39 後期教育期間終了
 前期教育終了間際は中学・高校の卒業式並みに感動したのに対して、後期教育終了間際は「やっと終わった」という気持ちだけ。  12人の高射特科訓練。  4人の搬送通信訓練。  みんなと仲良くなれたけど…中にはどーにも嫌な奴も居る。  


 終了式は制服着て駐屯地指令の挨拶を聞いただけ。  『形だけ』の式で終わった。


 終了式の後は居室と教育隊事務所・廊下・トイレ・洗面所の大掃除!  次にやって来る馬鹿野郎どもの為に大掃除!  めちゃめちゃ暑かったけど気にならない♪  僕は一番仲良しだった田中君とトイレの掃除をやりました。  トイレ掃除を買って出たんだよ。  なぜならトイレが一番涼しかったから!


 居室の掃除は大変だったみたい。  床なんて洗剤やら磨き粉やらガンガンに撒いてポリッシャーでガンガン磨いてる。  洗剤分を残さず拭き取る作業は拷問に近かったのでは?  僕と田中君は皆が大汗流して肉体労働してるのを横目に、水を撒いて涼をとりながら掃除しました。  
 だいたい便器とか床なんて水撒いて適当に擦っておけばOKなんだもん。


 終了式も含めて大掃除は半日掛かりでした。
午後からは配属される中隊が発表されます。  僕達、高射特科は本部管理中隊(通称:本管中隊)、309中隊(通称:9中隊)、331中隊(通称:1中隊)、332中隊(通称:2中隊)、333中隊(通称:ブラボー中隊)のいずれかに配属されます。
 
 「本部管理中隊って何を管理するのだろう?」  「ブラボー中隊ってカッコいいなぁ!」  「厳しい中隊とか楽な中隊とかってあるのかな?」と… ちょっぴり夢を見ながら昼飯を食べた。


 午後の点呼整列のついでに配属される中隊が発表された。
「本多二士、第309高射中隊!」  呆気ない発表と同時に素敵な名札を頂いた。  今までは紙にパウチしただけのベロンベロンな名札だったのに、これからは横長なプラスチックに刻印された立派な名札だ!  全員が名札を受け取った時点で後期教育期間は終わった。


 豊川駐屯地から青野ヶ原駐屯地に来て3ヶ月。  ろくでもねー事ばかりだったけど、やっと教育隊を卒業。  前期教育隊となんら変わらぬ荷物を持って309中隊に歩いて向かいました。
 4階建ての隊舎。  1階の半分が309中隊なので、階段を使わずに荷物を運べたから楽でしたね。  何事も最初が肝心なので、すれ違う隊員全てに「ご苦労様です!」「ご苦労様です!」を連発しながら荷物を廊下に運んでいて気がついた事…  後期教育隊で一番嫌いな奴と同じ中隊になっちゃった(T。T)  しかも309中隊は奴と二人。

 「これからヨロシクね♪」と腹で泣きながら笑顔で挨拶しときました。  まぁ軽く無視されました。  同い年&同期生なのに…。

 
 309中隊の幹部から「本多二士(二等陸士)は3班で、江藤二士(仮名)は2班」と指示されました。  とりあえずは同じ部屋じゃなくて安心。  しかし…  この日から、こいつのおかげで地獄の日々は始まっていたのでした。


 荷物を3班の居室に運び込みます。 ノックを2回。  扉を開ける前に大きな声で「本多二士入ります!」と言うのが自衛隊。  「あ〜い!」無気力な返事で扉を開けて一歩入る。  午後の課業時間中なのにベットで熟睡してる隊員1名。  ファミコンに夢中の隊員1名。  
 「今日から309中隊に配属され、3班に配属された本多です!」と挨拶。  ファミコンやってる隊員が「北村一士(一等陸士)(仮名)です。よろしく。」 「いま寝てるのが3班の先任で市川士長(陸士長)(仮名)だで後でキチンと挨拶しとけな。」と…。  「あ、それから今度から入る時は自分の部屋だからイチイチ挨拶して入らなくていいから。」と…。

 僕は市川士長を起こさないように静かに荷物を運びました。  新隊員なので私物は無いに等しく、晩飯前には荷物の整理は済みました。  居室は後期教育隊の頃と同じ広さでしたが、全てシングルベット!  あ…でも僕のベットだけは2段ベットで上です。  今まで1つだったロッカーは2つに昇格♪  ロッカーは鍵がかけれるようになっていました。  


 しばらくして市川士長が起きたので「今日から309中隊に配属され、3班に配属された本多です!」と、さっきと同じ挨拶。  
  「あ? 出身は?」  寝起きがスッゲー悪い人だったのは今でも忘れません。  「愛知県の西尾市で、前期教育は豊川駐屯地でした。」と真っ直ぐの姿勢で答えたら、ず〜っと細い目で睨まれていたのに、急に笑顔になって「俺は岐阜県だよ。近いね!」って優しい声で返事してくれた。  その頃は岐阜県なんてスッゲー遠い所だと思っていたので、その後で僕はどう答えたかは覚えていません。


 夕方は駐屯地内にある居酒屋で後期教育隊のお別れ会があったので、晩飯を食べずに江藤と一緒に歩いて向かいました。
駐屯地内で初めて飲むビール。  もちろん未成年だよ!  国家公務員の頭に『特別』がつく特別国家公務員。  未成年でも酒・タバコが許される。  (本当は許されないだろうけど) (嗚呼、またお叱りの電話がくるかな?)


 ほどよく酔って3ヶ月間の思い出話に花が咲きます。  皆ばらばらになるワケではなかったので前期教育隊のお別れ会みたいに泣いたり騒いだりする事はありません。  ただ、皆から言われました。 「江藤と同じ中隊だと大変かもな!」  「江藤と同じ中隊? そりゃ終わったな!」と…。  皆も江藤の事を良くは思っていなかったみたいです。  


 2時間弱の宴会で解散。  長居するにも置いてあった8トラのカラオケ機械では歌える曲もありません。  誰かが『おーい中村くん』を歌っていたのは虚しかった。  ほどよく酔って蚊に刺されながら309中隊に帰りました。  明日からは普通の陸上自衛官です。


 【補足】
 自衛隊入隊・前期教育期間から後期教育期間終了までの半年は、正直言って毎日が苦しかった。  凄く大変でした。  しかし大勢の同期生と過ごした半年間は苦労を超えた面白さがありました。  
 高校を卒業して、あのまま何処かの会社に勤めていたり… あのまま家業を継いでいたら、今の自分は全然違っていたはず。  ツライ事から逃げない事。  ヤレば出来るという事を教わった半年間でした。

 そんな半年間、もっともっと事件や楽しかった事はあったはず。
なにせ20年以上も昔の事なので忘れてしまった事もあります。  ファイルナンバー39で、次からはファイルナンバー40となりますが… 10枚分のファイルに思い出した事を書けるようにしておきます。  
 残り3年半の中隊生活はファイルナンバー50から始めさせてくださいね。
by606