「障害者の雇用問題について」 参議院厚生労働委員会 2001年4月5日
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● 黒岩秩子
障害者にとっての就職という問題は一般に大変厳しいものがあるということについては、私
自身さまざまのケースとおつき合いさせていただく中で実感してきているところです。まず就
職ができたとしても、その後なかなか定着しない。ようやく定着しても、今回の不況によるリ
ストラなどでは一番先に首を切られてしまう。
そのようなことに立ち会ってきた中で、大変象徴的な事件に私はかかわらせていただいてお
ります。御存じの方も多いと思いますけれども、水戸で水戸事件という裁判がもう四年間続い
ておりますが、これは先ほど参考人質疑のところでちょっと触れたんですけれども、一年半の
障害者雇用促進法による助成金、その助成金目当てに障害者を雇っている会社、この会社はた
くさんの表彰状が張りめぐらされているそうです。つまり、優良企業で、障害者をたくさん
雇っているということで表彰を受けているわけなんですけれども、実はその助成金が目当てな
もので、一年半たったらやめてもらわないと次の人の助成金が入らないということで、やめて
もらうための暴力が始まり、その暴力がどんどん拡大していって性的暴力になり、たくさんの
被害者が出ている、そういう事件なわけなんです。
この実態について、その障害者たちの親はよく実態を知っているにもかかわらず、会社に対
して抗議することもなく、また裁判になってもそれを訴えることもなく、実はそれをだれが告
発したかというと、その被害者たちが習っているダンスの先生が告発したことによってこれが
事件化されたという事件なんですね。
なぜ親たちがそのことを告発しないかといえば、もしここを首になったら、後、勤める先が
ないというのが現実だということなんですね。それほど障害者にとっての就職というのはとて
も厳しくて、もうたたかれようとレイプをされようと何をされようと、置いてくれているだけ
でありがたいというのが親たちの実感であると。
こういう状況の中で、今回このような欠格条項の見直しが行われ、それによって障害者の雇
用が少しでも広がればとても喜ばしいことだと思っております。そして、私はまだ本当に新米
で一カ月にもならないので、これまで皆さん方がどんなに努力をなさったか、少し伺っており
ます。実際に障害者の方々がNPOという形でこの法案をつくるのにかかわってきた御苦労も、
そしてまたお役所の皆さんの御苦労も伺っております。
そういう中で、しかしこの改正案を読んだとき私はとても不安になったことは、省令に委任
するという形で相対的欠格事由、省令に委任したということなんです。これも私は余りよくわ
からないことで、今、大脇先生にお伺いしたんですげれども、法律というのは、私どもいわゆ
る国民の皆さんの委託を受けていろいろ発言していくことができるわけですげれども、省令と
いうのはそういうことができないというようなものなのではないでしょうか。
そのようなものに委任したのはなぜなのかということをお伺いさせていただきたいのです
が。
○伊藤雅治 厚生労働省医政局長(政府参考人)
なぜ具体的な欠格事由を省令に委任するかというお尋ねでございます。
まず最初の方から御説明させていただきますと、今回の欠格事由の見直しに当たりまして
は、絶対的欠格事由から相対的欠格事由への改正、それから障害者をあらわす規定から障害者
を特定しない規定への改正という、政府全体にわたる基本的対処方針に従いまして必要な法令
改正を行うこととしたものでございます。
見直し後の相対的欠格事由を運用するに当たりましては、資格等に応じて業務の本質的部分
の遂行に必要不可欠な身体または精神機能が異なることから、どのような機能の障害であれば
資格の取得等が可能かどうかを明確にする必要があること、またそういった身体または精神機
能の範囲については、今後の障害についての医療の進歩、障害を補う手段に係る科学技術の進
歩等を踏まえながら柔軟に検討を加え必要な措置を講じていく必要があること、このような理
由から具体的内容を省令において規定することとしたものでございます。
● 黒岩秩子
ありがとうございました。
具体的にはどのような内容を省令で定めていこうとなさっているのか、お伺いします。
○伊藤雅治(政府参考人)
ちょっと長くなりますが、心身の障害により業務の、例えば医師でございますと、医師の業
務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるものに該当する者には免許を与
