輝くもの
魔を放つもの
吸い込まれていきそうな
白銀の輝きを誇るもの
―――――― 015:月 ――――――
シエラとは屋上に来ていた。
時刻は深夜。
煌々と光を放つ月と星の輝きが2人を静かに照らし出している。
「それで、最近の様子はどうなのじゃ?」
静かに杯を傾けつつ、尋ねるシエラに苦笑する。
「それはこの戦いのことを言っているんですか?」
「ふん」
エヴァーズ城の屋根を撫でつつ、聞き返すと鼻で笑われた。
「分かっておるくせに何を言っておるじゃ。
まぁ、言葉を濁したと言うことは、あまり良いものでもなさそうだの。」
「・・・・・・」
予想していたかのような返答に肩を竦めると、シエラから視線を外し、仰向けになる。
目に入るのは黒く、澄んだ夜の空。
吸い込まれていくような浮遊感に目を閉じる。
「別に悪いと言うわけではないんですよ。
色んな人に出合って、色んな物を見て・・・・・・
その一つ一つがとても充実していますから。」
目を閉じたまま思い起こすのは出会った人、その人の信念、出遭った場所・・・・・
「でも、全てが綺麗な思い出のはずも無いでしょう・・・」
そして走馬灯の様に蘇って来る想いは、悲しさと寂しさ、嬉しさ楽しさを織り交ぜた、判然としない想い。
漠然とした思いに引きずられるように、不安感が襲ってくる。
自分は今まで何かしてきたのだろうか?
しかし・・・
「どうしたら前を向いて行けるのでしょうかね・・・・」
たとえ今までのことが意味を成さなかったとしても、時は待ってくれない。
新しいことに向かっていかなければ更に後悔するだけだ。
しかし、そう分かっていても、昔を悔やまずにはいられない。
前だけを向いていくのは難しい。
「月を見上げてみよ。」
「・・・・・・?」
不意に呟かれた言葉が理解できず、目を開けると、シエラは月を眺めながら杯を傾けていた。
「月は太陽とは違うから見つめることが出来る。
照り輝く太陽は世界を照らすが、見上げることは適わぬ。
ただただ生きる者達に世界を示し、今を見せ、前を向かせるだけじゃ。」
「・・・・・・シエラ村長?」
「だが、月は世界を照らし出すなど恐ろしいことはせぬ。
闇で覆い、今も、過去も、生も死も全て覆い隠す。
ただ淡い光で己の存在だけを示すだけじゃ。
だから、月を見て前以外も向くことが出来るじゃろう?」
「・・・・・・」
今ひとつ言いたいことが分からず首をひねるも、もう一度シエラの言葉を噛締める。
シエラは『月を見ろ』と言った。
そして、『月を見れば前以外も向くことができる』とも。
「ああ、成る程・・・・・」
やっとはシエラの言いたことが分かった。
彼女は前を見て生きろとは言っていない。
ただ、昔を偲ぶなら月を見上げろと言っているだけだ。
「分かりづらいですよ。シエラ村長。」
「ふん。知ったことか。」
素直ではない慰めの言葉に苦笑すると、シエラは素っ気無く返事をするだけ。
もしかしたら、自分の言葉に照れているのかもしれない。
「でも、そうですね。
昔を偲ぶなら月と共に杯を交わしましょう。」
そして、また前を向いて歩いていけばいい。
輝くもの
魔を放つもの
空間と時を越え
変わらぬ美しさを誇るもの
シエラはこんな話しかたしないってば。
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