THEMA is born
ランチア・テーマはジウジアーロ氏デザインの端正で品のある4ドアセダンで、1984年にオーストリアはウィーンのベルベデール城を舞台にプレステージモデルの発表試乗会が開かれた。
 
このランチア・テーマにはディーゼルを含む4種類のエンジンがありそれぞれのエンジンが乗る4車種が揃っていた。2リッター、2リッターターボ、2.8リッターV6、2.5リッターディーゼルターボが存在した。ちなみにPRVエンジンの「PRV」とは、プジョーのP、ルノーのR、ボルボのVの頭文字から来ている。

ランチアのトップモデル、テーマはヨーロッパ市場ではメルセデス190やBMW5シリーズ、ルノー25等と競合するクラスであり、1978年、この市場に参入することを決定したランチアは、同じ計画を持っていたスウェーデンのサーブと、ボディーの共用などを軸としたプロジェクトを発足。それは、膨大な開発コストを少しでも抑えようとする考えからで、後にアルファロメオも参入、その成果としてまず、ランチアテーマとサーブ9000として発表された。

ランチアは4ドアセダン、サーブは5ドアハッチバックと独自の方向と分かれた為、同一のプレスを使ったのは4枚のドアだけであったが、これでの開発コストは20パーセント削減出来たという。しかしこのドアも互換性はなく、巧みにデザインされているため言われてみなければ気付くものではない。1984年当時はフェラーリ308のエンジンを積んだ4WDをも考えられたことがあった。当時、日本国内での販売希望価格は、ieターボで505万円、6Vで585万円であった。

サイズ的にはクラウンやセドリッククラスではあるが、重量は1,200kg前後と軽く、軽快な走りが出来る。車幅が1750mmあり、日本ではナンバーは3ナンバーとなる。パワステは比較的重く、ブレーキも奥の方で効くと言った、ひとつひとつ見るとレベルが低いところもあるが、「じゃあこの車は嫌いか?」と聞かれると「そんなことはない、好きだ」といってしまう不思議な魅力をもっている。アンダーも結構強めでロールも大きい、しかしそれを逆手に取るような乗り方をすれば一番面白く楽しめるだろう。

室内の造りは非常に良く、オプションでレザーシートの設定もあった。ダッシュボード及びエアコンはサーブの設計でインテリアは古典とモダーンがうまくブレンドされている。メーターパネルそのものはサーブの手によるものと言われているが、その周辺のデザインは見事イタリア流に仕立て直されており、プリズマのグレードアップ版と言った感じで品の良さに包まれる。

またランチアお得意のゼニア製ファブリックで覆われたシートは手触りも良く、サイズもたっぷりしておりポジションも自然である。調整は電動で、前後、上下、バックレスト調整が出来、運転席側には折り畳めるアームレストも備わっている。

この車で良いところはまず「地味である」ところであろう。街の中によくマッチしていて控えめであるが、どこか光るものがあり、しっかり主張していおり上品でもある。押しつけがましいところは無いがどれとも似ていない、パッと目を引く物ではないが通り過ぎてから振り返りたくなるような、「地味」なのに「粋」である、そんな魅力を持つのもランチア・テーマの魅力の1つではないだろうか。インテリジェンスを感じさせる条件において「地味である」ということは必要条件のひとつだとも思う。


そして8・32の誕生である。1986年のトリノショーでデビューし、ショーの話題を独り占めしてしまった車、ランチアテーマ8・32。ターボなどのモデルとの外観上の違いは、リアのリトラクタブルスポイラーとサイドスカート、フェラーリと同じ格子状のグリルや星形ホイール、フェンダー上の細いペイントのストライプである。

内装はランチアの最高級モデルだけあって上質にまとめられている。タコメーターは9,000回転、スピードメーターは280km/hまで刻まれている。

そしてこの車の焦点でもあるフェラーリエンジンは、308QVなどに積まれていた3リッターV8 4カム32バルブエンジンは、トルク重視へと性格を改められテーマのものとなり、それは「8・32」と名付けられた。これに組み合わされるギアボックスは5段マニュアルのみで、テーマ用を強化した物が使用されている。その他の部分も当然強化されており、オーナーは高級快速サルーンである事を実感させられることと思う。

 

次に8・32と同時期に発表されたテーマ・ステーションワゴン。サルーンはジウジアーロのでデザインだが、ワゴンはピニンファリーナのデザインによるのもである。製作もグルリアスコのピニンファリーナ工場で行われていた。分割式の立派なリアシートを折り畳むと広大なラゲッジスペースが出現する。セダンには無い、ルーフ上のピニンファリーナのロゴが入ったラインがあるが、これは単なるアクセントや飾りではなく、空力を利用し、サイドウィンドとリアウィンドにゴミや水滴が付きにくいように考えられたものであるという。

 

エンジンは本国では2リッターターボと2.5リッターディーゼルターボが用意されていた。2.0ツインカムターボエンジンはサルーンと同じエンジンであり、最大トルク29.0kg、0−100mは8秒フラット、最高速も210kmと、その印象はセダンとなんら変わるところがなく、ガソリンタンクの容量もセダンと同じ70リッターと、一気に遠くへ旅立つことが出来る。

第3期からはセダン、ワゴンともアルファ製の3リッターV6エンジンが追加されることになった。

 

こうしてランチア・テーマは1984年から1988年まで第1期型が製作され、1989年にフェイスリフトを受け第2期型、1992年から第3期に生まれ変わることになる。