えないことがある、これが法律の規定でございます。そこで、具体的にどういう方が厚生労働
省令で定めるものに該当するのかということにつきまして省令で定めるわけでございますが、
そこで文言の表現ぶりといたしましては、心身の障害により、例えば医師でございますと、医
飾の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるものとは、何々の障害に
より、ここには例えば聴覚、視覚等いろいろ入るわけでございますが、の障害により、医師の
業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通 を適切に行うことができない者
とする、こういう表現ぶりになります。
そこで、今回、厚生労働省全体といたしまして二十七本の法律を改正させていただくことに
なっておりますが、大きく分けまして、資格の性格等によりまして三つのグループに分けさせ
ていただいております。
具体的には、医師、歯科医師、診療放射線技師等につきましては、視覚、聴覚、音声もしく
は言語または精神の機能の障害を相対的欠格事由として具体的に厚生労働省令で定める。さら
に、二番目のグルーブといたしましては、薬剤師、臨床検査技師等の資格につきまして視覚ま
たは精神の障害を相対的欠格事由とさせていただき、三つ目のグループといたしまして、理学
療法士、作業療法士、あんまマッサージ指圧師、はり師、きゆう師等につきましては精神の障
害のみを相対的欠格事由という形で決めさせていただく、このような整理をさせていただいた
わけでございます。
● 黒岩秩子
どうもよく理解できないのは、相対的と言われながら障害を特定するわけなんですね。障害
を特定するということは絶対的欠格事由になるのではありませんか。
○伊藤雅治(政府参考人)
今申し上げました省令に規定する障害をもって直ちに免許を交付する欠格事由とするもので
はございませんで、それらの障害を持つ方の個別 の能力を医師の診断書、また厚生労働省に
おきましてプールさせていただく予定の専門家によりまして個別 に具体的な能力を評価して
いただき、そしてその結果に基づいて厚生労働大臣が免許を付与するか否かということの決定
をしていただくということになるわけでございます。
● 黒岩秩子
その個別に判断するのはだれが判断するんですか。
○伊藤雅治(政府参考人)
個別に判断いたしますのは、免許の申請者から申し出がありました場合に、厚生労働省の職
員及び専門家でございます。
先ほどから御答弁申し上げておりますように、例えば医師免許を例にとりますと、医師の業
務についての専門家、それからその障害が例えば視覚障害であれば視覚障害についての専門
家、そしてさらに、医師の場合を想定いたしますと、医師の教育養成に関する専門家、これら
の専門家の客観的な判断と、それからその障害者の診断書を書いていただきました個別
具体
的なそれぞれのかかりつけ医といいますか、診断書を書いていただいたお医者さんの意見を聞
いて、専門家が会議によって最終的な評価と判断を行うということを考えているわけでござい
ます。
● 黒岩秩子
申しわけありません、ようやくいろんなことがつながってわかってまいりました。午前中か
ら何か個々にばらばらにしか耳に入ってこなかったのが今になってわかりました。そういう形
で今までよりは前進して、さまざまな雇用がふえていくだろうということは大変期待できると
思います。
そして、今まで皆さん、いろんな方がおっしゃっていましたように、パブリックコメントと
いう形でいろんな意見を聞かれてきたということも伺っておりますけれども、これもどなたか
おっしゃったように、あくまでもそれはインターネットが使える人たちの範囲でしかそれにか
かわれなかったのではないかと思われるのですけれども、これからさまざまなことをやってい
く上に当たって障害者の方たちの実際の声を反映できるようなシステムをよろしくお願いした
いと思います。
私自身、私の家に目の見えない方が来られたときに、トイレに行くんですがと言われて、手
をつないでトイレに行って、ここがスイッチですなんて申し上げましたら、私は電気と無関係
な生活をしていますと言われて、一緒につき合っていないということはこんなにも想像力とい
うのが欠けているものだと思わせられてきました。いかにふだんからつき合っていることが大
事だなということを思わせられてきまして、なるべくいろんな障害を持っている人も保育所へ
入ってきてもらおうということをやってきたわけなのです。
先ほどからいろんな方たちが言っておられましたけれども、障害者と一くくりで言われて
