――――――042:軍師――――――
カリカリカリカリ・・・・・・・・
「・・・・・・・」
カリカリカリカリ・・・パサ。
カリカリカリカリカリカリ・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エヴァーズ城で最も且つ、唯一静かな部屋。
軍師部屋。
そこには現在ひたすらペンが走る音と、紙の擦れる事が響いている。
その音源は此処の住人と化している正軍師シュウと、そのシュウの斜め前で同じく事務作業を続ける。
いつもは他にクラウス達等がいるが、現在此処にいるのは二人だけだった。
「・・・・・・・・・シュウさん。」
「何だ?。」
沈黙を打ち破ったのは。
は手を止めてシュウを見るが、彼は顔すら上げずに返事をする。
「現在の時刻は?」
「そこに時計があるだろう。」
「そんなの分ってます。」
「だったら、見ればいいだろう。」
結局顔を上げる気配すら見せず、ペンを走らせる。
は溜息をつくと、そのまま喋り続ける。
「現在の時刻は午前2時ちょっと過ぎ。
連続駆動時間の記録昇進でしょうか?」
「休みたかったら休めばいいだろう。
もう緊急を要する書類は無い。」
「俺の連続駆動時間の記録はまだ更新されてませんよ。」
「・・・・・・・・・」
「実は、こんな素敵な紙を拾いました。」
はシュウに見えるように手元の紙を掲げると、その内容を棒読みする。
「『
シュウ殿の先の健康診断で気になる結果が出ました。
栄養失調・睡眠不足・過労・運動不足が主な原因と思われます。
早急に生活習慣の改善をしてください。
ホウアン』」
「自分の健康状態ぐらい把握している。」
「だったら休めよ。」
シュウは、いきなり口調の変わったを不思議そうに見る。
は常に年上に対してはある程度の敬語をつけている。
現に今までシュウに対しても敬語をつけなかった事は一度たりとも無かった。
は、いつも浮かべている笑顔を完全に消し、無表情だった。
「・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・」
シュウは訝しそうに言うが、は目の力を強め、眉間に皺夜寄せただけ。
何も答えなかった。
「怒っているのか?」
「・・・・・・・・・それ以上言ったらキレますよ?」
は、押し出すようにそう言うと、一つ大きく息を出す。
肩を落として感情を押さえつけると、淡々と告げる。
「シュウさんが忙しいのは分っています。
やらなくちゃいけない事が多いのも。
だからって、無理をしすぎるのとは違うでしょう?
自分を酷使するのは違うでしょう!?
いざって時に貴方がいなくちゃいけないのは、誰だって分かってる。
貴方だって、そう思ってるでしょう?」
「・・・・・・ああ。」
「だったらっ・・・・・・・!
だったら、休める時に休んどいてください。
ホウアンさんの忠告を捨てたりしないでください。
もっと・・・・・・もっと自分を労わって下さい。」
はそう言うと、シュウから手元の書類を奪って、ビシッと戸口を指して告げる。
「部屋に戻って、寝てください。
本読まないでくださいよ?ちゃんと寝てください。
明日の昼になったら、起こしに行きます。」
「朝になったら起こせ。」
「朝に行って、起きていたり、本を読んだ形跡があったら、ルックに眠りの風をかけさせます。」
「・・・・・・」
シュウは、を説得する事を諦めると、ポンと彼の頭に手を乗せる。
「分った。後のことは頼むぞ。」
「おやすみなさい。」
はまだ憮然としていたが、きちんと挨拶はした。
シュウは、そのまま部屋を出ると、二,三歩歩いてから部屋を振り返る。
「涙目で怒るな。こちらが吃驚する。」
そう、呟くと軍師部屋を後にした。
【余談】
結局翌日が起こしに行くと、本を読んだ形跡もなく、ぐっすりと軍師殿は寝ていた。
それを見て、は満足そうに微笑むが、万が一のために一緒に来てもらったルックが
「。」
「何ルック?」
「君もしかして、説得する時涙目にならなかった?」
「当たり前だ。その方が効果が上がる。」
「・・・・・・・・・やっぱり。」
「何か言ったか?」
「別に。
ともかくとんだ無駄足だったね。」
「あ、わりぃ。」
あははと笑うに溜息をつくと、シュウをまた見て
(涙目のには、コイツでも敵わないのか。)
そう思ったのは誰も知らない話。
笑って許してください。

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