懐かしい感覚
それは俺に何をもたらすのかは分からない
だけど
継いだ人間に何をもたらすかは知っている
出来れば二度と感じたくは無かった
―――――――Make your determination―――――――
砦が落とされて二日。ビクトールとフリック一緒にはミューズに来ていた。
三人は同じく逃げ延びていたレオナの経営する紅葉亭に集まっていた。
そこには既にリキマルやツァイなども集まってきている。
だが、やジョウイ、ナナミの姿は見ていない。
来た人間に必ず聞くが、誰も姿を見ていないようだった。
は少し不安になったが、もしかしたらミューズの位置が分らないのではと考えた。
死んでいるとは考えられないから。
「そういえば、ビクトールさん。」
「なんだ?。」
「達って通行書持ってないんじゃないんですか?」
「・・・・・・あ。」
昼間っからやる事がないため、ビクトールは紅葉亭で酒を飲んでいた。
は日課になりつつある関所への探しから一旦戻ると、今日見た関所での疑問を早速聞いてみた。
ミューズは今日から通行書がなくては通れなくなっている。
ハイランドの人間であるたちキャロっ子三人組や、村を焼かれてしまったピリカが通行書をもっているとは考えにくい。
いや、絶対に持っていない。
「『あ。』って・・・
どうするんですか?たち入れないじゃないですか・・・・・・」
「あ〜〜アナベルに言ってもし似たようなやつが捕まったら教えてもらうようにするさ。」
「捕まえたらって・・・仕方ないですけどね。」
は昼食をとるためにビクトールと同じテーブルに着き、レオナに軽い食事を頼む。
食事が来るまでの間はビクトールと、仲間探しから帰ってきたフリックと他愛無い話をしていた。
その時急にそれは来た。
はいきなり意識を何かに引っ張られるように感覚が引いていった。
平衡感覚もなくなり、テーブルに倒れこんでしまう。
「・・・・・・・・・!!!」
「・・・・・・・・・・・!!!!!!」
慌てたフリックやビクトールの声が聞こえるが、何を言っているのか理解できない。
段々と現実から意識が剥ぎ取られていく。
そして此処ではない何処かへと意識だけが飛ばされる。
不思議な、言葉で言い尽くせないような感覚。それがを支配する。
だが、はこれが何なのか知っていた。
(最近では三年前・・・随分とサイクルが短くなったな・・・・・・)
そんな事を他人事のように考えると、感覚が無いまま映像だけが頭に直接流れ込んでくる。
その映像は何処かの洞窟のようだった。
見知った顔が三つと、良く知っている紋章が二つあった。
(とジョウイ、それにレックナート!?しかもアレは始まりの紋章じゃないか!!)
はその状況に愕然とした。
二人は正に目の前にある紋章を手に入れようとしていたのだ。
『少年たちよ、考え、そして決めなさい。紋章の力は貴方たちに平穏を与えてはくれません。しかし、荒れ狂う運命は多くの人を傷付けるでしょう。貴方たちがそれを鎮めたいと望むなら、この奥にある紋章の前に立ち、右手をかざしなさい。紋章の力が、運命を切り開く力を与えてくれるでしょう・・・・・・・・・・・・しかし、その力を欲しないのなら、貴方たちを元の世界の戻しましょう・・・・・・・・・・・』
『紋章、真の紋章の力が・・・・・・・・・
、真の紋章を宿した者は、大いなる力と不老の体を与えられるんだ。
不老なんてどうでもいいけど、僕らに紋章の力があれば・・・・・・・・・』
(違う!!紋章の力は君たちを苦しめる!!レックナートも大事なところを語らないで騙す様な形で紋章を継がせるんじゃない!!)
は直ぐにでも紋章を継がせるのをやめさせたかった。
紋章は不老の他にも呪いがある。
それをレックナートは話していない。
全てを教えずに導くのは詐欺と同じだと叫びたかった。
だが、レックナートを責める事はも出来ない。彼女も紋章に振り回されて生きている。
今回の事もバランスの執行者としての発言だ。きちんと言える範囲での苦難も告げている。
それに此処からだとレックナートにもにもジョウイにも声は届かない。
何も伝えられない。
そのような決まりだったから。
結局は二人の判断に委ねるしかなかった。
は少し迷っているようだった。
どうやら平穏には暮らせないというフレーズが引っかかっているようだった。
だが、そのをジョウイが説得する。
『僕には力が必要だ。僕には守りたい人たちがいる。、ナナミ、ピリカ、母さん・・・・・・。そして僕の知る多くの優しい人々を守るために。』
(ジョウイ・・・力だけでは守れないんだ・・・むしろ力はその守りたい人を苦しめてしまいねない・・・
それを知った上でも君はそう言うのだろうか・・・)
『分ったようジョウイ。紋章を、力を得よう。ルカ・ブライトの手から、僕らの大切な人たちを守るために!!』
(・・・ジョウイも君たちは優しすぎる。大事なものを守っていくには辛い事もあるんだ。
それに君たちは耐えられるのだろうか・・・)
洞窟の奥へと進んでいく二人を見ながら、は悲しいような寂しいような気持ちになる。
彼らが進む道にはきっと此れから予想もしていなかった困難と、苦痛が待っている。
それは紋章のせいでも、宿星のせいでもない。
全ては二人の、この世界に生きている全ての人の判断によるもの。
だから・・・
『?いくよ!!』
『いいよ、ジョウイ!!』
二人は紋章に右手を伸ばすと、眩い光があふれ出す。
本当なら目も開けられ無いような光の中で、は悲しく、懐かしくその光の中央を眺めていた。
その中には一瞬だが人影が見えて気がした。
人影はに軽く一礼すると、二人の右手へと姿を消してしまった。
その様子をまた現実へと感覚を戻されていく中で見たは祈るように、願うように思う。
(たとえどんな事が起こっても、その決意を忘れないで。
どんな困難な事が起こっても、絶望しないで。
継いだのは意思。
道を選んだのは自分。
運命とか、宿星なんて関係ない。
そんなちんけな言葉に惑わされないで。
全ては君たちの選んで道なのだから・・・・・・)
□■□あとがきという言い訳□■□
とうとう二人が紋章を継いでしまいました。
水谷としては紋章を継いで、此れから二人に精神的に大きく成長して欲しいと願っています。
ですが、ドリ主は大事なものを守ろうとして守れなかった人間なので、結構紋章を継がせるのを嫌がっています。
それも水谷の本心の一つなのですが。
ちなみに今回からのタイトルは『Make your determination』です。
意味的には『覚悟を決めろ!!』って感じ。
ただ、水谷は一番英語が苦手なので、信じないでください。
次回は『ミューズでフリックさんたちと大騒ぎ』の予定。
お楽しみに!!
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