も、知的障害と精神障害に対する特別 な差別というのがあると思います。これはやはり、ば
かな人が言っているとかあるいは頭が狂っている人が言っているというような形で、いわゆる
人間が言っている言葉として理解してもらえないというところが大変ありまして、先ほど申し
上げました水戸事件では、刑事裁判の方では全然うまくいかなかったものですから、今、民事
裁判になっておりまして、この民事裁判では恐らく日本で初めて知的障害者の方たちが原告に
なってこの裁判を進めております。これも、被害者がたくさんいるのにやっと三人だけが原告
になれているという、そんな事件なんですけれども、障害者の雇用の問題で言うなら、これか
ら知的障害者それから精神障害者のところに特に光が当たるような形でやっていただきたいと
思いまして、そこら辺のところに関して大臣のお考えを聞かせていただきたいと思います。
○ 坂口力 厚生労働大臣
今ずっと黒岩議員のお話をお聞きいたしておりましたが、大変重要な点を幾つか御指摘に
なっているというふうに思います。
議員になられて一カ月ということをおっしゃいましたけれども、一番最初御指摘になりまし
た、なぜ省令にするのかというような御指摘も、これもやはり法律であります以上、重要な点
は法律に書かなければならない、省令あるいは政令ではなくて法律に書かなければならないと
いう大変基本的な大事な点を御指摘になったわけでありまして、感銘しながら、心して私たち
もかからなければならない問題だという自覚を持って聞かせていただいた次第でございます。
障害者の中にもさまざまな方がおみえになる。その中で、この日本の中で障害者として手が
けられてきた順番で申しますと、やはり身体障害者の方々が一番先でございました。続いて知
的障害者の皆さん方の問題が取り上げられてまいりまして、かなり進んでまいりました。まだ
完全ではございませんけれども、かなり進んでまいりました。一番後に残りましたのが精神障
害者の皆さん方の問題でございます。
それにはそれなりの理由も私はあるのだろうという気もいたします。それは、身体障害者や
あるいは知的障害者の場合には症状が固定をするということがございまして、固定をいたしま
すから障害者としての扱いが非常にしやすいという側面 もあったのではないかというふうに
思いますが、精神障害の皆さんの場合には、よくなられたり、あるいはまた症状が進行したり
といったようなことがございますので、固定しにくいというような側面 もあると。そうした
ことも非常におくれた原因の一つになっているのではないかという気がいたします。しかし、
精神障害者の問題も、あわせてこれから同じ障害者としてすべての問題で取り上げていかなけ
ればならないことは間違いがございません。
今、厚生労働省の中にも検討会を設けまして、そしてこの精神障害者の皆さん方の雇用の問
題をあらゆる角度からどういうふうにして進めていくかということで検討をいたしております
けれども、これから先、それらの御意見もいろいろ踏まえながら、一日も早くこの精神障害者
の問題にも取り組んでいかなげればならないと思っている次第でございます。
● 黒岩秩子
ありがとうございました。
最後に、この欠格条項の見直しというのは欠格条項の撤廃ということで事が始まったと思う
んですけれども、撤廃ということを目指して活動されてきた障害者の皆さんにとっては、省令
に委任したということがとても残念なことで、何としても撤廃のところまで頑張ってほしいと
言われておりますので、どうか今後、欠格条項の撤廃のところへ至るまで、大臣のおっしゃる
のでいえばノーマライゼーションというのが完全になるところまで、私も含めてみんなで努力
してまいりたいと思います。
これで私の発言を終わらせていただきます。
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「ハンセン病について」 参議院厚生労働委員会 2001年5月31日
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●黒岩秩子
さきがけ環境会議の黒岩秩子です。
私とハンセン病の出会いからお話をさせていただきます。
私の次女が大学生のときにFIWCというボランティアグループに属していまして、韓国の
元ハンセン病患者さんの定着村に石垣をつくったり橋をかけたりというような肉体労働をしに
行っておりました。次女は弟や妹たちも誘いまして、我が子四人がハンセン病患者さんや元患
者さんとのつき合いを始めました。
そんな中で十年前、私も誘われて、今、江田さんがおっしゃっていた長島愛生園の夏祭りに
行ったのが始まりです。以来、その村に住んでおられる何人かの方々とおつき合いをさせてい
