19 戦闘訓練 其の弐
 匍匐前進してる時間よりも見てる(休んでる)時間の方が長かった戦闘訓練。
ダメ出し喰らえば第1匍匐からやり直しとなるので、とりあえずその時だけは集中して気合いを入れました。 馬鹿になって突撃しましたよ。
 そんな場面でも連帯責任はサラ金の如く付きまとう。 僕の失敗で皆に迷惑をかけたくなかったし… 他の隊員の失敗で迷惑をかけられたくもなかった。

 半日で2回ぐらいの学芸会の予行みたいな訓練。 毎回戦闘服は泥だらけ。 半長靴は擦れてズルズルに皮が捲れます。 戦闘訓練のあった日は洗濯に追われる。 こっちの方が大変だった。 

 洗濯機は昔ながらの2層式! 全隊員、各自一台あれば問題は無いのだが… もちろんそんなワケにはいかない。
洗濯機は30人で5台ぐらい。 使いたい時に使えるほど甘いものではありませんでした。 運が良ければ直ぐ使えるけど… 運が悪いと何度行っても使えない時があります。 

 中には課業終了から消灯ギリギリまで洗濯槽に浸かってる洗濯物もありました。 そうなると30人で4台とか、3台で回す事になるのです。 戦闘服が洗濯槽に入ったままになってる場合は名札を見て指摘できるけど… 下着類だと触る気にもならないし、名前なんて書いてないから誰のか分かりません。 結構ストレス溜まります。
 もちろん喧嘩発生現場としては洗濯場が一番多かったですね。 

 泥だらけの戦闘服を洗い終えた洗濯機で下着類も洗ってましたよ。 あの頃はなんとも思わなかったです。 とにかく洗えればOK! どうしても洗濯機が使えなかった時は洗面器とブラシで洗ってたぐらいです。

 戦闘訓練で使った半長靴の手入れは普段の倍近い手入れが必要でした。 常にピカピカにしておかなければ、朝礼前に腕立て伏せが待ってるし…。 どんなに手入れしても直ぐに戦闘訓練でボロボロになっちゃうから面倒くさかったなぁ!

 同時に64式自動小銃も土や埃にさらされるワケですから、訓練後にはボロボロの戦闘服・半長靴姿で銃の分解・掃除・組み立てを毎回してました。 
疲れきって分解・組み立てをやるワケですから銃のパーツの紛失が怖かったですね。 一度だけボールペンの先ぐらいしかない小さな部品を紛失した隊員がいて、全員で探した覚えがあります。 それはそれはドキドキものでしたよ。 出てこなかったら弁償で済む問題だったのかな? バネなんてよく飛んでたし…。

 戦闘訓練⇒銃の分解組み立て という日々は長かったですね。 小銃は毎日というぐらい分解・掃除・組み立てをやってましたわ。 分解・組み立ては結構得意でしたが… 今となっては(今の仕事では)何の役にも立ちません。

 匍匐前進&突撃… 馬鹿になって頑張る事数日。 『自衛隊』らしい自分が今ここに居るという事に気がつき… 実感する。
右手に小銃。 左腕と両足で大地を蹴って突き進む。 平和大国・バブル全盛期の昭和の日本で泥にまみれて国防の訓練をしている。 『こんな事はナンセンス!』と思い込んでた自分だったけど… いつしか当たり前の毎日になっている。
 学生時代にはあまり経験しなかった苦労という日本語。 毎日増える傷。 毎日減る体重。 夜になると明日が不安だった。 何度も逃げ出したくなった事はあったけど… 慣れてしまえばOK! 

             
『若いうちの苦労は買ってでもしろ!!』

とはよく言いますが… 此処では『若いうちの苦労は金もらってしてます!!』という感じでしょうか♪

 雨の日は戦闘服の上に合羽を着て匍匐前進。 水溜りの中に飛び込んで大地と一体化! 半長靴の中はグジュグジュ。 合羽なんて気休めに着てるだけなのでパンツもグジュグジュ。
訓練場からの帰りは汗だらけ&泥だらけで駆け足行進。 半長靴の中はマックシェイク状態です。 泡が立ってきます。 一人ぼっちでやってる事なら今すぐ辞めてただろうけど、2区隊36人でやってれば笑えてくるから本当に不思議でした。

 何度こんな訓練をしてきたのだろうか?
明日からは駐屯地内にある訓練場ではなく、検閲(成果発表会みたいなモノ)に備えて演習場にて訓練が行われる事になる。 演習場での戦闘訓練… それは想像を遥かに超える訓練となった。 

 そして検閲…  『我ここにあり!』と叫びたくなるほど感動のクライマックスとなる。 

by606