75 新兵配属 其の壱
 自衛官の募集は一年中四六時中行われております。


 創めの頃に書いたと思うけど、僕達みたいに高校を卒業して進学感覚もしくは就職感覚で自衛隊に入る者が多いです。  そして4月から3ヶ月の前期教育を受けます。  4月から3ヶ月間の教育期間を過ごす教育隊を『3・4月隊員』と呼び…  この3・4月隊員が前期教育期間を終了して後期教育隊に散ったら直ぐに、今度は『8月隊員』の前期教育が始まるワケです。


 8月隊員の次が12月隊員。  12月隊員の次が3・4月隊員となります。  都合1年に3回新隊員が自衛隊に入隊する事になる。


 もっとも3・4月隊員は高校から直接入る世間知らず。
 それに対して8月隊員と12月隊員のほとんどは、一度就職したけど途中で退職して自衛隊に進む者が多かったです。  なので年齢もバラバラ。  高校を中退した者や、はたまた少年院から来た者も多いのが特徴でした。


 つまり…  僕が中隊に配属されて3ヵ月後には、今度は8月隊員が中隊に配属される事になります。  もちろん僕が中隊でいろいろやっている間、8月隊員の後期教育は行われていました。  食堂往復や風呂場往復の間に後期教育期間の新隊員に敬礼された時は、結構照れてしまった覚えがある。  それでいて「早く中隊に来やがれ!」と…心の中で呟いていたものです。


 すっかり寒くなった11月下旬。
僕が所属する中隊に新兵が3人配属される事になりました。  陸士部屋は3つなので各部屋に一人ずつ入る段取り。  やっと僕にも後輩というか部下がつく事になる♪
 

 今まで部屋の先任陸士に散々コキ使われていたけど…  これでやっと雑務から解放される!
変な奴が来なければイイけどなぁ。
喧嘩っ早い奴とか嫌だなぁ。


 僕が新兵で入った時はヤル事を口頭で説明されただけで毎日困惑したから、一日の雑務を分かりやすく紙に書いて渡せるように暇な時間を使って時間割表みたいなモノを作りました。
 さらに毎朝&毎晩部屋の隊員全員に出すコーヒーと紅茶の入れ具合も細かく分かりやすく書いておきました。


 そして人事陸曹が各部屋の先任士長(部屋で一番上の陸士)を呼んで、どの隊員が欲しいのか話し合いが行われた。  僕が先任陸士に「扱い易い隊員をお願いします!」と言えるワケがなく…  ただただ人生初となる『自分の部下像』を想像しながら、どんな奴が入ってくるのか不安と期待50:50で待ちました。


 明日から朝起きたら直ぐに電気を点けて煙缶(灰皿)を並べたり、ゴミ捨てに行ったり…  食堂に早く並んで班長の為にパンを取りに行かなくて済む。  朝礼前にタバコ吸わないのに吸殻を捨てに行かなくてもいいし…  ポットに湯を常に満タンにしなくても、コーヒーカップを洗わなくてもいい♪  僕もコーヒーを作ってもらえるわぁ♪
 夜は班長の半長靴を磨かなくてもいい!  消灯前にバタバタしなくてもいい!  嗚呼、夢にまでみた部下が来る♪


 なによりも『自分の時間』が持てるのは、自衛隊に入ってやっとの事です。  9ヶ月間は起床から消灯までお国の為に&上官の為に働き続けてきた感じ。  慣れてしまえば問題ない事だったけど…  やっと人間らしい生活ができるようになる。  いろいろ我慢してきた甲斐があったってものです。


 『自分の時間』  たったそれだけの事だけど…  あの頃あの時は一番欲しかったもの!

 やっと皆とジュースを飲みながらテレビが観れる。  風呂から出たら喫茶店でゲームができるぞ。  他中隊の同期の部屋に遊びに行ける♪  嗚呼、夢にまでみた部下が本当に来るんだぁ♪


 人事陸曹との話し合いから帰ってきた部屋の先任士長。  冷たい目でスッゲー怖かったので自分から声をかけるのは苦手な人でした。   優しい人ではあったけど…  さすがに2年以上も先輩だと触らぬ神に祟りなし状態。  どんな奴が入って来るのか自分からは聞けませんでした。


 ベットで休んでいた僕に無表情で近づいてきた先任士長。  「本多。 新兵の件だけどなぁ…」
(^0^)おーっとぉ!  やっと誰が来るのか教えてくれる!  「はい。 どんな奴ですか??」


 この後で驚愕の事実を聞かされる事になる。
by606