ただいておりますし、実はつい最近、その中の一人が亡くなってしまいました。そしてまた、
全国ハンセン病療養所入所者協議会発行の全療協ニュース、先ほど大臣もおっしゃっていまし
たけれども、この全療協ニュースをずっととっておりました。そのために、大臣が四月十八日
に多磨全生園を訪問されたことも知っておりました。
実はこの長島という島、今も問題になっておりますけれども、本土から三十メートルしか離
れていないというのに、一九八八年になるまでそこに橋がかかっていなかったという島です。
今回判決にありますように、一九六〇年には既に、この病気が不治の病ではないこと、また伝
染力は極めて弱く、療養所の職員で感染した者はいないことなど知れ渡っていたにもかかわら
ず、三十年近くもこの島に橋がかからなかった。このことはあらゆることを象徴していると思
います。
五月十一日の熊本判決後に、控訴しないようにと訴えに来られた原告団のお一人がこう言っ
ておられました。十一歳で発病し、島に連れてこられて、まず裸にされてクレゾール液で洗わ
れてしまった。まだ幼かったので、親に会いたい一心でこの三十メートルの海を血だらけに
なって泳いで渡ったところをとらえられて、監禁室に入れられてしまった。この方は実は私と
同い年の方でした。
この監禁室というのはどこの療養所にもあり、そこではほとんど湯水しか与えられていな
かったと言われています。中でも一番ひどいのは群馬の栗生楽泉園で、ここは特別病室という
ところがありました。そこに住んでいる皆さんはこれを重監房と言っていたそうです。ここは
昭和十三年から昭和二十二年までしか存在していなかったんですが、ここの中に入れられた方
は少なくとも九十二人。そして、獄中で十四人が亡くなったのを含めて、そこでの虐待によっ
て出てから亡くなった方を含めると二十二人もが亡くなったということです。
実は昭和二十二年にこれが廃止されているにもかかわらず、ここのところの悪夢というのは
ずっとその後も続いていたと思います。
実は、私、前にも申し上げましたように、たくさんの虐待を受けた子供たちと接してきまし
て、幼児のころの虐待というのがどれだけ長年後までその後遺症が残るか、これはPTSDと
言われていますけれども、そのことを肌身をもって感じておりました。したがいまして、そこ
ここの療養所にあった監禁室に閉じ込められたという体験は、一回あっただけで十分その人は
一生もうそのことはできないと思います。多くの場合、ここから逃げようとして監禁室に入れ
られるわけですけれども、そうなりますと、もう出るなどという選択肢は全くない。一回入れ
られただけで出るという選択肢がなくなる。そういうところに押し込められていた。それが
ずっとつい最近まで続いた現状だったと思っております。
五月十四日、坂口大臣が控訴断念を決意されたというニュースを朝日新聞で見て、すぐに大
臣室に電話をいたしました。すると、秘書官がおっしゃるには誤報であるということでした。
朝日新聞だけが書いたので、ほかの新聞は書いていないと。そこで、くれぐれも控訴をしない
ように大臣にお伝えくださいと申し上げて電話を切ったのですが、後にこの伝言は伝わらな
かったということが判明しました。
ここで、一体控訴をするとすればどのような論拠でするのか、厚生労働省の方に伺いまし
た。そのとき、その役所の方がこう言われました。昭和五十年代には既にらい予防法があって
も出入りは自由になっていた。先ほど桝屋副大臣もそういうふうにおっしゃいました。しか
し、私はこれを聞いたとき耳を疑いました。昭和五十年代というのは一九七五年から八五年の
ことです。長島に橋がかかったのは一九八八年ですから、その後のことです。たったこの三十
メートルのところに橋がかかるという、こんな単純なことの中に実は多大な魂が潜んでいると
考えます。橋をかけないことは、そこに近寄るなという強力な精神力が働いていると思われま
す。日本が経済大国として世界に名をとどろかすには、おまえたち姿を見せるなというメッ
セージさえ込められていたと思います。
姿形の違いをもってある種の方々を排除した上で先進国として世界にアピールする、このよ
うなことをしてきた大人のやり方を見て子供たちは育ってきました。学校の中で陰湿ないじめ
が横行し、たくさんの子供たちがみずからの命を絶ってきている。そのような中で、陰湿ない
じめの方法を子供たちに教えてきたのがこのような大人による排除のやり方そのものだったの
ではないでしょうか。障害を持った子供たちを養護学校などの特殊学級に押し込めるやり方に
通じていると思えてなりません。
かつて、小学校一年生の一年間養護学校に行っていた肢体不自由児金井康治君が二年生にな
