「大佐、緊急事態なので車拝借します!
 ・・・返事ないの分かってますけどねッ」


くそっ!
微妙に虚しい!





無関心な観察者






勝手に鍵のついたままの車を拝借すると、大通方面に飛ばしていく。
っていうか、大通方面っていったって、広いじゃないか!


「ここは素直に大通りでしょうっ!」


ああ、どうか素直なエドワード君よ、そのまま司令部から大通りを通って真っ直ぐ進んでいておくれ・・・
司令部を横目に大通りを目指して走っていくと、程なく時計塔が見えてきた。
すると、時計のすぐ前に赤黒いものが横たわっていた。
一瞬ゾッとして、そのすぐ横で車を停める。


「・・・・・・ビンゴ。」


倒れていたのは、憲兵。
タッカーと同じく死因でまだ暖かい。
まだ近くに居ると確信して見回すと、丁度路地から赤いものが躍り出た。


「っエド!?」


赤い目立つコート万歳!!
エドの赤いコートだと気付くと、そのコートを脱ぎ捨て、路地に向かって何か叫んでいる。
とりあえず生きていたことに安堵すると、駆け寄っていく。
俺の存在に気付いていないのか、エドは機械鎧の腕の一部を刃物に変えると、路地から出てきた男に襲い掛かる・・・・って、おい!!


「馬鹿っ!やめとけ!!」


相手は軍隊格闘の達人を倒した百戦錬磨の殺人鬼だって!!!
制止の声が届くはずもなく、エドの拳は止められ、右手が当てられる。
何をするのかという一瞬の間の後、音と光を立てて機械鎧が破壊された。
・・・練成反応ッ!
光の正体に思い当たると同時に、2人に追いついた。
駆け寄ったそのままの勢いで蹴りを放ってスカーをエドから引き剥がす。


っ!?」
「無事だな!?エド!!」


チラリと振り返ると、すぐにスカーに目線を戻す。
その背後に倒れたアルフォンスを見つけて眉を顰める。
・・・盛大に壊されたな。


ッ、何やってんだよ!?」
「何って、助けに来たんじゃないかよ。」
「助け・・・って、丸腰じゃん!!!」
「・・・・・・・・・・ああ!!!」


しまったっ!
俺っていつも銃を携帯してないんだった!!
だからといって、スカーの目は俺にロックオンされてるし・・・


「な、何とかなる!!!」
「無理だろ!」
「無理くない!!」


ざっと確認すると、回りに武器になるようなものは無い。
ついでに先ほど見たところ、多分スカーは右腕で錬金術を使って人を殺す。
つまり、近づくべからず。


「邪魔をするなら排除するが、用はあるのは鋼の錬金術師だけだ。」
「だからといって、どく訳ないでしょう。」
「ならば、死ね。」
「それも、お断りです!!!」


繰り出される攻撃を素手で全て捌いていく。
しかし、右腕に注意が行きがちなるため、動きにくいことこの上ない。
・・・・・・・・・仕方ない。
腹を括ると、バックステップで間合いを十分取る。
追うべきか迷った一瞬を突いて手を合わせ、地面に叩きつける。


「なっ・・・!?」

バチィッ!!


エドの驚いた声を掻き消すように鋭い音が響いて、俺の手元から伸びた光が一直線にスカーに伸びる。
しかし、その正体を本能で察したのか、横に飛ぶと、そのまま一気に間合いを詰められる。
蹴りを受ける瞬間に後ろに飛んで衝撃を和らげるが、それでも頭に響く。
重い衝撃に息が詰まるが、何とか受身を取って転がる。
っていうか、ちょっとは掠っただろうが!?お前はタフマンかよ!?
慌てて身を起こすと、5メートルほど吹っ飛ばされていた。


「お前も錬金術師か。」
「予想外で悪かったな。」
「国家錬金術師か?」
「・・・どうでしょう。」
「そうか、ならば「まて。」


エドは歩き出そうとしていたスカーを止めると、俯いたまま問いかける。


「アンタが狙っているのは俺だけか?
 アル・・・弟やも殺すかのか?」
「エドワード?」


何を言い出すんだ?
スカーも足を止め、エドに視線を落とす。


「今用があるのは鋼の錬金術師、お前だけだ。」
「なら、約束しろ。
 2人には手を出すな。」
「兄さん!?」
「エド!?」


今迄で一番の衝撃的な発言に驚いていると、スカーは完全にエドに向き直っていた。


「約束は守ろう。」
「何言っているんだよ!?兄さん!逃げろよ!!」
「エドッ!何死のうとしてるんだお前は!!」


先ほどの攻撃はエドまで巻き添えにしてしまうため、使うことが出来なし、衝動的に駆け出したものの、距離があってスカーの手を止められそうもない。
ふざけるんじゃねぇ・・・!


ドンッ


「え?」


腹に響く銃声がしたと思うと、やっと周囲が見えてきた。
黒や青の軍服を着た人
何台かの車
そして、銃を空に向けている大佐。
・・・ナイスタイミング!!!