売られた喧嘩は買ってでもしろって言ってみたり。




ついでにマのつくお手伝い!
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女装で見事にグウェンダルから許可をもぎ取り、兵舎に入り始めてはや10日。
何だか最近周囲が騒がしいです。


「ザビエル!一緒に柔軟体操しないか!?」
「いやいや、俺と一緒に外周を走ろうぜ!」
「こんな奴ら放っておいて、俺と剣の手入れでもしてよう。」


・・・・・・・お前ら、全員男だよな?
ちなみに、偽名はフランシスコ・ザビエル
呼ばれた瞬間に反応できる名前、と考えたらこれだった。俺が生涯で一番初めに覚えた歴史上の外人さんだ。
最初は名前を呼ばれるたびに、笑いをこらえるので必死だったが今では『ザビー』とかいうあだ名までついている。
とはいえ、さすがにあの芸術的な頭や外見を真似する気になれず、髪を臙脂色にして、薄い水色の目。
少々色を抑えて目立たなくしたはずなのだが・・・効果はあまりなかったらしい。
内心、溜息をつきつつ、外面だけは繕う。


「ごめん、ランスまたせてるから。」


そう一言告げると、固まった奴らが解凍される前にダッシュで逃げる。
食堂を出ると、入り口の影に腕を組んで寄りかかってる奴がいた。


「相変わらずの人気だな、ザビー。」
「男にモテても嬉しくはないな。」


まぁ、嫌われていないだけ良いのかもしれないけど。
ランスは苦笑すると、頭をバシッと叩く。
彼は俺の同室で、周囲とは違い普通の友人として接してきてくれるため、何かと助かっていた。
まぁ、ただ、ああいう場面では見事なほどに傍観を決め込むので、俺自身で切り抜ける以外にないのだが。
並んで今日最初の授業に向かいながら、訓練の話や教官の話をしていると、自然と明日の模擬戦の話になった。


「明日の模擬戦はどうなるんだろうな。」
「面子を見てみないと、何も仕様がないけど、多分力が均等になるように配属されるんじゃないか?」
「・・・・・・ランスが配属される時点で、均等とか無理な気がするんだが。」


先日の実力テストでダントツトップの力を誇っていたのは、何を隠そうこのランスだった。
体力・持久力・剣術・馬術その全てで群を抜いていた。


「お前にだけは言われたくないぞ。
 戦略・戦術・弓・機動力は先輩抑えてダントツだったじゃないか。」
「あ〜〜、それはねぇ・・・」


士官学校でも行けば?と呆れていたが、実はそれには裏がある。
弓は中高とやっていた。
そして、戦術・戦略・機動力は母の攻撃をかわす為に、
生きるために必要だったのだ。
ああ、思い出すあの熾烈な日々。ドアノブに20万ヴォルトの電圧が仕掛けてあったのを発見したときは、マジで殺されるかと思ったなぁ・・・
遠い目をして過去を懐かしんでいるのに気づかず、ランスはそれに・・・・と続ける。


「それになぁ、お前が入ったら、絶対に士気が違うと思うんだよなぁ・・・」
「そうかぁ?単なる新兵の一人や二人で士気が変わるわけないだろう。」
「お前・・・本っっっ当に分かってないなぁ・・・」


