69 初めての演習 其の壱拾六
 「岡林3曹〜!」  「岡林3曹ーっ!」と叫びながら射撃小隊は探し回りました。
 カモフラージュして草むらで横になっていたら起きるまで発見するのは不可能です。  当時は携帯電話なんてもちろん無かったので呼び出す術もありません。
 発見しなければ機材の撤収も不可能。  なぜなら装甲車が入れないから!  草むらを走って轢き殺したら大変だもん。


 そのうちに岡林3曹は発見されました。  無理もありませんね。  ほとんど寝ずに小隊の指揮を執っていたのですから。
小隊長みたいに小屋の中で有線連絡を取っているだけでなく…  動いて指揮を執るから半端なく疲れていた事でしょう。


 もし陸士クラスが同じ事をやっていたら、間違いなくぶん殴られるはず。  しかし誰も怒りません。  むしろ皆は笑顔だった。
あの時の爽やかな気持ちは今でもリアルに覚えています。


 「全員お疲れさん!」と…中隊長が元気な声で言い放った。
(^0^)嗚呼、やっと駐屯地に帰れる♪  風呂入ってベットで眠れる♪


 「残念ながら陸士が一名ケガで駐屯地に戻ったが… 」と、中隊長が元気ない声で呟いた。
(T。T)嗚呼、僕は駐屯地に帰っても落ち着けない。


 「事後の指揮は各小隊ごと。 別れ!」  ←自衛隊用語


 αクルーの発射機を撤収し始めました。  班長がミサイルを撤去している間に電気ケーブルと諸元ケーブルを撤去回収します。  泥の中に埋設する時は楽だったけど、2日前には泥だった土も今ではコンクリート並みに固まっているからスッゲー大変。  抜けない!  重い!  ホコリ舞う!


 整地されていた発射機を撤去して牽引姿勢にしたら、資材を装甲車に積み込みます。
泣きたくなるぐらい重労働。  ある意味、ずーっと演習中のほうが楽なのかも!
 発射機を装甲車に牽引して完了です。  もう限界(>。<)  この演習場から駐屯地まで装甲車の荷台で眠れるから僕的にはまだ楽かな?  発射機を牽引して装甲車を運転する隊員は悲惨だよ。


 全部完了したところで岡林3曹が「βクルーが遅れているから支援に行くぞ!」と一言。
(T。T)マジで??
って…  江藤を欠いたβクルーは2名で撤収をしているから仕方ない。  誰のせい?  やっぱり僕が悪の根源?


 ちょっと憂鬱だったけど3人で支援に向かいました。
『謝るよりも精一杯働こう!』と…できる限りの苦労を買って出ました。  一生懸命に働いてもβクルーの2人から何も指示が無ければ、笑顔も無い。  間違いなく恨まれている。  重たい時間だった。


 全ての撤収が完了して演習場のメイン道路に装甲車を整列させました。  ざっと20台ぐらいが並んでいる姿は圧巻です。  泥だらけの装甲車。  泥だらけのレーダーや発射機。  そしてミサイル。  ミサイルには一般の人達がビビらないようにカバーが被せられています。


 先頭の中隊長車のジープが動き出して出発。  
 僕は装甲車の荷台でバラキューダにもたれて後ろ向きに寛ぐ姿勢。  此処に来る時は土砂降りの夜だったので景色なんて車のヘッドライトぐらいでした。  今はいろんな景色が見える。  その全てが自由に繋がる景色。  街の看板一つを見ても自由を感じる自分が変なのかな?
 のんびり寛いで駐屯地まで移動したかったけど…  江藤の件が頭から離れないから寛げない。


 信号で止まる度に逃げ出したい衝動に駆られる。  逃げ出してもどうにもならないと思って留まる。  その繰り返しを味わっているうちに見慣れた景色(駐屯地近くの景色)が目に入りました。
 結局寛げなかった。  むしろ疲れた。


 駐屯地の正門を通過して隊舎が見えた時は「ほっ♪」としつつも胃が痛い。
装甲車はそのまま訓練場に入った。  此処で発射機を切り離して資材の片付けが始まる。  帰って来ても直ぐに休めないのが現実。  これも仕事だと割り切って働きました。


 小さな道具1つでも綺麗に洗って、錆びないように油を塗って格納します。  駐屯地に帰っても昼飯は食堂ではなくて、またもや飯ごうを使っての食事。  また一人で幹部の飯を準備&片付けなくてはなりませんでした。  体の至る箇所が疲労で痛くなっていました。  足なんて竹馬みたい!  両手で片足を持ち上げながら階段を上がらなければなりません。  究極の限界。  スッゲー腹が減っていても食べる気がしなかった。


 そんな時…  江藤がジャージで現れた。
昨夜は風呂に入って、ベットでゆっくり休んだらしい。
江藤はなぜか足を引きずりながら歩いている。  見た目が痛々しい。  その姿で中隊の片付けや幹部の飯の片付けを元気に手伝っている。  好感度急上昇&江藤株上場来最高値!!

 本多株…  ストップ安(>。<)@
by606