54 初めての演習 其の壱 |
演習… 自衛隊に入隊してすぐに豊川駐屯地で大砲を牽引した装甲車の隊列を見た。 凄い重装備で装甲車の荷台に乗る隊員を大勢見た。 それが初めて見た演習に行く自衛官の姿でした。 ここ青野ヶ原駐屯地に来てすぐにもいろんなレーダーを牽引して出て行く装甲車や隊員を見た。 全ては『これから演習に行く姿』です。 演習の内容… つまりは駐屯地を出てから何をして、どうなって帰って来るのかは全然知らない。 中隊に入って右も左も分からない新兵。 中隊に入ればのんびりした時間が流れて、毎日が安泰だとばかり思っていた教育隊あがりの僕。 中隊に入って一週間。 いろいろあったし、面倒な事ばかりだったけど、教育隊での毎日に比べれば確かに安泰だったのかも知れない。 まぁ考えてみれば新鮮だったから楽しかったのかも知れない。 前期教育隊⇒後期教育隊⇒ところてんの如く中隊に配属されたので流れに逆らえなかったのも確かだろう。 そんな新兵が初めて演習に出る。 演習の準備は課業中に進めてきました。 何が入ってるのか分からない箱を倉庫から次々と出して、次々と装甲車に積み込みます。 OD色(オリーブ・ドライ色)いわゆる自衛隊色に塗られた大小様々な箱の片隅には箱の中身が書いてあったけど、自衛隊用語で書いてあったので本当に分からなかった。 見た目よりも軽くて、ひょいひょい手渡せる物もあれば、4人ぐらいで持ち上げなければならない重い箱もあった。 僕と江藤は言われるままに手伝うのが精一杯でした。 各小隊ごと、各班ごとに準備をしました。 『ヤル時はヤル!』 それを知ったのはその頃です。 普段はベットでゴロゴロしてる陸曹クラス。 班長なんて朝の点呼を済ませたら、集合準備間際まで二度寝してるし… 朝飯は僕が食堂から必死の思いでパンと牛乳を奪取して枕元に置いてるほどのグータラぶり。 そんな班長が次々と指示を出し、率先して動いている。 僕と江藤は誰よりも働かなければならない立場だったから、息つく暇もないぐらいの労働を強いられた。 後期教育隊から他の中隊に散った仲間は日陰でのんびり見学している。 「俺ってなんだか教育隊からず〜っと苦労してるんじゃないかなぁ?」と思えた。 同じ給料でこの差はなんだ?? 演習準備は訓練場だけではなく、日が近づけば居室の中でも戦闘モードになる。 PX(駐屯地内の売店)では軍手が飛ぶように売れた。 班長から「軍手をたくさん用意しておけ!」と言われて買いに行った時には既に完売。 仕方なく軍手の10倍以上もする皮手袋を買うハメになる。 演習になったら飲料水に困ると聞いたので、ポカリスエット(当時は缶が主流)をたくさん買った。 さらにそれらを入れるOD色の布製のカバンも買わされた。 何を持って行けばいいのか? 何が必要か? 誰も教えてくれない。 「演習の準備は出来たか?」 そう聞いてきたのは上田2曹。 この上田2曹はこの日から僕が退職するまで、とにかく僕を大事にしてくれた上官。 かなりの年配自衛官だったけど『まさに自衛官』みたいな上官だった。 606: 「いえ、なにをどー準備したらいいのか…。」 上田: 「分からなかったら聞け! 口があるだろう! 耳があるだろう!」 606: 「誰に聞いたらイイのでしょうか?」 上田: 「誰でも教えてくれる。 班長に教えてもらえ!」 でもなぁ〜… 班長はスッゲー怖いし、訓練場ではキビキビ動いてるけど居室に帰ったら何もしない人だもんなぁ。 仕方ない…上田2曹の言う通りに聞いてみよう! 606: 「班長… 自分は何を準備したらいいですか?」 班長: 「居室の先任士長に聞け!!」 やっぱり相手にしてくれへんし(>。<)'' 606: 「市川士長(居室の一番偉い人)… 自分は何を準備したらいいですか?」 市川士長: 「芝谷に聞け!!」 え”っ?? また相手にしてくれへん(>。<)'''' 606: 「芝谷一士(僕の直ぐ上の陸士)… 僕は何を準備したらいいですか?」 芝谷一士: 「はぁ? お前とは小隊が違うから知らんわ! 班長に聞けよ!」」 って… 結局誰も教えてくれないじゃん(>。<)'''''' 仕方ないので、皆がやってる事をチラチラと横目で見ながらマネして準備を進めました。 ただ…さすがに荷物の中身までは開けて見る事ができなかった。 しかし『案ずるより待つが易し』で… 演習時の服装や所持品が中隊廊下にある掲示板にプリントされた貼られた。 おまけに日本の戦闘機の機影と敵国の戦闘機・戦闘爆撃機・戦闘ヘリの機影と名称もプリントされて貼り出された。 事務所の隊員から僕と江藤には1枚ずつプリントされて手渡された。 集合時は甲武装。 甲武装?? そう言えば教育隊で習ったなぁ〜。 甲武装・乙武装・丙武装… よく覚えていない。 でもまぁ絵の通りに準備すれば大丈夫だろう! それからはいろんな隊員が各々の任務遂行を始めた。 「おーい飯ごうを出してくれ〜!」 「小銃の脱落防止テープを貼っておいてくれ〜!」 「装甲車の遮光覆いを付けてくれ〜!」 飯ごうは食器の役目を果たすらしい。 二つの蓋に御飯とおかずを載せて… 飯ごう本体には汁ものを入れる仕組み。 けして自炊はしない。 キチンと炊事ができる炊事車両も牽引されて行く。 小銃の脱落防止とは演習中に小銃の小さなパーツが落ちないようにテーピングを施す事。 もちろんテープの色は黒に限られた。 装甲車の遮光覆いとはガラスやヘッドライト・ウィンカーが太陽光や月明かりで反射しないように陣地展開する際や後に被せる布切れの事。 1台完成させるのに結構時間がかかった。 足りないのもあったり… この頃になると、どの隊員も結構ストレスが溜まっている。 違う車両から持ってきちゃう要領のイイ隊員(陸曹クラス)も居たなぁ。 いろんな準備を済ませて、最後は会議室で演習の一連の動きを教えられる。 ここから先は本当に戦争が起きた時みたいだった。 普段は制服を着てる中隊長は既に迷彩服。 右手には叩かれるとスッゲー痛そうな、鞭のような棒(指揮棒)を持っている。 そんな棒を使って黒板を指して会議が進められた。 「赤の国(ソビエト連邦)から飛び立ったミグ29、スホーイ25、ハインドDを我が部隊が迎撃する!」 「我が部隊は明朝0600(午前6時)訓練場に集合完了。」 などなど… w(^0^)wうひゃ〜カッコイイ!! 22年前当時、敵国はソビエトだったもんなぁ。 今は何処が敵国なんだろう?? 明日からは模擬戦争に召集される。 by606 |