――――――088:逃亡――――――
同盟軍の本拠地エヴァーズ城。
そこはデュナン湖に面し、その岸には木々が生い茂って、心地好い風が吹いている。
そんな快適な場所でのんびりと釣りをしている人物が一人。
「・・・・・・釣れるの?」
「どうだろう?」
緑とも紫ともつかない色のバンダナをした黒髪の少年。。
彼はのほほんと笑いながら釣り糸を垂らしている。
はの横に座って、やはりぼへーっと湖か何かを眺めている。
はちらりと、彼れを見ると、一言言おうと口を開いたが、
「喋ってると釣れないぞ。」
「君が喋っても同じだろう?」
彼の一言で、出てきた言葉が変わってしまった。
別に釣りが目的であるわけでもないから、特に彼と喋っても構わなかったのだが、と考えると、ちょっとしたことに気が付いた。
「そういえば、君と二人で話すのは久しぶりかな?」
「ん〜?そういやそうだね。」
「君の周りにはいつも人がいるしね。」
「の横にはグレミオさんがね。」
どこかやる気の無い返事。
だけど、それでもは返事を返してくれる。
「そういや、グレミオさんは?」
「置いてきたよ。」
「・・・・・・・・・可愛そうに。」
「別にいいだろ。たまには。」
「たまの独りなのに、いつもと同じ事やってどうするんだよ。」
「趣味だよ。」
はそれを聞くと、『趣味かぁ〜』と適当に相槌を打って、寝転がる。
そしてそのまま寝る体制。
はそれを見ても、そのまま黙って放っておく。
今はまだ暖かい。風邪を引く事も無いだろう。
それに、彼の横は心地いい。
独りでいる寂しさも
奪ってしまう事への不安も
何も無い。
出来ればこのまま一緒にと思う事もしばしばある。
と、先ほど変わってしまった言葉を思い出した。
「君」
「なにぃ〜?。」
眠そうに間伸びした声を聞きながら、クスリと笑う。
「君の部下が探してたよ?」
「・・・・・・ぐぅ。」
明らかな狸寝入りをするに、は苦笑すると、そのまままた湖を臨む。
穏やかな日差しの下で、
誰かに邪魔されるまでは『ずっと一緒に』と望みながら・・・・・・

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