55 初めての演習 其の弐
 数日前、中隊に配属されて初めて文通してくれるという相手に手紙を送った。
「無事に教育隊を経て中隊に配属されました。  同じ中隊には嫌な奴が多くて大変。  数日後には初めての演習に行く事になりました。」などなど…  その頃から書く事が好きだったので、かなりの長文だった記憶があります。
 駐屯地内にあるポストに投函するだけでドキドキしていた18歳。  携帯電話も無ければポケベルも無かった時代… 公衆電話で話す勇気も無かった時代。  手紙が唯一の連絡手段だったね。


 夏も終わり、すっかり秋めいた頃の演習。  0600に訓練場に集合となると、起床前から起きて準備をしなければならないなぁ。
中隊長が「0600に集合!」と言ったら、0550には整列していなければならない。
0550に集合させるのは小隊長。  小隊長が「0550に集合!」と言ったら0540には整列していなければならない。
0540に集合させるのは班長。 班長が「0540に集合!」と言ったら0530には訓練場に居なければならない。
 (>。<)いったい何時に起きればイイのだろうか??


 演習の朝…  芝谷一士に叩き起こされた。
「本多ーっ! 早く電気つけろ!!」
午前4時の事だった。

 普段はダラダラしている先輩陸士たちがさっさと迷彩服を着始めた。  演習は自衛隊色の戦闘服ではなく迷彩色の戦闘服を着る。  カッコイイけど…違和感のほうが強かった。
さらにサスペンダーやら擬装網を装着。  普段している弾帯には小銃の弾倉を入れる袋もはめる。  


 個人の服装の準備をしていたら武器庫が開くサイレンが響いた。
「おーい! MG(対空機関銃)搬出ーっ!」と武器係が叫ぶ。  「本多、ついて来い!」と芝谷一士に言われて武器庫からMGを階級の低い陸士達で運び出して装甲車に積む。

 この機関銃… 銃座はバラバラに解体してあって楽に運べるけど、機関銃本体はスッゲー重い。  銃身だけでもめちゃめちゃ重たい。  壊れやしないかと思うくらい雑に装甲車に積みました。  なにせ装甲車の荷台は高い位置にあるから『投げ込む』みたいな感じ。
 起床と同時にこの作業は結構キツかった。


 MGの搬出&積み込みが終わったら自分の小銃を武器庫から出してきます。  自分の小銃の番号…今でも忘れません。 67番!  小銃の肩紐には『本多』と書かれている。  ついでに自分の名前が書かれた防毒マスクも出す。  もちろん銃剣も弾帯に着けます。

 たくさんの装備品をベットに置いて洗面所に行ったら大混雑で歯磨きもできない。  仕方ないので階段上がって他中隊の洗面所を使った。  トイレは3階の他中隊でさえ混雑してるあり様。  2日間帰って来れないのでトイレだけは完璧に済ませておかないと困る。  ダッシュで別の隊舎まで行って、外来用トイレで優雅なひと時を過ごした。

 居室に戻って、なんだかんだ装着して小銃を担いだらスッゲー重量!  さらに鉄パチ(鉄のヘルメット)を被ったら拷問そのもの。
一通りの準備を完了したら装甲車に乗って訓練場まで運んでくれた。  フル装備で幌を外した装甲車の荷台に立つ姿は映画のシーンそのものでした♪  タバコに火をつける先輩陸士の姿がめちゃめちゃカッコ良かったなぁ!
 中隊横から訓練場まで映画のワンシーンを楽しみました。


 訓練場に着いたら発射機を3機、装甲車に牽引する仕事が待っていました。
既に発射機は牽引姿勢にしてあったので楽です。  僕は先輩陸士の空田士長と、怖い岡林三曹とのクルーで発射機1台を受け持ちました。  装甲車のドライバーはもちろん岡林三曹で、空田士長が誘導して牽引完了。  僕は見ていただけでした。

 発射機3機: αクルー  βクルー  cクルー となります。  僕と岡林三曹と空田士長はαクルーです。


 ほとんど手ぶらに近い僕の荷物に対して岡林三曹と空田士長の荷物は一泊旅行並みの大きなボストンバッグ。  何が入ってるのか気になったけど、失礼に思われても嫌だったので聞かなかった。


 そして遠くから「309中隊集合!」の声が聞こえたので、駆け足で向かおうとしたら…  「走らなくてもいい。」と皆に言われた。  教育隊の頃から身についた『3歩以上は駆け足』の精神。  「え!なんで?」と聞きなおしてしまったほどでした。


 集合は各小隊ごと。 さらに各クルーごとに並んだ。
小隊長が気合いを入れている。  休めの姿勢で小隊長が前に来たら『気をつけ』の姿勢をとらなければならない。  これがまた映画のワンシーンみたいで素敵だった♪  早く僕の前に来ないかなぁ〜♪と思ったぐらいです。
 小隊長は時々隊員の前に立ち止まって、「現在の我の任務はっ?」と陸曹クラスに質問をする。  質問を受けた陸曹は難しい答えを大声で放っている。
 そ…そんな難しい事忘れたし、勉強してないよ!  聞かれたらどうしよう。  頼むから通過してくれー!

 小隊長は江藤の前に立ち止まった。  「ホークミサイルはどのように敵機を撃墜するか?」と聞かれた。  江藤は胸を張って「わかりません!」と答えた。  おいおい!後期教育隊の初日で習った事じゃねーか!
 小隊長! 僕の前で止まってくれ! 僕に同じ質問をしてくれ〜!! 

 もの凄いオーラを放ちながら小隊長が来るのを待った。  そして僕の前にさしかかったので『気をつけ』の姿勢。  僕の前で止まって目が合った。  キタ!キタ!キター!!  「はい!本多二士!」  もうこの時点で江藤を上回った♪  陸曹クラスが質問を受けていた時に、全ての陸曹がこの状態になった時に「はい!○○三曹!」 「はい!○○一曹!」と氏名階級を名乗っていたのを見ていた。

 そして江藤と同じ質問「ホークミサイルはどのように敵機を撃墜するか?」と質問された。  でっけー声で言ったるぞ!  
「セミアクティブ・ホーミング方式です!!」(日本語は知らない)  
「うむ。」とだけ言う小隊長。
中隊全隊員の前でやっと素敵な目立ち方ができた。  いいぞ…俺(>。<)♪

by606