星たちが動き出すほんの少し前

僅かな時が流れる

それはあまりにも幸福で

それはあまりにも儚いモノだった

後から考えれば

これは最後の休息だったのかもしれない


――――――――Last Rest―――――――――



現在たち四人組は全力疾走していた。

別に競争をしているわけではない。

もしも競争であれば背後から『ギオオォォォォォ!!』という声は聞こえないし、ましてや視界の悪い森の中で走るわけが無い。

理由は至極簡単だった。

武器を置いてきてしまい、さらにはフリックたちと離れてしまったからだ。

いわゆるアレである。

『お馬鹿な迷子。』

・・・・・・・・・・・・・なんとも情けない話である。



「くっそ!!武器さえあればあんなヤツ!!」

「無い物ねだりだよそりゃ!!」



ジョウイとのやり取りを聞きながら、ナナミは必死に走る。

もう一人の男も無言だが、明らかに余裕が見て取れ、表情は朗らかに笑っている。



「何がそんなに楽しいんですか貴方は!!」

「いや〜体動かすのって久しぶりだからさぁ。」

「久しぶりって、砦の人間でしょ?」

「そうなんだけどね。日がな一日机で書類と格闘してたから、外に出るのも久しぶりでさぁ、何だか新鮮な気分。」

「「「・・・・・・・・・」」」



そういって笑うに『こんな人間が俺たちを助けに来たのか』という思いがいっぱいになる。

と、いきなりは立ち止まると、腰の剣をスラリと抜き、迫ってくるモンスターへぴたりと向けた。その表情は先ほどと打って変わって凛としたもので,

気高さを感じさせる。

構えにも隙がなく闘志が十分に満ちていた。



「・・・・・・・」



何も言わずに襲ってくるモンスターを、次々と切り伏せていく。

その動きは洗練されていて、まったく無駄がなく、舞っているようで三人の目を惹きつけた。

その姿に三人とも無言で、最後の一頭が倒されて彼が戻ってくるまで呆然と見惚れていた。



「どうした?さっきっからボーっとしてるけど?」

「いっ、いや。ただ、戦えるなら最初っからそうしていてくれたらよかったのにって。」

「そうだよ。何で戦えるって黙ってたの?」



声をかけられ、少しまごつきながらも不貞腐れたようにとナナミが言う。

ジョウイも黙ったままであるが同じのようだ。

は苦笑すると困ったように



「可愛い子には旅をさせろって言うだろ?
 それにさっきまで縛られていて、運動不足だったんじゃないかなと思ってさ。
 もうだるくないだろ?」



『足』と、指を指して笑う。

は驚いていた。助けてもらった時からなんとなく足がだるくて、思うように動けなかったのだ。しかし、フリックたちの足手まといになるわけにもいかず、何も言わずいつも通り振舞っていたのに。だが、あっさりと目の前の彼には見抜かれていたのだ。

