68 初めての演習 其の壱拾五 |
発射機が爆破されたぁ?? いったいどんな状態なんだろう?? この時の気持ちは「僕らの任務(演習)はこれで終了?」という喜びと、「誰が爆破したんだろう?」という面白さ… そして「どんなふうになってるのだろうか?」という期待感いっぱいでα発射機に駆け寄りました。 w(@。@)w??? なに? なにがぁ? 全然壊れてないじゃん! 近くに居たαクルーの班長に「どうしたんですか?」と聞いたら、「爆破された」と一言。 発射機の周りを歩いてみたけど火のついた矢1本すら発見できない。 「壊されてないじゃん♪」と呟いたら、班長が懐中電灯で発射機の一部を照らしてくれた。 その部分には直径30cmぐらいの丸く赤い板が掲げられています。 その赤い板には大きく『爆』と書いてありました。 「はぁ?」 まだ理解できない僕に班長が面倒くさそうに「爆破マークだ! これはゲリラの攻撃で爆破されたというマークだ!」と…。 (^0^)なるほど。 これなら安上がりだ♪ 僕は真剣に爆破されたと思ったし… 爆破されていれば楽だと思っていた。 「ミサイルをβクルーの発射機に積み替えるから手伝え!」と班長命令。 またまた大きな矛盾点に差し掛かる。 ミサイルを積んだ発射機がゲリラに爆破されたのに、どうして積んであったミサイルが無事なんだろう? 普通なら使い物にならないだろうに。 なにも疑いの無い純粋な自衛官の手によって、発射機に積んであったミサイルは運搬用ローダーに積まれます。 真っ暗な中でのミサイルの積み替えはかなり危険でした。 重機みたいな運搬ローダーの力で上げたり下げたりするのだけど… 運搬用ローダーがミサイルを持ち上げる時は、小さくて細い爪2つで引っ掛けてる。 万が一にでも爪が折れたり外れれば何処に転がるか知れたもんじゃない! 中身はドンガラのダミーミサイルだから火がつくような事はないけど… 落ちてきたら怖いよ。 「うちらの発射機はどうなるのですか?」と班長に聞いてみたら… 「もうすぐ演習が終わるから、終わったら普通に撤去して持ち帰る。」 と…。 お金かけないのが演習なのかな? 富士総合火力発表みたいに実弾バンバン使う豪華な演習もあれば、こんな地味な演習もあるんだなぁ。 LR機飛ばしたから金がないのかな? 『もうすぐ演習が終わる』 この一言で結構元気になれた18歳。 だけど体は今までに経験した事がないほどの疲れ。 雨に打たれ、埃にまみれて大汗かいてる体はスッゲー臭い! 頭なんて痒くて我慢できない。 歯を磨いてないから歯が倍くらい大きくなった感じ。 早く帰って風呂入って歯を磨きたい! 普段何気ない事なのに… 今では風呂と洗面が『夢』のようだ。 「本多はここに残って発射機の監視。」 えええええっ? さっきまで歩哨についてたのに! でも逆らえません。 この時間帯の陸曹クラスはほとんど飲んでいます。 夜間のゲリラ戦も、真面目に戦っているのは陸士クラスのみ。 班長達はスッゲー酒臭かったもん。 逆らったら痛い目に遭う事間違いなし。 ボケ〜っと爆破されたけど爆破されていない発射機のタイヤにもたれて座って、64式小銃を抱いて監視します。 誰も居ないし誰も来ないから鉄パチ脱いで綺麗な星を眺めながら楽しい事を考えました。 いろんな事を想像したり、いろんな事を妄想したり… 自衛隊って結構こんな時間が多かった。 それが癖になって今でも楽しい事を考えながら想像や妄想にふけている僕。 そんな事でも考えてないとやっていけないのが自衛隊。 いろんな事を考えながら寝てしまった。 少し明るくなってきて目が覚める。 また野宿だった。 周りを見渡せば大勢の隊員が木や草で全身にカモフラージュを始めていました。 班長が鎌を持って来てくれて、「夜が明けるまでに擬装しておけ」と言われました。 (>。<)また擬装かよ! 自然保護団体が本当に怒るぞ。 擬装はカッコよく決めたい僕。 できるだけ草を使って擬装しました。 この『擬装』は擬装に適した草や木を探す事から始まります。 演習場には擬装材が豊富にある場所と、全然ない場所があるので…ウロウロと探し歩くとスッゲー体力を使ってしまう。 既に空っぽの体力。 できるだけ歩きたくないから足元に生えている緑が濃い草を体に差して擬装しました。 夜が明ける寸前。 太陽が顔を出そうとしている時に『状況ガス!』の号令が演習場に木霊しました。 所々で発炎筒が焚かれて催涙ガス弾が落ちた状況になっている。 雨と泥と汗でネトネトになっている防毒マスクを顔に装着。 泣きたくなるぐらい気持ち悪い。 状況はどんどん濃くなっていきます。 レーダーが壊れた! 上空爆音! 機関銃用意! ミサイル発射! 演習の最後は100倍速で時が流れました。 そして遂に演習が終わりを迎える。 「全員集合!」 「各小隊ごとに人員報告!」 幹部が輝く場面です。 まったく半長靴が汚れていない幹部が、まったく疲れを知らないようにキビキビ走り回っている。 僕の半長靴なんてボロボロ。 前期教育隊の戦闘訓練をやった後でもこんなに傷んでなかった。 各クルーごとに小隊長に人員を報告しているけど… 僕のクルー(αクルー)の班長が見当たらない! 僕が鎌を手渡したのを最後に行方不明だ。 どうしちゃったのだろう?? そんな時、βクルーの班長が僕の前でポツリと一言。 「岡林3曹… どっか草むらで寝てるんじゃねーか?」 by606 |