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エッセイ集 「離家出走《完全本》」より〔離家〕
8月に発表されたエッセイ「離家出走《完全本》」より。 タイトルの「離家出走」を冠した2編のエッセイ〔離家〕と〔出走〕は、エッセイ集の最後に収録。 〔離家〕ではクリスのちょっと変わった習慣について書かれています。今でもこの習慣はあるみたいですが、見てみたいものです。あまり見たことある人はいないそうですけど。 もしかしてこの習慣も「家」というものが大好きなクリスならではなのかな。 |
〔離家〕 |
僕にはある習慣がある。二十年来、変えたことがない。 この習慣はほんの少しの人しか知らないだろう。もしくは以前僕に付き添ってあちこちに行って仕事をしていた一部のアシスタントが見たことあるかもしれない。でも彼らは見て変に思っただろうか。 この習慣とは、ホテルの部屋を出て家に帰る前にいつも、僕は部屋に向かって「謝謝」と別れを告げてから出ること。 僕は、部屋に感謝するんだ。数日間僕の面倒を見てくれて、僕を太陽にさらされず、雨風から守ってくれたことに。 誤解しないで欲しい。僕が部屋にお礼を言うのは、お化けや神様などの超自然現象に言うことではないんだ。 おそらく君はこう聞くだろう。「それは僕のコンサートをやってくれた人や、宿泊代を払ってくれた人に感謝すべきじゃないの?」と。それは当然のこと。すべき礼儀である。 この変わった習慣は、僕が海外に出てホテルに泊まる時に限ったことではない。 一人で戦っている時、あなたの暖炉の火が僕に暖かさを与えてくれて、ありがとう。 僕は永遠に忘れることができない。去り際に、僕はすべての建物を訪ねすべての部屋に感謝し、別れを告げる。 僕は永遠に忘れられない。去り際に、荷物を持ち、涙を流して振り返る... 永遠に忘れることはないだろう。もう部屋の中に愛がなくなった時、あなたが、かつて僕と艱難を分ち合い、僕に愛を与えてくれた感覚を。 ありがとう..... |