23 射撃の検閲 其の弐
 スルスルっと上がってきた的を見て驚いた。 得点圏内を外れて○が3つ正三角形で貼り付けれている。 上手く射撃できてる事が分かる。 三角形のど真ん中を中心に考えて手元の照準器を調整する。 これをクリック調整と自衛隊では言います。(現在は知りません)

 隣の知らない上官が「いい感じだね!」 「右に3クリック。上に4クリック調整すればど真ん中に命中するね!」と手伝ってくれる。 まるでゴルフのキャディーさんみたい。
 自分で考えても右3・上4の調整でOKだったので、言われた通りに照準器を調整しました。

 2回目の調整ではど真ん中に1発入りました。 これは300メートル先に置いたタバコの箱を撃ち抜く感覚です。 しかし…他の2発は激しくバラけてしまった。 なぜなら…自分の発射音はそれほど気にならないけど、両隣の発射音はスッゲーよく聞こえて驚いてしまうのです。 
 昔から縁日や夜店の射的では、ポンカン飴をいっぱいゲットしていたほど勘はあった。 同じポンカン飴でも倒れるだけではゲットできないので、ポンカン飴の上の方を狙って倒れるのに勢いをつけて落とす戦法も編み出したほど。 

 2回目は調整せずに、3回目は集中して撃ちました。 良い感じで弾痕をど真ん中に集める事ができて、教育隊長から「良い射撃しとるなぁ!」と褒められてしまった♪ 「僕って才能があるのかな!」と射撃に自信を持って本番に臨みます。
射撃には級があって3級・2級・一休さん… じゃなくて1級・特級というオマケまでついてきます。 ちなみに特級を取ると表彰されちゃうから…僕は思わず狙ってしまった。

 3回目の調整も、もちろんパス。 上官さんに褒められながら上機嫌で検閲本番を待ちました。

 上官さんが再び実弾を持ってきてくれたので、1発1発丹精に弾倉に詰めます。 寝撃ちの姿勢5発×3回なので15発詰めます。 またまた鉄パチでコンコンやって気分はゲーセンです。 おっしゃー一丁狙ったろうかぁ!
という事で寝撃ちの姿勢での検閲15発終了。
 
 続いて膝撃ちでの検閲… これも15発なんですが、1発撃ったら照準器から的が消えます。 撃った衝撃で体が後ろに倒れるからです。 それだけ不安定な姿勢なんです。 それでも集中して頑張りました。 

 そして実弾射撃の検閲は無事に終わりました。 
検閲は何処に命中してるか、いちいち的を上げ下げしないし、電話で連絡もきません。 成績発表は後日です。

 射撃が終わったら直ぐに銃を整備しなければなりません。 銃口から小さなウエスに油を浸み込ませてステンレスの棒に挟んでガシャガシャと掃除します。 錆びないようにね! 
戦闘訓練や基本教練ではオブジェとしか見れなかった64式自動小銃… 今日は火を噴いたよ!! 正しくリアルガン!!

 小銃を預けて監的作業の為に移動します。 射場周辺はまるで廃墟屋敷そのもの。 夜は絶対一人では来たくないような雰囲気です。
地下通路はも下水道内を歩いてる感じ。 
指定された番号の的に辿り着いて要領を教えられます。 まずは国旗掲揚の感覚で上がっていた的をロープを引いて降ろします。 「的ってこんなデカイんだぁ!」と驚いた。 ポスター2枚分はあった!
白く見えた得点圏外は薄茶色だったし。 しかもボロボロ。 

 3点監査(クリック調整)の為の射撃が始まるので、「的を上げ!」の合図で的を上げました。 「射撃用意」 「撃て」 の号令がスピーカーから聞こえてきます。
300メートル離れた所ではパンパン!と聞こえるけど… 的を越えた壁に当たる音はタン!タン!と小さな音になります。 
 下から弾が飛んでくるのを見てましたが、もちろん肉眼で見えたらF1レーサー以上でしょう。 弾が的を撃ち抜いていく様子すら分かりません。 的も弾が当たってもピクリとも動きません。 音だけです。

 「射撃終了!監的開始!」の合図で3発撃ち終わったのが分かります。 的をスルスルと降ろして監的を始めます。 「あ!ここに弾痕!」「ここにもある!」「もう1個は??」などと3人ぐらいで弾が通過して開いた穴を探します。 開いた穴に○と●を取り付けて、合図で一斉に上げます。 弾痕が無い場合は「1発弾痕不明」(つまり1発当たってません)と伝えたり… 3発とも弾痕が無かったら「全弾弾痕不明」(下手くそ)と伝えたりします。 もちろん近接してる弾痕には「同一弾痕」と伝えます。 
 ある程度見せたら降ろして開いた○と●を取り外して、開いた穴に同色の紙を貼っての繰り返しで… これが結構忙しかったけど楽しかったです。

 3区隊の射撃が終わり、今にも死にそうな教育隊長の何を言ってるのか分からない訓示を聞かされて、装甲車に乗って駐屯地に戻りました。 
戻ってからは銃の分解清掃。 徹底的にやらされました。 なにせ今までピカピカだった部分が硝煙で真っ黒だからです。 武器係りの点検も凄く厳しく… 普段なら1時間もあれば終わった銃の分解清掃は2時間ぐらい必要でした。
 
 僕らが銃の整備をしてる間に射撃の結果を出されてた。
「特級♪」「表彰♪」「自慢♪」「射撃優秀隊員♪」とニコニコしながら結果を見て倒れた。 寝撃ちは好成績で、特級が狙える範囲だったのに… 膝撃ちがボロボロ。 全然当たってない。 せいぜい3級レベルかな?と言った具合でした。
 これもまた606のパターンですね。

by606

膝撃ちの練習