「大佐・・・・・・」
「どうしたのかね?
 元気が無いようだが・・・・」
「いや、なんでもないです。
 それより、今日はあまり外に出ない方がいいですよ?」
「何故だ?」
「雨が降りそうですから。」
「喧嘩を売っているのかね!?」








無関心な観察者








大佐の部屋を追い出されると、仕方なくまたハボック達のデスクがある部屋に来ていた。
俺はぼへ〜っとソファーで休んでいると、ハボックが煙草を吸いに来た。


「おいおい、新しい任務はいいのかよ?」
「終わったよ〜昨日タッカーんところに行って来ましたから。」
「タッカー?あれか。大将がいま入り浸ってる錬金術師。」
「そうそう。それ。」


うだうだしている俺に苦笑しながらハボックが煙草をふかす。


「ああ、じゃぁ査定の話か何かか?」
「査定?」


ハボックと関連性の無い単語にムクリと起き上がると、ん?という顔をされた。


「大佐から『もうすぐ査定の日です。お忘れなく』って伝言を伝えたから、てっきりその関係かと
―――って、!?」


俺はその伝言を聞くと司令部を飛び出していた。




















考えすぎだろ。という気持ちと
可能性がある。という気持ちが頭の中でグルグル回っていて、気持ちが悪い。


「あの子の姿だけでも見れば・・・・・・!」


祈るような気持ちで呟くと、タッカー邸の門をくぐる。
・・・・・・ドアが、開いている。
中は電気が消され、昼間だというのに暗い。
迷わず昨日たどった道を走っていくと、程なく怒声が聞こえてきた。


「ふざけんな!!」


一際大きな怒声が聞こえると同時に、そこにたどり着いていた。

エドに吊るされたタッカー
呆然としているアル
そして、髪の長い犬のようなモノ。


「許されるとでも思っているのか!?こんな・・・人の命を弄ぶような事が!!」
「人の命!?
 はは!そう人の命ね!
 鋼の錬金術師!君の手足と弟!それも君の言う『人の命を弄んだ結果』だろう!?」
「ちがう!!」


急激に下がっていく感情の温度に溜息を漏らす。

怒ったように、怯えるようにタッカーを殴るエドを脇目に見つつ、合成されてしまった彼女に向かう。
多分エドはアルが止めてくれるだろう。
そっと伸びすぎた髪を撫でると、不思議そうに小首をかしげる。


「・・・・・・ごめん。」


知っていたのに防げなかった。
彼女の幸せを奪う判断を下した。
しかし、言っている事が分からないのだろう。
今度は反対側に首を傾げつつ、たどたどしく言葉を紡ぐ。


「お、にぃちゃ・・・」
「ん?なんだい?」
「あ、そぼ、う?」
「――――――っ!」


とても見ていられなくなって、顔を背けると鎧の足が視界に入った。


・・・・・・」
「アルか。エドは止めてくれたか?」
「うん・・・」
「じゃ、外に出してやって、大佐に連絡して。」
「わかった・・・・・・」


そういうと、静かになったエドと入れ替わり、タッカーの前に立つ。


「ショウ・タッカー、妻と娘をキメラの材料にした行為は人体練成の禁止にあたります。
 よって、貴方から国家錬金術師の資格を剥奪、逮捕します。」
「・・・・・・鋼の錬金術師だって人体練成そのものを行っているではないか。」


吐き捨てるようなタッカーの言葉に、俺は感情の温度を下げたまま、淡々と説明する。


「基本的に監査の任は大総統閣下から直接下され、調査法などは監査官に委ねられます。
 また、横のつながり名存在しない為、監査官一人だけで行われます。
 つまり、調査内容に対する報告は監査官一人に委ねられるという事です。」
「だからなんだというのだ!?」
「貴方を人体練成の禁忌で告発するのは俺の判断です。
 そして、エドワード・エルリックを告発しなかったのも俺の判断です。」
「何が違うというのだ!?私も、アイツも何も変わらないじゃないか!!!」
「何処が同じだというのです。」


コイツとエドは全く違う。
彼らは確かに過ちを犯した。
しかし、それを飲み込み、進もうともがいている。
俺は過去を評価するのではない。
現在の彼らを見て判断するのだ。


「大事なのは過ちを犯した後だ。」
「はは・・・奇麗事だけでやっていけるかよ・・・・・・」


押し黙ったタッカーを見ると、踵を返し兄弟を部屋から出した。
少女だったモノを部屋から連れ出すか迷ったが、結局残す事にした。
恐らく兄弟も辛いし、少女も父親と離れるのは嫌だろうから。
せめて少しでも長く一緒に居られるように。
きっともう離れたら二度と会えないのだろうから。