無関心な観察者 「お〜本当に帰ってきてたんだな〜」 「あ、お久しぶりです。ハボック少尉。」 ハボックは俺を見つけると笑いながらコーヒーを入れてくれる。 俺はコーヒーより紅茶党なのだが、入れてもらったものには文句を言わず、ありがたく頂くと、ハボック少尉も目の前に腰を下ろしてきた。 顔はにやけているが、カッコイイと思う。 彼がモテないといっているのは、偏に上司の無能さの皺寄せなのではないかと思っている。 「聞いたぜ?大佐の監視役外されたんだって?」 「ええ。やっと。」 「ホントに“やっと”だよな。 良くあんなヤル気の無い勤務態度で大佐の監視なんて任務できてたよなぁ」 いや、ヤル気はなかったが、東方司令部の金銭管理や危機管理の報告はしてたぞ。 「別に仕事してなかったわけではないじゃないですか。 きちんと指令に基づいた調査と報告は毎回していました。」 「いや、それは見てたけど。 そうじゃなくてさ、普通は監査や監視なんてモンは相手にばれないようにやるもんだろ? 俺をお前は来た初日に大佐本人に言ってるってのがおかしいんだよ。」 まぁ、確かに到着したその日に 『本日付で大佐の監察役に任命されました・准佐です。』 って自己紹介したけど。 別に違反じゃないよ。『やり方は好きにしろ』って言われてきたし。 「いいじゃん。行動規制を一々受けなくて楽だったよ。」 「・・・・・まぁ、良いけどよ。」 ちょっと困った顔で煙草をふかすと、ガシガシと頭をかく。 まぁ、気持ちは分からなくもない。 痛い腹を探られなかったのは良いが、きちんと仕事をこなしていないという事に不満があるのだろう。 実は、俺はその痛い腹を探らなかったわけではなく、報告しなかっただけなのだが。 「俺は平和な日常って大事だと思うんですよ。」 「はぁ?」 脈絡のない言葉にハボックは不思議そうにしたが、その後に問いただす言葉は繋がらなかった。 通信室のドアが乱暴に開けられると、幾分引き締めた顔のフェリー軍曹が転がり出てくる。 事件だな。絶対。 「ニューオプティン発の列車が『青の団』に乗っ取られました!」 ビンゴ。 多分下手すれば徹夜だな。 罵声に怒号、走る兵に資料をかき集める仕官、あっという間に東方司令部は喧騒と困惑に包まれた。 ・・・と、いう事はなく、兵も通信士も落ち着いて適度に緊張しつつも慌てず情報を集めていく。 流石は治安の悪い東方ならでは。 俺は中尉を連れて堂々と入ってきた大佐が、これまでの経過を確認しているのをちょっと離れたところで眺めつつ、温くなりかけたコーヒーを啜っている。 我関せず。この言葉ってスバラシイ。 「要求は現在収監中の彼らの指導者を解放すること。」 「ありきたりだな。 ――――――で、本当に将軍閣下は乗っているのか?」 「今確認中ですが、おそらく。」 ファルマン少尉の報告を聞くと、大佐は困ったようにとぼけながら、軽く言う。 「困ったな、夕方からデートの約束があったのに。」 「たまには俺たちと残業デートしましょうや。」 「いや、此処は一つ将軍閣下には尊い犠牲になって頂いて、さっさと事件を片付ける方向で・・・」 「バカ言わないで下さいよ大佐。少佐だって居るんだから。」 ・・・俺ですか? ラジオを聴いていたら、いきなり俺の葉書が読まれたような驚きを感じる。 「フェリー、は私の監察役から外れたのだよ。」 「ええ!?そうなんですか?」 「はい。実は先月付けでね。」 乗客名簿を大佐に渡しつつ、フェリーは子犬のような顔に驚き一杯にすると、すぐに納得顔になった。 「ああ、とうとう?」 「いや、どんな認識なんですか?それ。」 「いや、妥当だろ。」 流石にいつも和み系のフェリーに納得されてショックを受けていると、時刻表と睨めっこしていたブレタが突っ込みを入れる。 「じゃぁ、何で東方司令部に戻ってきたんだ?」 「あ、そういえば。」 いや、不思議に思うところですか?其処は。 「やっぱり任務ですよ。新しい観察対象がこの近くにいるんでね。」 「へぇ?」 疑問系の返答に信じられていないのかとショックを受けていると、ふと今まで会話に参加せず乗員名簿を見ていた大佐が何かに気付いたようだ。 「諸君、今日は思ったより早く帰れそうだぞ。」 「何か見つけたんですか?」 「ああ、も知っているヤツだ。」 「あ、何となく分かったかも。」 ニヤリと笑った顔から連想すると、あっさりと想像がついた。 「「鋼の錬金術師」」 エドワード。君のトラブル体質は健在のようだね。 |