るときに、普通の学校に入りたいというのを学校は拒否し、彼は親や支援者と五年間自主登校
をしました。自主登校というのは、入るなと言われた学校に行くという、これは大変な行動で
す。これに対して、学校内のトイレさえ使わせず、その学校の校長と行政の職員が門のところ
で立ちはだかって、そしてトイレを使わせなかった。校区の小学生をそこの校長が排除してい
る、それをその学校の小学生たちは見ていたわけです。まさに校長は子供たちに後ろ姿を見せ
て教育をしていたということです。
先ほどいらした文部科学省の方にもぜひお聞きいただきたいと思ったのですが、先ほど江田
さんの質問に対して文部科学省は、偏見、差別をなくすということをおっしゃいましたけれど
も、文部科学省そのものが実はこのことをやっておられる。それは、ことしの一月、特殊教育
についての文部科学省の新しい方針が出されましたけれども、そこの中で取り上げられている
のは身体障害児だけです。知的障害の子供たちについて普通学級へ入れようなどということは
まだ全く考えられておらず、知的障害の子供たちは養護学校に隔離されていて、私はこの長島
愛生園のことを考えるとどうしてもそのことが一緒になってしまいます。
障害児たちが、入れてくれないという地域の学校に自主登校というやり方で立ち向かってき
た例を私はまだ幾つか知っています。これは子供たちにとっては大変過酷なことで、その後、
そのことが影響して精神障害になった知的障害の方もあります。このような方法で隔離に対し
て闘ってきた障害児の姿は、ハンセン病の患者、元患者の皆さんの行動に通じています。
昭和二十八年、らい予防法新法ができるときも、全国から患者、元患者が国会に押しかけて
こられ、この法律の危険性を訴えられました。それで、そのころ既に、先ほどから問題になっ
ているプロミンの効果とかが認められていたにもかかわらず、そのことを最もよく知ることが
できる立場にいた長島愛生園の園長であり、かつハンセン病学会の会長であった光田医師の参
考人意見によって国会は新法を通してしまいました。先ほど大臣はそのころの時代背景だと
おっしゃいました。私はそういうことではないと思います。この光田医師のやってきたことと
いうのは、どういうことかよく知っていながら、そのことをほおかむりをして、うそをついて
隔離したと私は考えております。このことは、エイズにおいて医師たちが果たした役割に通じ
るものを感じております。
先日のこの委員会で大臣は医師の責任ということをおっしゃいました。そこで私は大臣にお
伺いしたいんですけれども、このような光田医師のような、専門家としてうそをついて、ほお
かむりをしてそのようなことをするのを同じ同業者として見た場合、どのような行動が可能な
のか、大臣にお伺いします。
○坂口力 厚生労働大臣
先日来、政治の責任、行政の責任、そうしたことを話をしながら、しかし、それは政治や行
政の責任だけではなくて、医学界の責任も大きかったということを私は申し述べているわけで
ございます。
それは、専門的な立場にある人たちが一番、その病気の社会に与える影響でありますとかそ
れからその病気が将来どうなるかといったことに対して一番よく知っているわけでございます
から、一番主導的な役割を果たさなければならなかったというふうに思っております。しか
し、そこを果たさなかったということに対する責任というのはまことに重大であると私は思っ
ているわけでございます。したがいまして、私はその責任の重さというものを本当に後輩の一
人として重く感じている、その重い責任というものに私は人一倍罪の意識を持っているという
ことを先日来何度も申し上げてきたところでございます。
特定の人のお名前を挙げられましたが、いろいろの考え方があって、専門家としてそういう
考え方をお持ちであったのかもそれは知りません。知りませんけれども、全体で見ましたとき
に、医師としてのその役割というもの、特にその道の人たちが一つの社会の大きな流れと申し
ますか、それに流されて自分たちの意思というものを明確にしてこなかったということは、非
常に私は責任があると考えております一人でございます。
●黒岩秩子
つまり、大臣の今おっしゃったことは、言うなら内部告発をしていかなければならないとい
うことだと私は理解いたしました。
今回、国会の立法不作為が問題になっていますが、実はこの新法制定のときの立法作為さえ
問題になるのではないかと考えております。患者、元患者の皆さんの勇気ある行動にもかかわ
らず、その意思を取り入れず、専門家を名乗った医師の発言に引っ張られてしまった国会決
議、その立法作為そのものを反省し、再発防止を考えなくてはならないと考えております。
