「そういえば
「なんですか?大佐。」
「仕事が終わったならば、中央に帰っても良いのではないか?」
「帰って欲しいんですか?」
「いや・・・そんな訳ではないが・・・・」
「俺は大佐の傍に居たいんですがね・・・」
・・・っ!」
「まぁ、冗談ですが。」
「・・・・・・・・・」






無関心な観察者






「まぁ、冗談はさておいて、帰りたくないってのはありますね。」


軽い冗談なのに、不機嫌そうに睨みつけてくる大佐から目を逸らせて軽く流す。


「帰ったら面倒くさい仕事が待っていますのでね。
 それに、タッカーの件はそれなりに真面目にやった方がいいでしょう。」
「珍しいではないか。が真面目に事件に取り組むなど。」


皮肉たっぷりに言う大佐に俺は肩を竦める。
別に事件に真面目に取り組んでいないつもりは無いのだ。
単に事件に首を突っ込まないだけで。


「事件自体に関わりがあることが少ないからそう思うんじゃないんですか?」
「そうか?此処で起こった事件にも極力関らないようにして仕事を逃れてきたくせによく言う。」
「・・・・・・大佐に押し付けて逃げたことまだ怒っているんですか?」
「一度二度ではないからね。」
「・・・・・・・・・」


・・・まぁ、確かに心当たりが無くは無い。
俺もとりあえず少佐の肩書きを持っている以上、指揮権はあるわけで。
で、事件が多い東方司令部には時として、配属されている佐官階級の人間だけでは捌ききれない量が重なる時がある。
そんな時は俺も駆り出されたりするのだが、山場を過ぎて事件自体も終わりに差し掛かるころ、大佐に押し付けて中央に報告と称して逃げていったことは何度かある。
・・・・・・いや、十回を超えているだろうか?


「でも、いいじゃないですか。結果として大佐の手柄となって点数稼げるんですから。」


苦笑しながら肩を竦めると、溜息を吐かれてしまった。


「確かに、点数稼ぎにはなって、数年で中佐から大佐に昇格できたが、このことが中央にバレたらなんと言われるか。」
「バレないですよ。」
「何だと?」
「忘れているようですが、俺が監査なんですよ?」
「・・・・・・・・・そうだった・・・」


さらに溜息つつくと、大佐は立ち上がってヨロヨロとドアに向かう。
俺はそれを何となく見ながら、ドアノブを握ろうとしたときに、ふと声をかけた。


「何処に行かれるんです?」
「ちょ、ちょっとトイレに・・・・・・」
「十分前にも行きましたよね。書類片付けてください。」
「くっ・・・だから、どうしてこういうことだけしっかりやるのだ!!」
「だって、中尉からの依頼ですから。」


サボったら俺に書類が回ってくるの目に見えてるし。
俺は自分の身が可愛いのだ。


・・・私はもう三日も
「大変です、大佐!!!」

ドバンッ

「あ。」


ハボックが勢い良く開けた扉は見事に大佐に当たっていた。
そんな間抜けな朝だったが、すぐに気が引き締まる。
ハボックがもってきた一方はタッカーの死を告げるものだった。















「おいおい、マスタング大佐に少佐よ。
 俺ぁ、生きているタッカーを引き取りに来たんだが・・・・・・
 死体を連れ帰って、裁判にかけろってのか?」


俺たちが到着するとすぐに、軍法会議所から派遣されたヒューズ中佐とアームストロング少佐も到着した。
現場に入ると、大きなビニールシートが二枚被せられていたが、それでも所々血がはみ出ている。
聞いていたより悲惨な状態のようだった。


「こっちの落ち度は分かっているよ、ヒューズ中佐。」


ヒューズ中佐の皮肉に苦々しく答えている大佐は放っておいて、俺はシートを捲って死因を調べていた。
裂傷は見られるものの、全体に広がっていているし、その裂傷の特徴がおかしい。
外部からの力で加えられたというよりも、内部圧に耐え切れなくなって切れたといったところだ。
それ以外には外傷は見受けられず、圧力を加えられた部分も見当たらない。
だが、それにしては内臓なども崩れている。


