「今回の訓練を魔王陛下直々にご視察されることとなった!
くれぐれも、みっともない姿を見せるんじゃないぞ!!」
何してんだよっ!ユーリ!!
ついでにマのつくお手伝い!
12
「全軍撤退!!」
ドラが鳴ったと同時に、俺たちの軍は一歩も前進することなく、一気に森の中に逃げ込んだ。
相手の軍は魔王効果で士気が倍増、その上人数差からくる勝利への確信から、迷うことなく全軍で追跡をかけた。
が、
「ぎゃー!!」
「うわぁぁ!!」
「何だぁー!?」
「あぁぁぁっ!」
森に入った瞬間に沸き起こる悲鳴・悲鳴・悲鳴。
その絶叫を背後で聞きながら、俺はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「よし。あっさりと引っかかってくれたらしいな。」
「いや、あれに引っかからないほうがどうかしていると思いますけど・・・」
そうか?俺は昨日仕掛けた罠を思い出して、首をかしげる。
落とし穴に、ワイヤートラップ、狩に使うようなブービートラップ、丸太が振ってきたり、網で引き上げられる罠は勿論、巧妙に細工して見えなくした撒きびしを撒いた一帯があったり、二重トラップで一つのトラップをよけた予想着地点に仕掛けた罠までありとあらゆる罠を仕掛けておいた。
「けど、対人地雷や電気網は元々無いとしても、槍や弓矢が降ってくるってことは無いんだから、そんなに恐ろしくは無いと思うのだが。」
「・・・・・・いや、容赦ないと思いますよ?」
「でもまぁ、予想以上に人数が減ってくれそうで助かるよ。」
「・・・そうですね。」
それでも、ある程度頭がいい奴は追いつくだろう。
少なくとも、俺たちが走り抜ける分の安全路があるわけだから。
暫くそのまま進むと空を見上げて、時間を計る。そろそろペースを緩めるころだ。
「じゃぁ、そろそろペースを緩めようか。
追いついてきた奴らから、適当に叩いておいて?」
「了解です。」
安全路の途中でペースを落とすと、ちらほらと罠をかいくぐってきた奴らが単騎で突っ込んでくる。
いやいや、お前ら攻めて5〜6人の小隊でもつくって突っ込んでこいや。
人数が違うといっても、罠地獄でバラバラにされた相手は、あっさりと倒されていく。
そして、空が白み始めるころには、やっと纏まった人数がそろい陣形をとり始める。
その中にはランスの姿もあった。
「よー、ランス!やっぱりお前はは潜り抜けたか!」
「ザビーっ!お前だろ、あんな罠作りやがったの!!」
「あはは〜ご名答〜〜〜」
「潔く対決しやがれっ!このくそ策士!!」
「いや、それは無理。」
つかの間のルームメイトとの会話をスッパリ切り捨てると、また、全軍撤退の指示を出す。
いっせいにまた全力撤退を始めると、今度もまた全軍で追いかけてくる。
・・・・・・ねぇ、お前ら学習能力ってしってる?
猪突猛進してくる相手に苦笑を漏らしながら、森を走り抜けていくと、突然目の前が開けた。
「川だ。」
「ははっ!ザビー、この川は流れが速くて渡れないんだよ!!」
知ってるっての。
しかし、ここは俺。自前の演技力を最大に生かして、苦々しげな顔を浮かべる。
「新兵の俺が知ってるわけねぇっつの!!
仕方ない!川沿いに進め!!」
隣の兵士が、何かもの言いたげな顔をしているが、すっぱりと無視。
敵を煽るためなら、演技も有効なんだよ!
