生まれてこの方15年
俺、何か悪い事いたしましたでせうか?





ついでにマのつくお手伝い!





突然ですが、俺は地球上で一番凄い不思議体験をしていると思います。
いつもの如く学校で部活を行い、衛生上少々不安がある外の流しで手を洗っていたところ、いきなり水道の蛇口に吸い込まれてしまい、目が覚めたら突き抜けるような青空が広がっていたというわけ。
何を突き抜けるのかは分からないけど。


「貧血か?そんな俺、弱っちく無いと思ったんだけどなぁ・・・」


水道の水で濡れたのか、顔に張り付いた髪を掻き揚げつつ、上半身を起こすと取りあえず周囲を見渡す。


「・・・此処は何処?俺は誰?」


いや、自分が誰なのかは分かっているけど。
思わず呟いてしまったのは愛嬌としても、実際周囲の景色が少々おかしかった。

青い空(これは問題ない)
青い山々(実際は青ではなく緑だが、特に問題はない)
西洋風の家々(此処がヨーロッパなら問題ない)
色とりどりの髪の色をした外人さん

いや、あの、金・銀・赤茶・灰色とかは分かりますけど、緑(原色)とかドピンクとか、染めたにしろ、その趣味はどうかと思うのですが?
しかも、日本人の顔立ちしてるやついねーし。


「・・・・・・アトラクション?」


俺、そんなものに参加した覚えないんですけど?
っていうか、何で皆さん驚愕した顔で俺を遠巻きに見ているんですか?
なんだか珍獣扱いされている気がしなくもない。
格好がおかしいのかと思って、服を見ると何となく納得した。

黒い袴に白い胴着。
弓道特有の胸当てに篭手。

ザ・和風!って感じのこの姿は確かにこの風景からすると浮きすぎている。


「いや、まて。此処は日本だろう!?
 ってことは、風景の方が間違ってるんだ!!!」


危ない危ない。周囲に流されるところだったぜ。
まぁ、現代日本でも弓道の格好をしたまま歩けば当然注目されるが。
すると、周囲で遠巻きにできていた人だかりが二つに割れ、全体的に焦げ茶なイメージのイケメンさんがでてきた。
うはーすげぇ。ハリウッドスターもどきがいるよ。


「ダンケシューンカ?」
「・・・・・・なんちゃって独逸語?」


ダンケって、ドイツ語だよね?
俺の反応にハリウッドのイケメンさん(推定)が少し眉を顰めた。
あ。右眉の端に傷跡発見。昔やんちゃだったのかな?


「Can you understand what I say ?(俺の言っていること理解できる?)」


なんだ。英語喋れるんじゃん。


「Yes.(はい)」
「Would you tell me your name?(お名前を教えてください)」
「My name is .( です。)」
「Why do you come here?(何故此処に来たのですか?)」
「・・・Sorry,I don't know.(すみません。分からないです)」


そう言うと、こげ茶のイケメンさんは黙ってしまった。
暫く何か迷っていたようだが、再び顔を上げると真剣な表情で尋ねてきた。


「Do you know Yuuri Sibuya?(渋谷有利を知っていますか?)」
「・・・・・・Yes.(はい)」


漢字変換までバッチリだよ畜生。
何でこんな所で親友の名前を聞く事になるんだ!!
答えてくれよ渋谷有利原宿不利恵比寿不便利さんよぉ!!!


「How relation whit him?(彼とはどのような関係ですか?)」
「・・・My best friend?(親友?)」
「・・・・・・」


いや、あの、疑問系は勘弁してくださいよ。
だって親友というより幼馴染だけど、単語が分からないんだよ!
引き攣った笑いを浮かべる俺に、なんだか察しがついたのだろう。
イケメンさんは俺に手を差し伸べると、にこやかに笑った。


「“Shall we dance?”」
「・・・No.」


思わず彼のポーズに、最近リメイクされた映画のタイトルが浮かんでしまった。
いや、絶対紳士のお誘いに見えるから。顔良いから余計に。
そんなボケた俺に、彼は怒るでもなく笑った顔を苦笑に変えただけで、改めて誘いなおしてくれた。


「Would you come with me?(俺と来てくれませんか?)」
「・・・Of course.(勿論)」


ああ、本当に勿論だとも。
喜んでついて行くさ。
きっと貴方は信用できる。そう思えるから。

差し出された手を握り、起き上がる。
彼はニッコリと笑うと、そのまま手を繋いで周囲に声をかけて道を明けてくれた。
でも、その言葉は俺には理解できなくて、聞き覚えもなかったことに今更気付いて戸惑った。
それを感じ取ったのだろうか、一瞬彼が握る手に力が込められた気がした。
嗚呼、やはりこの人は信用できる。
輪を抜けると少しはなれたところに馬が繋がれていて、これに乗ってどこかに行くらしい。
先に乗った彼の手を掴み返しながら少し迷って声を書ける。


「・・・Can I ask any question?(いくつか質問してもいい?)」
「・・・Yes.」


彼も大体予想が出来ているのだろう、返事が真剣だった。
彼の前に乗せてもらい、表情を見ることができなかったが、こちらの顔も見えないはずだ。
それが今の俺にとって少々有り難かった。
きっと俺は今、とても情けない顔しているだろうから。


「Is this place the earth?(此処は地球?)」
「No.here is ・・・(いいえ。此処は・・・)」


目が覚めてからのいくつかの場面がフラッシュバックする。
日本にない街並み、変わった髪の外人、聞いたこともない言葉、馬での移動、腰に下げた剣・・・・


「another world.(異世界です。)」
「・・・・・・Thanks.」


はっきり言ってくれて、気遣ってくれて、導いてくれてありがとう。
ショックだが、まぁ大丈夫だ。
この人はきっと信用できるし、言葉も何とか通じている。
それに、わが悪友のユーリも知っているらしい。
大丈夫だ。きっとなんとかなる。
そう自分の中でケジメをつけると、手綱を握った背後の人物を見上げる。


「I have one more question.(もう一つ疑問があるんだ)」
「?」


不思議そうに首を傾げる彼。
その仕草がおかしくて笑いながら最後の質問をする。


「Please tell me your name?(貴方の名前を聞かせてよ?)」
「My name is Conrat Weller.(コンラート・ウェラーですよ。)」
「My best regards ,Mr.Weller.(こちらこそ宜しく、ウェラーさん)」


。異世界でも何とかやっていけそうです。