荷物をまとめていた。 ・・・・・・普通、そういうことって、侍女がやってくれるんじゃないの? 「ランスには色々助けられたし、顔とか見た目で判断しないで、対等に付き合ってくれたろ? 本当にすごい感謝してるんだ。」 ・・・・・・耳が痛いな。 初めは思いっきり見た目で判断してたし。 むぎゅむぎゅと、小さいカバンに必要なものを詰めながら、は顔を曇らせる。 「だから、逆に騙してて申し訳なくてさ・・・」 俺はをどけると、はみ出しているカバンに無理やり荷物を詰め込んで、荷造りを手伝ってやる。 そして、用意が終わると、正面からに向きあい、頬に手を沿え・・・ むに。 「ぃひゃい!ひゃんひゅ、いひゃい、いひゃいから!!」 「な〜に馬鹿なこと言ってるんだよ。 お前がこの宿舎に入らなきゃ、俺とも知り合えなかったわけだろ〜? それとも何か?それと知り合いたくなかったとかぬかす気か?」 「わかっひゃ!わかっひゃから!」 引っ張った頬を離すと、は恨みがましい目で俺をねめつける。 まぁ、背がちっこいくせに、頬を押さえて上目遣いだから全く怖くはないけど。 「最後の最後にほっぺた引っ張られるとは思わなかった・・・」 「勝手に最後にしてんなよ。」 「へ?」 「俺、決めたから。」 お前についていく、お前の為に剣を振るうって。 だから・・・ 「ヴォルテール卿に私兵志願してみるわ。」 どこに行こうと、追っかけてやるぜ!このヤロウ!! 第二兵舎・実力テスト総合一位、ウォルト・ランス。 若干94歳にして、半切れ状態での私兵に志願する。 |