58 初めての演習 其の五
 テレビで見た事しかない演習。
 テレビで見た通りの演習だった。


 朝早くから機関銃を積んだり整列したりしてバタバタして疲れたけど、状況下に入ったら面白くて楽ちん。  草むらで銃を構えて座っていればイイだけなんだもん♪


 小隊長から「各自交代交代に昼飯!」という命令。  「本多と江藤は幹部の飯を準備しに行け!」という芝谷一士からの命令。  なんのこっちゃ分からなかったけど、歩いて炊事車(約200人分の炊飯・汁物・焼き物・煮物・炒め物・揚げ物などの調理が可能な車)の置いてある所まで行きました。
 既に木陰や草むらで飯ごうに入れられた御飯やおかずを食べている隊員が散らばってました。
やはり飯を食う時も敵の的にならないように半径5メートル以内に固まらないようにしている。

 「遅いぞ! 新兵!」 別に道草しながら来たワケでもなく、真っ直ぐ歩いて来たのにイキナリ叱られた。
 「さっさと幹部の飯を準備しろ!」 何から何まで命令口調。  命令されたって何をどう準備したらイイのか分からない。
見るにみかねた炊事班の隊員からテーブルに座って待っている幹部(准尉以上)の飯ごうを強引に渡されて御飯と汁物・おかずを詰められてテーブルに並べるように促された。

 幹部の御飯は、たくさん炊かれた中でも一番上手く炊かれた一番美味そうな部分。  全ての料理を並べ終わったところで僕と江藤は自分らの昼飯を飯ごうに詰めてもらう為に長い列に並びます。

 並んで待っている間に違う幹部がテーブルに腰掛けた。
 「本多ーっ! 江藤! おまえらは後でいいから幹部の飯を準備しろ!」  って…  マジっすかぁ!?
こんなんじゃいつ飯が食えるか分からないぞ(@。@)  しかも食べ終わった幹部の飯ごうを洗って格納もしなければならない。  その準備も片付けも常に鉄パチ被って64式小銃を背中に担いでしなければならず、汗びっしょり!!


 何人幹部がいるのか分からず途方に暮れていたら、「とりあえず幹部は全員食べ終わったみたいだから、お前らも食え!」と言われた。  いったい何なんだぁ??  幹部は自分で飯の準備もできないのか?  僕と江藤は三食こんなに苦労してからじゃないと飯が食えないのか?  しかも幹部は僕らに半径5メートル以内に固まるなと言いながら、自分達は小さなテーブルを囲んで食べている。


 疲れきって何を食べたのか分からないまま演習での最初の食事が終わった。  誰もかれも腹いっぱい食べて草むらで仮眠したりして寛いでいるのに、僕と江藤だけはフラフラでした。

 帰って来るのが遅かった僕らに「何やっとったん?」と小隊長に聞かれた時は気が抜けた。
そんな小隊長が今からの行動を教えられた。  もう少ししたら撤収して演習場に移動。  移動したら展開。  明日の明け方に戦闘。 いろいろ細かく説明してくれたのを覚えているけど、その時は早くジャージに着替えて寛ぎたいだけだった。


 「撤収開始!」

 発射機を隠すバラキューダ(擬装網)を片付け終わったら、ホークミサイルを運搬するローダーが早速やって来て、発射機に積んであるダミーミサイルをローダーに積み替え始めます。  ワクワクして眺めていたら、発射機に近づけないうちにクソ重たい電気ケーブルなど2本を撤収するように命じられた。  ゆっくり見学したかったのに…。
 何をするにも鉄パチ被って64式小銃を背中に担いで作業しなければなりません。  こんな事は後期教育でもやらなかった。  当時、体重が54kgしかなかった僕にはスッゲー重労働です。

 整地してあった発射機も牽引姿勢にして装甲車に牽引しなければなりません。  ここで更に驚く事実を知る。  後期教育で習って覚えた整地撤去の順番マニュアルが完全に無視されている。  片っ端から強引に牽引姿勢にしてしまう。  作業は早いけどマニュアルしか頭にない僕はアタフタして見よう見真似で手伝うしか術はありませんでした。  あれほど基本教練を組み込んでキビキビやった訓練は何だったんだろう??

 とにかく鉄パチと64式小銃が邪魔だった(>。<)@  動けない。
陸曹クラスになると鉄パチ脱いで64式小銃と一緒に置いて作業している。  僕らが同じ事をしようとすると速攻で怒られた。  


 あれほどキレイな青空だったのに、秋の空は信じられない展開で崩れ始めてきた。  「夜には雨が降るかも知れない。」そう小隊長が呟いた。  「雨が降れば最高の演習だ!」とも言った。  地獄の中隊検閲…それはココからだった。
by606