そして、川に沿って右に進むと、S字にカーブした部分へとついた。
「ザビエルさん、あそこに物見台がっ!」
「うわ、もしかして魔王陛下のお膝元で決戦かよ。」
「そうなりますね。」
「・・・好都合だ。」
「へ?」
川の対岸に物見台を見つけてニヤリとすると、川が窪んで少し開けたところで立ち止まる。
「皆っ!魔王陛下の御前だっ!正々堂々といくぞ!!」
「そうこなくっちゃ!!」
声を張り上げ、両軍の士気を高めると、四角い方陣の形をとる。
相手はざっと350、こっちは150。
力と力の正面衝突になった以上、段々と押されていく。
「ザビーっ!手合わせ願うぜ!!」
「何で俺なんだよ!他当たれ!!」
切り込んできたランスに、答えながらも、剣で弾いていく。
一撃一撃が重く、剣を持つ手がしびれそうだ。
ウェイトでは絶対に勝てるわけが無いから、ひょいひょい避けながら、こちらを向いていない周囲の兵士を倒していく。
「お前っ!実は実力試験で手を抜いてたんじゃないのか!?」
「失礼だなっ!手を抜いてたんじゃなくて、思う存分戦えなかったんだよ!!」
実力試験は一対一のトーナメント戦。
残念ながら、俺はルール無用の一対多数の方が得意だ。
嬉しそうに「予想外だ」と笑うランスに苦笑しながら、ジリジリと後退していく。
そして、その場所にきたと思った瞬間、俺は体を折って首から下げていた笛を咥える。
ピーーーっ!
甲高い音が響き渡ると、左翼が一気に前進、右翼が一気に後退し始めた。
その動きを、ランスは大きく間合いを取って眺める。
へぇ、流石ランス。冷静に笛が何かの合図だと気づいて周りを見てるよ。
「何だ・・・?」
「まだまだぁ!!」
大きく引いたランスを負って、周囲の兵を薙ぎ倒しつつ、左から切り込む。
先ほど以上に猛烈な攻撃を仕掛けながら、どんどん川岸へ追い詰めていく。
しかし、そこは剣術一位、鍔迫り合いに持っていかれて、動きが取れなくなる。
「ザビー、何考えてるんだ?」
「よく見ろよ、俺達の動きをさ。」
「何?」
そう言われて、その状態のまま左右に目を走らせたランスの目が、左で止まった。
「お前、馬鹿か!?」
「トリッキーと言って欲しいね。」
俺たちの左翼・・・つまり、彼らの軍の後ろから、新たな一軍が現れたのだ。
「ただでさえ少ない軍を二手に分けるなんて、馬鹿としか言いようが無いだろう!?」
「罠に二次部隊の排除。保険はかけたさ。」
「・・・・・・その為の罠か!」
そう、後ろから来た隊とは、最初の森のトラップで別れている。
彼らは、森の中でトラップに引っかかったやつらと、それを助けようと残った奴らを叩き潰してもらった。
別動隊はその為に、ゲリラ戦が得意な先輩方に任せてある。
本当は、俺もゲリラ戦に混ざりたかったんだけど、お前は目立つから駄目だって、はぶかれたんだよね〜。畜生。
「それに、元々少ない人数だ。多少減ってても、気にしないだろう?」
「・・・だが、まだ俺たちのほうが勝ってるぜ?」
「絶対数が、だろう?背後とか、周囲をもっとよく見ろよ。」
そういうと、つば競り合いを離して、間合いの外に出る。
こちらも、今度は追う事はせずに、周囲の兵を減らしていく。
すると、背後を見たランスは、固まった。
「・・・・・・戦えてねぇ。」
そう、ランスたちの軍は、笛の合図で後続部隊が後ろから、左右翼がそれぞれ動き、S字の凹んだ部分に押し込められていた。
「ランスが言ったとおり、川は急流。歩いて渡れないよ。」
「はめられたってことか・・・」
「そう、つまり・・・」
周囲の兵士もその状況に気づき始め、戦意を失っていくのを見て、ランスに剣を向ける。
「チェックメイト。」
タイミングよく昇った朝日を背中で浴びながら、うっすらと微笑み、勝利の宣言をした。
戦術は、封神演義のパクリ・・・
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