「君は私の監察役も外され、新しい観察対象が言い渡されたのだろう?」
「そうですけど?」
「では、何故君も駅に向かっているのだね?」
「良いじゃないですか。エドに会うのも久しぶりだし。」
「・・・・・・・君は仕事をする気はあるのかね?」
「あんまり。」






無関心な観察者








駅に着くと間も無く問題の列車が到着した。
憲兵が突入していく中、俺は大佐の横に立って一両目を眺めていた。


「やっぱり練成痕が見受けられますね。」
「?君は練成痕が見分けられるのかね?」


意外そうな大佐に、俺は欠伸をしながらあっさりと答える。


「分かりますよ。俺も錬金術師ですから。」
「何だと!?そんなこと聞いていないぞ!?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いていない!!」


おかしいなぁ?言っていなかったんだっけ?
大佐の興味津々の顔を見ると、何となく言わなければ良かったかと思う。
この後何を研究しているんだとか色々煩そうな・・・・


「まぁ、取りあえず錬金術師です。」
「・・・・・・まさか、国家錬金術師じゃないだろうな?」
「・・・・・・」
・・・!」
「あ、ハクロ将軍が出てきましたよ。」
「っ!後でじっくり聞かせてもらうからな!」
「はいはい。行ってらっしゃ〜い。」


丁度良いところに出てきたハクロ将軍に大佐を向かわせると、何とか攻撃を免れる。
いやぁ、マジで後が大変そうだなぁ・・・・・・
それを見送っていると、将軍の後ろから見慣れた二人組みが出てきた。


「エドにアル。久しぶり。」
「あ、!お久しぶりです!」
「うん、元気そうで何よりだよアル。」


元気イッパイに挨拶をしてくれるアルとは反対にエドは微妙な顔をしている。


「どうしたのエド?俺に会いたくなかったとか?」
「いや、に会えたのは嬉しいんだけど・・・」
「だけど?」
が此処にいるって事は・・・・・・」

「や、鋼の。」


瞬間エドの顔が崩れた。
いや、エド!いくら会いたくなかったからって、その顔はマズイと思うよ!?
折角普通に笑ってれば可愛いのに、台無しだから!!
っていうか、そんな顔するから大佐にからかわれるんだよ?


「大佐の管轄なら助けなければ良かった〜〜〜〜!!」
「いや、東方のテロは明らかに大佐の管轄だよ。」
「相変わらずつれないね。」


大佐が激しく後悔してるエドを笑っていると、ハボックに呼ばれ手伝いに行く。
あ〜水浸しじゃないか。
恐らく、というか間違いなくエドの仕業だと思われる車内から連行されてくる犯人の一団を迎えに行くと、かすかに後ろから大佐とエドの会話が流れてくる。


「まだ元に戻れていないんだね。」
「文献と調べてるけどなかなか・・・・・・
 今は東部の町をシラミつぶしに探し歩いてんだけど、良い方法は見つからないな。」


・・・・・・『元に戻る』とか俺に聞かれてもいいのか?
取りあえず諜報部員なんだぞ?
まぁ、知っていたけど。
きっと聞かれていないと思っているのだろう、溜息をつくと連行されてきた眼帯男に向かう。
俺の勘だと、コイツ主犯。


「あ〜君が主犯ですか?」
「・・・・・・・・・」


黙秘?いや、良いんだけどね。犯人にも黙秘権はありますから。
取りあえず情報を引き出すのを諦めると、両脇にいた憲兵に連れて行くように目を離した瞬間、眼帯君が仕込みナイフで縄を断ち切って襲い掛かってきた!


「うわぁ!」
「貴様・・・!ぐわぁ!」


咄嗟に後ろに飛びのいた俺は間一髪で避けたが、左右の憲兵は地に倒れこんでいる。


「業務執行妨害、傷害罪もプラスするぞ?」
「死ねぇぇぇぇぇ!!!」


あっさりと俺の言葉を無視すると、襲い掛かってくるが、興奮状態で大振りな動きが冷静な相手に当たるわけがない。
相手の攻撃を流して蹴りを繰り出すと、鈍い音を立てて吹っ飛ぶ。
そして、

パキン・・・・・
ボン!!

大きな音を立てて派手な爆発が起こる。
熱風に眉を顰めると、その原因を作った人物に向き直る。


「・・・・・・大佐、俺も結構至近距離にいたんですけど?」
「怪我はないだろう?ならば問題ない。」
「もしも俺まで火達磨になったらどうするんですか!?」
「私がそんなへまをするとでも思うのかね?」
「・・・・・・少し。」
「・・・・・・・・・・」


だって、可燃物っていったって結局気体なんだから、突発的な爆風が起こったらあらぬ方向に影響が及ぶかもしれないじゃないか。
それでなくても、距離が離れていると精密な練成なんて難しいんだから絶対なんていえないじゃない。
俺がブツブツ不満を言っている中、憲兵さんたちはきちんとお仕事をこなしていて、眼帯男は改めて捕まっていた。
大佐は眼帯男に近づくと、感謝しろとばかりに言い放つ。


「手加減はしておいた。まだ逆らうというのなら、次は消し炭にするか?」
「いや、色々吐いて貰わないといけないから、ミディアムで。」
「そうだな。」
「ど畜生め・・・
 てめぇ、何者だ!!」


顔を押さえつけられながら、ギラギラとした目で睨みあげる。
いや、俺としてはお前が誰なんだって感じなんだけど。
しかし、大佐はまた機嫌のバロメーターが上がったのか、にやりと笑いながら自慢げに名乗る。


「ロイ・マスタング。地位は大佐だ。
 そしてもう一つ
 『焔の錬金術師』だ。覚えておきたまえ。」