さらに、この新法制定のとき、参議院では附帯決議をつけて見直しをすると決めたにもかか
わらず、一九九六年まで見直さなかった。このことについて、大臣はどのようにお考えでしょ
うか。
○坂口力 厚生労働大臣
先ほど、江田議員の御質問にもございましたが、私たちの先輩の議員の皆さん方がおつくり
になりました法律について、今行政の長の立場におります私がよかったとか悪かったとかと言
うのは、これは少し差し控えさせていただきたいというふうに思いますけれども、しかし、そ
の附帯決議もあり、それからの医療の発達もあり、そうしたこと全体を考えますと、それが三
十年であったのか三十五年が正しかったのか、あるいは四十年だったのかということは、それ
は私は考え方で若干の違いはあると思いますけれども、しかし、おくれたことに対する責任は
あるのではないかというふうに思っております。
●黒岩秩子
そういうわけで、最後になりますが、今まで江田さんの方からたくさんいろいろな提案がな
されましたが、今回のこの判決を聞いた患者さんたちの多くがやっと人間になれたということ
を言われておりました。つまり、今までは人間として扱われなかった、先ほどもごみだという
ようなことが言われていたと言われていますが、ほとんど人間として扱われなかった方たちが
これから人間として生きていかれる。そのことのサポートといいますか、そういうことを私た
ちも含めてやっていきたいと思っております。
以上で終わります。
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「在外被爆者、無年金障害者、問題」 参議院厚生労働委員会 2001年6月7日
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●黒岩秩子
初めに、年金と直接関係がないんですけれども、大変緊急を要している問題がありますの
で、そのことに触れさせていただきます。
というのは、六月一日に大阪地裁で判決が出ました在外被爆者への手当支給についての問題
です。
いわゆる被爆者援護法には、国籍条項もなく、居住条件もなく、死亡したとき以外の失権規
定もありません。にもかかわらず、厚生労働省は局長通達を盾に在外被爆者に法の適用を拒み
続けてきました。このことに対して大阪地裁は法を守れと言ったにすぎないと考えておりま
す。役所としてのメンツにこだわって控訴するというような恥ずかしいことをどうかしないで
ほしいと訴えたい。
大臣が先ほど昼食の時間もなく、原告である郭さんに会ってくださったそうで、大変うれし
く思っております。郭さんの意を酌んで、どうか控訴をしない方向で厚生省の中をまとめてい
ただきたいと思っております。
厚生省の言い分についての反論を今皆さんのところにお配りしましたけれども、この問題で
の議連としてお配りしたものですので、長くなるので後でお読みいただきたいと思っておりま
す。よろしくお願いいたします。
そして次、この前の、おとといの六月五日の質問の続きをさせていただきます。
先日、私が年金局長に御質問いたしましたのは、従業員への偽りの情報開示について御質問
したのに、局長のお答えというのは専ら役所への情報開示の偽りについてのお答えでした。局
長のおっしゃった七十三条あるいは百十八条についてよく勉強してみましたところ、全くお答
えにはなっていないということがわかりまして、再度御質問いたします。
従業員への偽りの情報開示については、どのような罪があるのでしょうか。
○辻哲夫 厚生労働省年金局長(政府参考人)
まず、加入者に周知を行わなければならない情報の内容でございますけれども、企業年金に
関する業務の概況の内容と申しますのは、掛金納付状況、資産運用状況、財務状況など厚生大
臣への業務報告をわかりやすく簡潔にしたもの、まず、そういう厚生大臣との関係ではその業
務報告をわかりやすく簡潔にしたものと考えております。
厚生労働大臣に報告した業務報告書は、それと同じものを事業所内において加入者等から請
求があった場合には開示することになっておりますが、国あての報告に虚偽があれば処罰の対
象となりますが、それと同じものを閲覧に供することから、加入者への開示については特に処
罰は必要ないと考えております。いわば、国に報告するもののエッセンスというものを置くと
いうのを想定いたしておりまして、国に報告を虚偽ですればこれは罰するということでござい
ますけれども、それと違うものを加入者について開示するということにつきまして、そのよう
なことを想定して処罰する必要はないという考え方で構成しているということでございます。
