94 糧食班勤務 其の弐

 
糧食班勤務初日は見学となりました。

 本直の様子、支援直の様子を見て過ごしましたけど…  正直言って自分には合わない仕事だと思いました。  ひたすら食器を洗う仕事は面白そうだったので、3ヶ月間この仕事だけに専念したかったです。
 何百人の味噌汁とか御飯とか責任持って作れるのだろうか?  魚を三枚に下ろすなんて難しそう!  大きな歯が凄い勢いで回転するフードカッターという機械は怖くて触りたくなかったし…  嫌な事ばかり。


 翌朝は支援直から始まりました。  朝飯が始まる前に食堂に入ります。  更衣室でジャージから白衣に着替えて長靴を履いて洗い場に行きます。  誰も何も教えてくれないので、なにがなんだか分かりません。  班長の下で動く陸士長が「これを着ろ!」と言って渡してくれたのが分厚いビニール製のエプロン。  首から掛けて背中で縛るエプロンを装着。   自衛隊を辞めてファミレスで働く裏方さんになった気がしました。


 その姿ならケンタッキー・フライドチキンでバイトしていた時に体験済み!  それほど違和感を感じなかったけど…  こんな事なら、入隊せずにあのままケンタッキー・フライドチキンに就職してれば良かったのかも。  周りには女性もたくさん居たし!  こんな刑務所みたいな雰囲気じゃなかったはず。  やっぱり道を間違えたと思った。


 「本多は返却される食器をシンクで軽く洗って自動食器洗浄機に入れろ! ちゃっちゃとヤレよ!」と1つか2つしか歳が変わらないような奴に奴隷扱いされる。  言われた事だけヤレばいいのが自衛隊。  慣れてはいたけど違う中隊の知らない先輩陸士に命令されるのは、なぜか嫌でした。


 言われるままシンクの前に立って、飯を食い終わった隊員が食器を濯ぎながらシンクに入れて行きます。
ほとんど濯がないで汚いままシンクに入れて行く隊員。
優しくそ〜っと投入してくれる隊員がほとんどですが、意地の悪い隊員はワザと水が飛び散って顔が濡れるように投げ入れるのもいます。
同じ中隊の人からは、「おお本多ぁ! ご苦労さん!」とか「戦闘服より似合ってるぞ!」などと笑われ…
僕が教えた新隊員からも結構からかわれました。


 恥ずかしいなぁ…  この任務。
それが一番最初に感じた事。  白衣に白い長靴を履いただけでも恥ずかしかったけど…  他の隊員に見られるはもっと嫌だった。


 朝は駐屯地に居る隊員だけなので洗う食器も少なかった。  昼飯は駐屯地外や自衛隊官舎に住む隊員も重なるので倍以上の食器を洗う事になるから不安でした。
 朝の食器洗いは1時間で終了。  洗い終わった食器を食器乾燥機に格納したら上がりです。  たった1時間食器を洗っただけなのに結構疲れました。  濡れないように着ていたエプロンも役に立たなかったみたいで、白衣はビショ濡れ。  長靴の中にも水が入ってました。


 更衣室で着替えて、濡れた靴下も脱いで…  「支援直は7時50分に集合だ。」と簡単な命令を受ける。  
 中隊とは完全に隔離された糧食班勤務なので、中隊に戻らずに更衣室の一角にある座敷でテレビを見て集合までを過ごす慣れた隊員もいました。
座敷は主に班長や陸士長クラスが占拠して、寝ながらテレビを見て寛いでいた。  僕はコンクリー床の上で立って着替えて、喋る相手もいなかった(同じ中隊の隊員が同じ班になる事はなかった)ので、さっさと中隊に戻りました。


 とりあえず靴下を履き替えてベッドで休憩。  前傾姿勢で食器を洗っていたので腰にキテました。  中隊の戻って思った事…  いつでも洗濯できるじゃん!  いつでもPXに買い物にいけるじゃん!  スッゲー自由じゃん!


 それでも時間が過ぎるのは早いものでして…  集合時間の5分前には食堂の裏に整列です。
 その時に各班長から本日の仕事を言いつけられます。  何を何人分作るのかを言われます。  面倒くさい献立だと一同顔が曇ります。  作る量が多くても一同顔が曇る。  なんにしても晴れやかな顔になるのは金曜日が本直の時だけ!  なぜなら金曜日の夜はカレーライスだと決まっているからです。  カレーライスが作るのが簡単だもんね。  だけど食べる隊員は誰しもが期待しているので失敗は許されません。  きっと何処の駐屯地でも同じでしょうね。


 午前8時の国旗掲揚を済ませたら、翌日の本直で必要な材料の切り込み&下ごしらえなどの開始です。  包丁…  生まれて初めて使うかも??  
by606