――――――007:静寂――――――
通りゃんせ 通りゃんせ 此処は何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ・・・・・・
晴れたある日の夕方、着物を着た幼い子供達がいつものように道端で遊んでいる。
この子の七つのお祝いに お札お納めに参ります・・・・・・
日も大分暮れ、剥き出しの地面には長い長い影法師が黒々が橙色の夕日に映えている。
周囲の家々からは夕餉の支度か、湯気が漂い、子供達の帰りを待ち侘びているかのようだった。
行きはよいよい 帰りは怖い
怖いながらも通りゃんせ 通りゃんせ・・・・・・
歌いながら遊んでいた子供達に、一人二人と迎えが来る。
子供達は元気に手を振りながらも『また明日』と当たり前のように約束を交わす。
そして、逢魔ヶ時の辻向かい。
詩を唄う子供の数は減っていき、最後の子供が残ったそこは、唯ひたすらに静寂が・・・・・・
「」
「え・・・・・?」
は慌てて座っていた椅子から起き上がる。
いきなり名前を呼ばれて驚いて、回りを見渡す。
此処はいつも通りの文芸部の部室。
「あれ?道が無い・・・・・・・・」
「は?何言ってるんだ?」
「え・・・・」
呆然と呟いたに俊也が不思議そうに突っ込む。
「まだ寝ぼけてるんじゃないの?」
「寝ぼけ・・・・・・?」
今度は向かい側から亜紀が呆れたように言う。
はいまいちよく分らない。
「俺、寝てた・・・・・・・・・?」
「うん。思いっきり爆睡してたよ?」
「微妙に皺寄っててけどな。」
そういったのは武巳と稜子。
二人は笑いながら、眉間を指して、『此処にちょっと皺が寄ってた』と言っている。
はどこかまだ夢現ながらも、思い出してきた。
「そういや、早めに授業終わったから、部室で本読んでたんだけ・・・・・・」
「私たちが来た時にはもう寝てたけどね。」
「そっか・・・寝てたのか・・・・・・・・・」
は、呆然と呟くのを稜子は心配そうに顔を覗き込んできた。
それに気付くと、すぐに笑って、本を片付ける。
窓の外はもう日が落ちてきたらしく、きれいなオレンジ色に染まっていた。
時計を見ると、五時を過ぎている。
「もうこんな時間か・・・・・・」
「随分と疲れてたみたいだね。」
「う〜〜ん・・・・・・何もしてないんだけどなぁ?」
笑いながらも、は帰る仕度を整える。
よく見たら皆帰る準備が出来ていて、後はを待つだけといった感じだった。
「ゴメン。待たせちゃったみたいだね。」
「いや、別にいいけどよ。」
そう俊也はいうと、部室のドアを開ける。
は、その瞬間動けなくなった。
窓からのオレンジ色の光が、皆の長い長い影法師を作り出していた。
「・・・・・・ぁ」
皆、戸口近くに居たを追い越して、部屋を出て行く。
は唯突っ立ったまま、見送っていた。
(このまま動かなかったらどうだろう。
誰か気付いてくれるだろうか?
それとも
そのまま扉を閉めてしまうのだろうか?)
それでも動けないまま、立っていると、最後に出て行こうとしていた空目が不審そうに振り返る。
「帰らないのか?。」
「・・・・・・」
(帰る?帰るって何処に?
俺を迎えてくれる家は無い。
俺を待っていてくれる人はいない。
俺は何処に帰ればいい・・・・・・?)
「・・・・・・。」
「・・・・・・」
「帰るぞ。」
「・・・・・・」
うつむいて、何も言わないの手をとると、空目は部室から引きずり出す。
すると、他のメンバーも気付いて、戸口のすぐ外に待っていた。
「何やってるの。何時まで寝ぼけてる気?置いてくわよ?」
「くん、早く帰らないと暗くなっちゃうよ?」
「。さっさと帰るぞ。」
「、早くしないと置いてかれちゃうぞ?」
わいわいと、口々に言いながらを引っ張っていく。
武巳と稜子は相変わらず喋りあってて、亜紀と俊也はそれに突っ込みを入れながらわいわいと歩いていく。
その真ん中に挟まれながらも、終始無言の空目も時々一言二言呟く程度に相槌を打っている。
は、そんな空目の隣にいて、一緒に歩きながら、空目に呟いた。
「・・・・・・陛下」
「なんだ。」
「・・・・・・・・・ありがとう。」
今日のオレンジとクロは静寂とは程遠い。
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