国への報告と異なる内容のものを開示したらどうなのかというお尋ねかと存じますが、その
ような開示をして惑わして実際に損害が生じた場合には損害賠償を認めることとなっておりま
すけれども、これまでに厚生年金基金において閲覧書類で国に報告したものと違う虚偽のもの
を備えていたというような実例は聞いておりません。
そのような実態面におきまして、なかなか国に虚偽の報告をするというのは大変なことでご
ざいますけれども、国に虚偽の報告をしないでわざわざそれと違うことを加入者に対してする
といったことを想定して罰則を設けるというのは、刑罰による担保措置については必要最低限
にすべきだという観点から、現在のところ必要性はないというふうに判断した次第でございま
す。御理解いただきたいと思います。
●黒岩秩子
実は今まで皆さんがいろいろ御指摘くださいましたように、今回の年金法の改正というのが
従業員、つまり零細中小企業の従業員の皆さんにとってはかなり大変なものではないかという
ことを感じております。
今、七十三条の、また附帯決議もつきましたけれども、やはりこれについては罰則規定がな
い、これはかなり問題だと思いますので、今後の見直しの中でぜひ見直しの項目に入れていた
だきたいと思っております。
次に、無年金障害者の問題、これについてもこれまで多くの皆さんがこのことに取り組まれ
て今回来ていると思います。そしてけさの新聞にも、七月からこの裁判が始まるという記事が
載っておりました。
私、実は新潟の海で事故を起こした無年金障害者の方と友人でおりまして、その方から実に
長いお手紙をいただきまして、このことをいろいろ調べてみました。そして、議事録によりま
すと、このようなことが書かれておりました。社会保険方式をとる現行の年金制度では、年金
給付を行うことは困難であるから、障害者プランを踏まえ適切な検討をということになってお
りました。そして、今もそのとおりなのか、そしてこのことについて年金局と障害保健福祉部
双方にお伺いしたいと思います。
○辻哲夫 厚生労働省年金局長(政府参考人)
障害者に対する年金につきましては、これまでも二十歳に達する前に障害にかかった方々に
つきましては障害基礎年金を保障するなど、社会保険の枠組みの中で、社会保険によって年金
制度を運用するという枠組みの中でのできる限りの対応をとってきているところでございます
が、任意加入ができるという中で加入していなかったというケース、それから強制加入であっ
たのに未加入、未納だったことにより無年金になった方、こういう方々につきましては、年金
制度におきまして給付を行うということは、保険料の負担において給付を行う、そして保険と
いうのは、俗に保険事故と呼んでおりますけれども、保険事故が発生する前に皆が保険料を
払っている、そしてその後に起きたときに出すという大原理で社会保険制度は成り立っており
ますので、社会保険制度の根幹にかかわるということから、年金制度からこの対応を行うこと
はやはり困難であるというふうに考えております。
○今田寛睦 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長(政府参考人)
障害者施策においてこの無年金障害者の方々への対応をどういう措置が行えるかどうかとい
う指摘でありますが、障害保健福祉施策につきましては、従来から障害の内容でありますとか
あるいは障害の程度に着目をして必要な福祉サービスあるいは手当を給付することを基本とし
ておりまして、年金制度に加入されていたかどうかというような点に着目してこの福祉施策を
行うということは大変難しい状況にある、このように考えております。
●黒岩秩子
九四年の国会におきまして衆参両院の附帯決議において「速やかに検討する」というふうに
ありました。私は、この附帯決議においてこのようなことが書いてあるということにもかかわ
らず、七年間もこのままであるというのはまさに立法不作為ではないかと思います。このこと
について大臣、どのようにお考えでしょうか。
○坂口力 厚生労働大臣
今、局長から、いろいろ局長は局長の立場で難しい答弁がございましたけれども、しかし、
検討します、このことを。お約束します。
●黒岩秩子
力強いお返事いただきまして、ありがとうございます。ぜひお願いいたします。
この経済大国で単に障害年金というのが、今二級の方でしたら年間八十万、そして大体この
無年金障害者というのは十万人いると言われておりまして、年にすると八百億円です。この八
百億円という数字が多いか少ないか、そのことはいろいろあると思いますけれども、私は経済
大国と言われるこの日本の中でこの程度のお金が出せなくて、これだけ苦しい思いをさせてさ