「うへぇぇ・・・案の定だ・・・」
「中佐?」
、この死因はどう見る?」
「はぁ、恐らく何らかの方法で体内を破壊されたのが直接の死因でしょうから、臓器破損・・・じゃないですか?」
「その方法は?」
「・・・・・・外傷はこの場合無しと考えていいでしょう。つまり、凶器は無い。」
「そうか。」


軽く頷くと、大佐を振り返りいくつか確認を取る。
すると、立ち上がり、少佐と目をあわせると、確信したように頷いた。


「どうだ、アームストロング少佐。」
「ええ、間違いありませんな。
 ―――“奴”です。」


自信たっぷりと断言する2人に、俺も持っていたシートを元に戻し、立ち上がる。


「奴とは?」
   スカー
「『傷の男』と呼ばれている連続殺人犯だ。」
「スカー?」


そういえば、セントラルにいた時、何度か“奴”とか“スカー”という言葉を聞いたことがあった。


「ああ、素性が分からないから俺たちはそう呼んでいる。」
「素性どころか武器も目的も不明にして神出鬼没。
 ただ、額に大きな傷があるらしいということしか情報が無いのです。」


アームストロング少佐も額を指しながら、難しそうに説明をする。


は何か知らないのか?」
「俺、ですか?」


いきなり振られた話題に戸惑いつつも、首をかしげる。


「ああ、最近までセントラルに戻っていたのだろう?
 何か情報を持っていないか?」
「と、言われましてもねぇ・・・・・・」


俺の管轄は内部監査なんだけどなぁ・・・・
そうは思いながら、記憶を辿る。


「確かにセントラルに戻っていましたけど、書類が溜めていたから呼び出されただけで・・・
 でも、確か目撃情報では額にバッテンの傷、大柄な男性で肌が褐色。サングラス着用ってあったと思いますけど。
ターゲットは国家錬金術師、最後の目撃場所はセントラルシティだったはずでしょう?」
「相変わらずなんでそんな情報を持っているんだか・・・
 軍内部でも担当局しか知らない内容があったぞ。」
「こんな薄っぺらい内容で?」
「痛いところ突いてくれるな・・・・」
「それほど苦労しているということです。」


珍しくアームストロング少佐も覇気がない。
悪いことしたかな、と思うが、実際情報が少なすぎる。
もしかしたら、人相書きすらまともに作れていないんじゃぁ・・・・?


「実は、ここだけの話、5日前にグランのジジイもやられている。」
「『鉄血の錬金術師』グラン准将がか!?
 軍隊格闘の達人だぞ!?」
「連続殺人ですからね、油断していたわけでもないでしょう。
 すると、相当の手馴れ・・・・・・?」


出てきた大物の名前に驚く大佐をヒューズ中佐は真剣な目で見つめると、忠告する。


「信じられんのも分かるが、それだけヤバイ奴がこの街をうろついているって事だ。
 悪いことは言わん。護衛を増やしてしばらく大人しくしていてくれ。
 これは親友としての頼みでもある。」
「まぁ、確かにそれしかないでしょうね。」


大佐に大人しくしろというのは今更な気がしないでもないが。
つい先日も、青の団の事件の時に駅で派手に焔を使っていたし・・・・・って


「ま、ここらで有名どころといったら、タッカーとお前さんぐらい・・・・」
「大佐、エドワード!鋼の錬金術師!!」
「何?」
「エルリック兄弟がまだ宿にいるか確認しろ。
 至急だ!!」
「?おい・・・」


まだ早朝だし、雨が降っているから宿にいると思いたいけど・・・
そんな俺の希望をあっさりと否定する声がすぐに上がった。


「あ、大佐。私が司令部を出るとき会いました。」
「・・・・・・っ!」


その言葉を聴くと、さっと走り出す。
後を追うように大佐の『大通方面に行け!』と指示を出してくれた。
まったく、昨日といい今日といい、俺を走らせるとは!
やられていたら承知しないからなっエドワード!!