――――――― 063:永遠 ―――――――
暗い闇色の世界。天地も分からぬただの空間にはつまらなそうに立っている。
「なぁ、神野?」
「何だね?傍観者よ。」
ポツリと呟いた空間にいつの間にか、当然の如く夜色マントに身を包んだ青年がいた。
は返事が返ってきたことにも、何時からいたのか気にする事も無く独り言のように続ける。
「俺、叶野先輩や神野よりも魔津方の考えが一番理解で きない。」
「ふふふ・・・そうだろうね。彼は君と似た様な存在にな ろうとしているが、本質は全く逆と言ってもいい。」
が見つめている先には、グロテスクなまでに成長した大木。捩れつつ成長した巨木の枝には青々とした葉の他に大きな“実”がいくつも生っている。実際に今いる場所には届いていないものの、咽返る様な甘い梨の香までありありと想像できる。
「君はその場に存在し、全てを見続ける“傍観者”。
君にとって知ることも、見ることも意味は有るが、君自身にとっては意味を成さない。
結果的に見て知ることになろうと、それは君自身の望みではない。“傍観者”はそこに存在するだけだ。」
の目線を追ったまま、口角を吊り上げくつくつと闇は笑いつつ面白そうに続ける。
「だが、彼は全てを知ることを欲する“学術者”。
物事を知ること見ること自体が目的で、それが存在して初めて彼は存在し得る。
そもそものありようが逆なのだよ。」
そう言うと、視線を外し、神野のほうを振返る。
神野もつられてを見ると、その笑みを深くする。
「・・・・・・どうやら、言いたいことがありそうだね?」
「神野、お前鈍ったか?」
「ほう?何故そう思うのかね?」
呆れたの表情に気を害した様子も無く、相変わらずの笑みを貼り付けている。
「俺だって存在の違いくらい知っている。
俺が理解できないのはもっと違う事だ。」
「それは何だね?」
「分かって言ってないか?」
相変わらず呆れた様子のまま、一瞥を寄越すと、また巨木に臨む。
「俺が理解できないのは、彼の望みだよ。」
「“終わりを見ること”か?」
「そうだ。」
「どう分からないのだね?」
「終わりが理解できないのさ。」
「終わりか。、君の言う終わりとは何だね?」
「・・・・・・終わりなんて存在しない。」
「おや、面白い解答だね。」
「仕方ないだろ。他に言い様がない。」
「では、“傍観者”としての意見はどうなんだね?」
「・・・・・・・・・あんまり変わらないだろう?」
「多少は違うと聞こえたが?」
「揚げ足を取るなよ。
そうだな・・・・・・やはり一緒だ。終わりは無い。」
は、淡々と何をともすこともない瞳で繰り返す。
「終わりとは存在が消滅する時だ。
ならば何故、終わりを知ることが出来る?
知るその存在自体が其処に存在しているじゃないか。
だからこそ“終わり”は存在しない。
それこそを“永遠”と言うのだろう?」
そういうと、くつくつとまた闇が笑う。
「ふふふ・・・全くその通りだ。」
そう言うと、また闇はいつの間にか姿が消えている。
はそれを知らないのか、それとも気ににしていないだけなのか、目を眇めポツリと呟く。
「嗚呼、だからこそ彼は永遠に幸福なままなんだね。」
終わらない探求。それこそが彼の望んだもの。
不完全燃焼。
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