無関心な観察者 大佐がエドにショウ・タッカーの説明をしているのを右から左に聞き流しつつ、中尉が煎れてくれた紅茶を啜る。 さすが中尉。俺がコーヒーよりも紅茶が好きなことを考慮してくれるなんて、細かい気配りだね。 「さて、それでは次は少佐の番だね。」 「おう!色々聞きたい事があるからなぁ!」 「・・・・・・・・・」 なんだろう?尋問されてている人って、こんな気分なのかな? 目の前のソファーにエルリック兄弟が座り、大佐も横に座って腕を組んでいる。 「大佐から聞いたけど、って錬金術師なんだって?」 「しかも、国家資格まで持ってるって。」 「何故今まで黙っていたのだ?」 三人とも息が合っていますね・・・・・ 詰め寄る三人から軽く距離を取りつつ、取りあえず誤解を解く事からすることにした。 「まず、間違ってる事がある。 俺は黙ってたわけじゃないんですよ。 ただ・・・・・」 「「「ただ?」」」 「ただ、言い忘れただけ。」 そんなこと有り得ないと言う勿れ。 本気でこれは忘れていた。 「人前で練成することもあんまり無いから知られることもないし、大差みたいに言いふらすのも意味ないし。」 「そういえば、が練成したところ見たこと無いよな。」 「まぁ、機会が無いし。」 「それでも、全く無いというのはおかしいだろう。 軍人ともなれば、戦闘に巻き込まれないという事は無い。 事実、何度か此処で現場に出向いているだろう。」 さすが大佐。 俺が監察対象としてくっ付いていたということは、逆にいえば、一番俺の行動を知っているという事だもんな。 「おかしくないですよ。俺、練成陣を携帯していないので。」 「なんで?」 「めんどくさい。」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 ああ!三人して溜息つくなよ! 労力削減って大事だと思うぞ!? 「面倒くさいって、・・・・・・」 「だって、練成するより自分で動いた方が早いじゃないか。」 「まぁ、そうかもしれないけど・・・・・・」 「それに、錬金術で戦わなくてはいけないなんて決まってないじゃないか。」 「そうだけど・・・・・・」 「実際、アルは素手で戦ってるじゃないか。それと同じ。」 「そうかなぁ?」 兄弟はまだ首をひねっていたが、大佐はさっさとそのことには諦めがついたらしい。 さすが付き合いが長いだけはある。 「ところで、いつ国家資格を取ったのだ?」 「15?」 「「「15!?」」」 驚きすぎだよ。 「おかしいだろ!俺が12歳で最年少記録を出す前は、17が最年少記録だったんだろう!?」 「その通りだ。15歳で国家資格を取っていただと!?」 「兄さんが取った後、15歳で合格でもしないと話が合わないよ!?」 「あ〜まぁ、気持ちは分からないでもない。」 そうだ、エドの前の最年少記録は17歳だったんだ。 うっかり忘れていた。 興奮して身を乗り出している三人を宥めると、説明する内容を頭でまとめる。 「あ〜まず、俺が国家資格を取ったのが6年まえの15歳。 その時の後見役は、今の東方司令部の将軍だよ。」 「何!?」 「で、実技試験の時に大総統がいらしてて、気に入られたのかな? 後日呼び出されて『君、今日から私の直属の部下ね。』っていわれて准佐になりまして。」 「んな!?」 「そんでもって、研究内容を公表するのを控える為、試験受験記録を抹消。 2つ名も保持者名簿にも俺の名前が載っておらず、公表されなかったてわけ。」 「滅茶苦茶な・・・・・」 うん。俺もそれを聞いた瞬間は有り得ねぇって思ったよ。 でもほら 「『現実は小説より奇なり』っていうじゃない?」 「奇って程にも限度があるだろ・・・・・」 「でも、大総統ならやりかねないだろう?」 「「「・・・・・・・・・確かに。」」」 納得しちゃったよ。 大佐がふと顔を上げる。 「と、いうことは、研究内容や二つ名は・・・・・・」 「うん。極秘だね。」 知りたかったら、大総統から許可もらっておいで。 その後研究内容が聞きだせず、不完全燃焼だったエルリック兄弟を送っていると、大佐は書類に追われていた。 また溜め込んでいたらしい。 いい加減きちんとこなせばいいのに。 自分の仕事もある中尉に監視役を頼まれ、俺は大佐のお守りをしている。 「・・・・・」 「休憩はまだですよ。」 「そうじゃない。」 「・・・・・・?」 いつものからかう口調と違うのに気付き、新聞から顔を上げる。 「・・・・・・ずっと気になっていたのだが、何故お前は怠けているフリなどするのだ?」 「・・・・・・・・・・・・」 大佐は期待と疑問を混ぜ合わためをして、眉を顰めていた。 「先ほどの話からすると、今の後ろ盾は大総統なのだろう? なのに私の動向を報告していないことが解せない。」 「・・・・・・今の発言を証拠に、追加報告するとは考えなかったんですか?」 「報告するのかね?」 「・・・・・・・・・・・・・」 問には答えず、溜息をついて天井を仰ぐ。 清潔なわけではないが、汚れているわけでもないオフホワイト。 まるでこの東方司令部自体を表しているようで、苦笑がもれる。 「俺は大佐が大総統を引き摺り下ろそうが、誰かが国家転覆を企てようがあまり興味が無いんです。」 「不穏当な言葉だな。」 「報告でもしますか?」 「馬鹿を言うな。」 クッと2人して不適に笑うと、野望と自信に満ちた目で大佐が手を差し伸べる。 「ならば、。 ―――――俺と共に来い。」 このままこの人の手を取れたら この人の、この人たちの行く末を見届けられたら そんな風に思わないわけでない でも 「―――――いいえ。」 俺はまだこの手を掴む事は出来ない。 「っ!」 「俺の言葉を聴いていましたか?」 「なに?」 「俺は大佐が大総統を引き摺り下ろすこともあまり興味が無いんですよ。」 もう一度肩を竦めると、新聞を開きなおす。 「別に敵対するつもりはありませんよ。 ただ、気が向いたら手伝う程度です。」 「・・・・・・納得は出来ない。しかし、了承した。」 まぁ、納得できるわけが無いですよね。こんな説明で。 了承が取れただけ儲けもんって程だし。 「だがな、。」 「はい?」 何気なく聞き返すと、大佐ははっきりと断言した。 「最後には必ず連れて行くぞ。」 嗚呼、この人は・・・っ! 俺はニヤリと笑うのを堪える事が出来ない。 「何て傲慢な人でしょうね。」 「嫌いかね?」 「はッ!まさか!」 そういうところが好きですよ。 |