らに裁判までさせているという現状は許しがたいと思われます。
実は、この方からのお手紙にこういうふうに書いてあります。「任意加入の道があることも
知らされず、加入を勧められることもなく、強制加入後のように免除・猶予制度もありません
でした」。こういう方たちに何と答えたらいいのか、障害福祉部長さんにお伺いします。
○辻哲夫 厚生労働省年金局長(政府参考人)
今御指摘の点は年金制度に関することでございますので、私どもの方で説明させていただき
たいと思います。
この任意加入制度を設けた趣旨というのは、これは、年金は時代とともに実態に応じて改正
というものはなされておりますけれども、任意加入であった当時というのは、基本的には、学
生さんというものについては一般的に所得がないということで強制加入にするのはいかがかと
いうことでその当時は考えられて、もし必要と考えられたら任意加入と、むしろそういう形で
任意加入というものがとらえられて位置づけられた時代でございました。
そのような時代のもとでそれぞれの方が、お一人お一人さまざまな事情があったと考えます
が、平たく言えば、保険に入っていなかったのに後から事故が起こったからというのは、これ
は保険制度としてはどうしても根幹に触れることでございまして、ここのところは、この年金
制度でそれについて過去にさかのぼって保険制度を覆すということについては、私どもなかな
かつらい説明でございますけれども、年金制度の根幹に触れるというふうに言わざるを得ない
という状況でございます。
●黒岩秩子
先ほど年金局長がおっしゃいましたように、二十歳にならないときに起こした事故について
は年金を支給していると。お役所の得意な公正という点からいきますと、この不平等というこ
とをどのように考えられるのでしょうか。
○辻哲夫 厚生労働省年金局長(政府参考人)
私自身この制度を導入するときに関与いたしましたが、社会保険制度としての年金制度で可
能なところまで挑戦しようと、挑戦という表現は不適切かもしれませんが、そういう気持ち
で、社会保険とそれから給付の充実のぎりぎりの接点ということで設けたのがこの二十歳前障
害に対する障害基礎年金でございます。
その考え方は、二十歳から年金に加入されるという年齢になると。二十歳前に障害は発生し
ておりますけれども、これは制度から見れば二十歳になった途端に障害になったというふうに
擬制をいたしまして、これは同時に障害になっているということだからぎりぎり保険制度で説
明がつくということで、いわば二十歳に入ると同時に障害になられたと、こういうような擬制
でぎりぎりの体系をとりました。
そういうことで、年金制度としては説明のつくところを手当てしておりますが、明々白々に
年金制度の論理というものが否定されますと、これは、積み木のようにできているのが社会保
険でございまして、年金制度そのものの全体の論理の崩壊につながるということで、そのよう
な形で現在が成り立っているということでございます。
●黒岩秩子
そのようなぎりぎりのところで御努力なさったことについては了解いたしました。
しかし、一人の人間が二十歳前に事故を起こせば年金がもらえて二十歳過ぎたらもらえない
という、これはどう見ても不都合なわけですから、この点、今までの経過を議事録で読みます
と、年金局と障害福祉部との間でお互いになすり合ってきたとしか私には思えません。どうか
そういう縦割り行政の弊害をなくしてお互いに歩み寄る中で、どちらでも構いませんけれど
も、このような不合理な点がなくなるように御努力をお願いしたいと思います。
○桝屋敬悟 厚生労働副大臣
今、黒岩委員からもお話をいただきましたけれども、二十歳前から障害があった、そして二
十歳後の障害で比較をされましたけれども、今、辻局長がお答えをしましたように、私はこの
二つを比較するのは非常に難しい話でありまして、掛けたくても掛けられなかった方々をまず
はこの保険制度の保険の理論の中でぎりぎり救ってきたという、ここをぜひ御理解いただい
て、その部分と、それから保険の仕組みの中でどうしても救えないという方がいらっしゃる、
これを比較して何とかならぬかと、こう言われると非常につらいところがありまして、ただ、
大臣が検討するというふうにおっしゃったわけでありまして、これは今まで、最初に委員御紹
介いただきました障害者プランの中でということも含めて、我が国の社会保障全体の中でこれ
はもうずっと言われている問題でありますから、改めて検討させていただこうということでご
ざいます。
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