ジョウイとナナミも同様に驚いていた。

は笑うと、少し悪戯っぽく笑うとこう付け足してきた。



「実は俺も少し鈍っててね。少し走りたかったんだ」



そういうと、三人は顔を見合わせると、くすくすと笑い出す。

それにつられるようにも笑い出す。



「そういやまだ名乗ってなかったよな。
 俺はだよ。よろしく。」

「僕は。こっちが姉のナナミで、こっちが親友のジョウイ。」

「よろしくさん。」

「よろしくね!」



ひとしきり笑うと改めて名乗り、握手を交わす。

は『呼び捨てでかまわない』というと、三人を誘導する。



「こっちだ。」

「こっちだって・・・何が?」

「フリックさんたちだよ。多分こっちにいる。」

「なんでわかるの?」

「秘密だよ」



もっともな問に、は何を考えているのか分からない笑顔で答える。

だが、自信たっぷりにこっちだというので、ついていってみる。もともと迷っているんだからとも諦め半分でついていくが・・・・



「おい!!どこいってたんだ!」

「え!?」



いきなり視界が晴れたと思ったら、フリックとビクトールがいた。



「うそ・・・・本当にいた・・・・」

「何だよ人を幽霊のように言いやがって。どれだけ心配したと思ってんだよ?」

「あ・・・ごめんなさい。」

「あんまり責めないでよ。ダイジョブだって。俺もついてたんですから。」

「あのなぁ、だったら最初っから迷うなよ。」

「いいじゃないの。みんな無事だったんだし結果オーライ。
 ついでに運動不足解消になったんですし。」



はその言葉に何か引っかかるものを感じた。

頭の後ろで手を組んで笑っているを眺めながら思わず突っ込む。



「それって、運動不足解消の為にわざと迷ったってこと?」

「うん。」



爆弾投下。

は何の表情の変化も見せない。涼しい顔で笑っている。

だが、フリックとビクトールは猛然とに言い寄る。相当頭にきたらしい。何とか怒りを静めようとしているのか、が笑いながらなだめている。

その様子をジョウイとはどこかぼんやり、遠くのことのように見守っている。



「なぁ、。本来なら止めてあげるべきなんだろうね・・・・」

「そうだねジョウイ。でも僕たちを気遣ってくれたとはいえ、走り回されたのはムカつくよね。」

「それもそうだね。」



そんなやり取りをしているなんて気づいていないその他四人。

ジョウイとが腹黒い話をしているうちに、ナナミが事情を話してどうにか収まっていた。

さんざん二人に説教を食らったは、不満そうに文句を言う。



「大体二人とも俺を書類から解放してくれないのが悪いんじゃないんですか。」

「分かった分かった。帰ったら毎日相手してやるさ。」



ビクトールは痛いところをつかれて、仕方なさそうにそう言う。

は待ってましたとばかりに、にやっと笑う。



「フフフフフ・・・・言っちゃいましたねビクトールさん?」

「な、なんだよ!?」

「いいえ。ただ毎日剣の相手してくれるんですよね?」

「あぁ・・・?」

「すっごいねビクトールさん!!」

「ナナミ?」



横からナナミが尊敬の眼差しでビクトールを見上げている。

フリックも何だか分からずに、きょとんとしている。



「だって、君って、すっごい強いんだよ!!そんな君を毎日でも相手できるなんてすっごく強いんだね!ビクトールさんって!!」

「え!?そんなに強いのか?」

「うん!!」



とジョウイも慌てるビクトールを見て、獲物を発見!と思うと、いきなり爽やかな笑顔で話しに入っていく。



「ええ!そうなんですよ!君ったら一人で見たこともない大きなモンスターを六体もあっという間に倒しちゃったんですよ!!」

「剣だけで倒しちゃって、しかも剣捌きに無駄がなくて思わず見惚れちゃったくらいです!!」

『剣を扱うんだったら君みたいになりたいです!!』



お見事としか言いようがない腹黒い幼馴染のハモリ。

さらには純粋そうな笑顔いっぱいにの武勇伝を語る。

信用度はもちろん効果も抜群で、ビクトールの顔色はどんどん青ざめていく。

だが、その表情がいけなかった。



「もちろんビクトールは強いぞ〜
 毎日だって相手してくれるし、砦の隊長なんだから、俺なんて足元にも及ばないさ〜」



ビクトールの情けない表情に悪戯心をくすぐられたのか、たちにビクトールの強さを語りだす。

語られている本人といえば青ざめダラダラと汗を流している。

今の季節は夏ではない。無論汗は気温のせいではないだろう。



「〜〜〜〜っ!フリック!!」

「俺は知らんぞ。お前が相手してやるといったんだからな。」

「相棒だろ!?」

「それとこれは別だ。」



その様子を見ていた幼馴染二人はにっこりとフリックにも笑いかける。

二人とも顔は整っていて笑みは美しいはずなのだが、オーラが恐ろしいせいか、そこはかとなく嫌な感じがする。

(話し掛けたら負けだ!!)

嫌な空気に耐えつつも今話しかけたら碌な事にはならない。

とはいえ・・・・・・・



ニコニコニコ・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・(汗)」

ニコニコニコニコニコニコ・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・(滝汗)」



とジョウイは何も言わず、ずっとフリックを見て笑っている。

フリックは元々人を無視し続けたり、受け流すということが苦手で、更にそんなに神経は図太くはない。

そして遂には・・・・・・



「・・・・・・・・なんだ?二人とも・・・」

『もちろんフリックさんも相手して差し上げるんですよね?』

「いや、俺は・・・・・」

『して差し上げますよね??』

「・・・・・・・・・・・・・・おう。」



フリック陥落。

傭兵隊の隊長と副隊長は顔を見合わせると同じことを思う。

((助けたのは間違いだったか?))

深々と溜息をつくと、さすがに見かねてが助け舟を出す。



「まぁ、お二人ともお忙しいでしょうから、事務処理を手伝っていただけるなら三日に一度ということにしますけど・・・?」

「今ちょうど事務処理も進めていこうと思っていたところだ!」

「ああ。これからはちゃんと手伝うよ・・・」



腐れコンビは、はははっと音だけで笑うとそのまま先を促していく。

ずいぶん長い間立ち止まっていたので、遅れを取り戻すかのように先を急ぎながら、



「いいんですか?君?」

「二人がちゃんと事務処理を手伝ってくれると思います?」



どうやら二人は何が何でも腐れ縁二人組みにの相手をさせたいらしい。

はいまいち不満そうな幼馴染二人組みにこれ以上ないほどにこやかな笑顔を送るとさらりと言い放つ。















「やらなかったらヤルだけさ。」



















「ああ。なるほど。」

「それなら。」



の問題発言には何も突っ込まず笑顔で同意する。



「って、!“ヤル”って何だ!!」
「どっちだ!?漢字変換は!!
いや、この場合どっちであってもやめろ!!」



無論慌てるのはこの二人。



「はっはっはっは!!さぁ急がないとモンスターが出てきちゃいますよ!!」

「待て!質問に答えろ!」

「うるさいですよビクトールさん。さっさと行かないと霧が濃いのに夜になったら大変でしょうが。」

!!お前・・・!!」



はビクトールとフリックを捕まえると、ズルズルと引き摺っていく。

一見剣を扱うのも信じられない細腕に、いったいどこにそんなパワーがあるのか不思議になる。

だが幸か不幸かそんなことに突っ込む人間もいなかった。








【後日談】
その後今までしようともしなかった書類を片付けたためビクトールは知恵熱をだし、

うわ言で『ごめんなさい・・ごめんなさい・・・・』と呟き、看病していた相棒の涙を誘ったとか何とか。







□■□あとがきという言い訳□■□

自分的お題は『腹黒幼馴染』でした☆

・・・・・・・・・・・・・・・・何も言わないでください。

っていうか、幻水世界に漢字なんて無いだろう?自分。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

書き逃げ!!!!