最近何故だか周囲の目線が痛い。 ・・・・・・目線を感じる。 またか、と思ってそちらを向くと、お茶を運んできたメイドがいたが、慌てて部屋を出て行ってしまった。 自然と眉間に力が入ってしまうのを感じながら、ため息をついてペンを動かす。 最近、いやにこの手の反応が多い気がするのだが、気のせいではあるまい。 きっとまた、陛下トトか何とかだろうと、適当に想像して無理やり納得すると、大きな音を立てて扉が開いた。 「グウェンダル〜〜〜!」 「・・・・・・・・・・」 魔王が慌てた姿を晒すんじゃない、と言いたいが、その表情に言葉を抑えた。 明るくクルクルとよく表情を変える小僧にしては、怒りの形相だ。 しかも、その怒りは私に向いているらしい。 羊突猛進してきたユーリは机越しに胸倉をつかんできた。 「どういうことだ!?グウェンダル!!」 「何がだ。」 身長の関係で上目遣いになっているため、全く恐ろしくもなんともない。 あっさりと返事をすると、更に怒りのヴォルテージが上がったのか、顔を真っ赤にして叫んできた。 「のことは遊びだったのかよ!?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・は?」 呆気にとられる私を放っておいて、ユーリはいつものごとく怒涛の勢いでしゃべり出す。 「こないだの美人部下のラインさん、グウェンダルの彼女なんだって!?何で彼女がいるのに、に伏せて婚約したんだよ!しかも、彼女が現れた途端に、は兵舎に入っちゃうし!もしかして、が邪魔だったから兵舎に入れたりしたんじゃないだろうな!? もしそうなら、そんないい加減な奴には、ウチのはあげません!」 お前は保護者か。 突っ込みたかったが、一瞬言葉も出なかった。 絶句しているうちに、陛下の後を追ってきたらしいコンラートが、『ほらほら、離れてくださいね』とユーリを引き剥がしていた。 「ちょっと待て」 「何だよ!?」 「何か勘違いをしてるんじゃないのか?」 いや、何かどころか、どこもかしこもな気がしないでもなかったが、明確に考えるのも面倒くさくなって、考えるのをやめた。 「が兵舎に入ったのは本人の希望だ。」 「どうして・・・」 「あいつなりに、身の振り方を真剣に考えた結果だ。」 そう告げると、陛下も多少頭が冷えてきたのか、むっとした表情のまま、静かに聴いてくる。 「じゃぁ、あのラインっていう美人部下は?」 「・・・・・・」 何と言えばいいのだろうか。 とは取り合えずとはいえ、婚約はしているし、部下でもない。 しかし、ユーリが言っているのは女装したを指している。 中身が同じだとはいえ、『部下ではない』『婚約はしている』と答えてもいいものか・・・ ぐるぐると迷っていると、ユーリは無言の肯定と取ったのか、また怒り出す。 「グウェンダルはラインと付き合ってるの!?付き合ってないの!?」 また詰め寄ろうとしたユーリを、コンラートが後ろから抱かかえる。 ・・・どさくさに紛れて何をしているんだ、コンラート。 「まぁまぁ、陛下落ちついて。」 「落ちついていられるかっ!幼馴染が弄ばれそうになっているのにっ! っていうか、陛下って呼ぶな名付け親!!」 「すみませんユーリ。 でも、大丈夫ですよ。は弄ばれてなんていませんから。」 何故だろう、その後に『グウェンダルにそんな甲斐性はありませんから』と聞こえるのは。 「でも、ヴォルフとかメイドさんたちも、ラインさんと仲が良すぎるってっ!」 「あはは、それはそうですよ。ラインはですから。」 「どこが問題なんだよ!?ラインがだって・・・って、あれ?」 「何故知ってる、コンラート」 あっさりと爆弾発言をしたコンラートに思わず聞いていた。 あの時、お前は気づいていなかったはずでは? 「ああ、後からに聞いてね?」 「・・・・・・」 何で聞いたのに疑問形なのだ。 ・・・・・・、もしかして脅迫されたのか? しかし、の幼馴染は全く気づくことなく、ぱくぱくと口を動かしている。 「ラインさんがって、え?何、あいつ女装してたの!?」 「ええ。グウェンダルも、最初から説明して差し上げれがいいのに。」 そういえば、そこから説明すれば問題がなかったのか。 思った以上に混乱していた自分を自覚すると、顔をしかめる。 コンラートはそんな私の内心を知ってるかのように面白そうに微笑むと 「グウェンが噂を放置してたから、ラインが付き合ってるってことになってるよ?」 お前が放置しておいたんだろうが!! 叫びたかったが、この弟に通じるとは思えなくて、痛む胃を押さえながら溜息をつくしか出来なかった。 ・・・・・・ああ、陛下の誤解を解いたら、が帰ってくる前に城内の誤解を解かねば。 魔族ちょっと似てるかも三兄弟の長男、グウェンダル。 何故だか彼のところには、苦労が持参金を持ってやってくる。 |