心底呆れた、と言いたげに溜息をつくと、外に出る。
何がだよと、突っ込みたかったが、掲示版の前に人だかりが出来ていたため、自然と二人してそちらへ足が向いていた。


「おいおい、これマジかよ・・・」
「初めてじゃないか?こんな組み分けって・・・」
「何考えてんだ?上官達は・・・」
「ありえねぇ・・・」


ざわつく皆に、俺とラインも不審そうに顔を見合わせると、張り紙が見える位置に移動する。


「うわ、何これ・・・」
「上官達も思い切ったことしたなぁ・・・」


そこに書いてあったのは、俺を含めた150名の名前。
そして、隣にいたランスの名前はなかったが、ただ一言添えてあった。


「『左記の者以外、500名を黒組みとする』って、名前すら書かれてないし・・・」
「書くのめんどくさくなったんじゃないか?」


そう、150対500。桁が違わないだけ感謝すべきなのか、ちょっと微妙だ。
ランスが投げやりに言うのも分かる。
しかも、メンバーを見ると、遠・中・近距離と騎馬力も平均的に備わっているが、まぁまぁのレベルの者ばかり。
主要・強力・戦力と言われている、いわゆる強い人はあまりいない。
これじゃぁ、まるで・・・


「これじゃぁ、勝てるわけない・・・」


誰かが、ぼそりと呟いた言葉が、やけに響いていた。



























その日の夕方、俺は使われていない室内訓練場にいた。
そこには、俺と同じように集められた、明日の模擬戦の仲間が集まっている。
恒例らしい模擬戦の打ち合わせだ。
しかし・・・・・・


「今回、このような組み分けになってしまった以上、最早敗北は免れないと思う。
だから、皆出来うる限り負傷者を出さないように・・・・」


とか何とか。
先ほど続くセンパイの言葉に俺はウンザリし始めていた。
勝てない?
敗北は免れない?
怪我をしないように大人しく?
適度なころに撤退を?


「・・・フザケンナ。」
「何だ?」
「ふざけんじゃねぇっつったんだよ!!!」


すくっと立ち上がると、ヅカヅカと先輩の下に歩いていき、センパイの胸倉を掴み上げる。


「勝てない?人数の差だけで勝てないとか決め付けるなよ!
 怪我をしないように?だったら最初っから兵士になろうとなんざ思うんじゃねぇ!
 適度なころに撤退を?尻尾巻いて逃げろなんてよく部下にいえるな!?
 作戦も練らずに、皆の気力削ぐようなこと言ってんじゃねぇ!!」


諦めるな。
常に次の手を考えろ。
生き汚くなれ。
俺が16年で母親から徹底的に叩き込まれた根幹だ。


「確かに、戦力は負けてる。
 人員も強力な人間ばかりじゃない。」


地を踏みしめ、ずらっと並んだ顔を見渡す。
不安、緊張、迷い、そうった感情がある。


「でも、逆にここにいるのは中堅どころばかりだ。
 人数が少ないから、作戦が隅々まで浸透する。」


しかし、誰の顔にも絶望感だけは浮かんでいなかった。
諦めてないなら、まだ、戦える。


「当代の魔王陛下は平和を望んでおられる。
 それって、俺たちを戦いで死なせたくないからだろう?
 だったら、俺たちも現実的な武力から陛下をお守りしなくてどうする。
 500対150が何だ。人間の地に平和交渉に向かったら、こんなもんじゃ済まない。
 このくらいの差を跳ね返してやらなきゃ、この国の兵士だって胸張っていえるかってんだよ!」


俯いた顔が段々と上がっていき、最後には失われていた士気が戻ってくる。


「そうだ・・・この程度の差なんて、有り得ることじゃないか・・・」
「向こう側の奴ら、どうせ負けるんだから棄権しろとかいいやがって・・・!」
「馬鹿にしてんのか、単に150人の中に選ばれなかっただけじゃないか。」
「そうだよ、やる前から負けてたまるか!」


皆の口から次々のと出てくる言葉に、ニヤリと笑うと、胸倉を掴まれていた先輩に目配せをする。


「じゃぁ、どうするんだ?」


士気が十分高まったところで、先輩の一声がかかった。
周囲は期待の目で俺のほうを向く。
・・・・・・まぁ、大見得切ったんだから、考えがあると思うのは普通だけど・・・


「作戦を練るんですよ。
 でも、元手がなくちゃどうしようもないですからね。
 まずは情報収集です。」


驚くような作戦を立ててやろうじゃないですか。