144 陸曹候補生への道 其の四

 面接(>。<)  取調べというか、尋問というか…  昔からあまり好きじゃなかった。
 所謂、自己紹介。
 面接を受ける側は、どーせ自分を良く見せる事、自分に都合のいい事を言うだけに決まっている。  綺麗な自分。  ヤル気のある自分をアピールするだけの事。
 面接をする側の手元には、どーせ下調べされた過去の資料や履歴書、それに自己PRがあるはず。  面接なんて無意味な事だし、茶番劇だとしか思っていなかった僕は、緊張とか全然無かったし、自分の長所・短所・尊敬する人とか必ず聞かれそうな事を予習する気も無かった。


 面接の順番は20人中2番。  さっさと着心地の悪い制服を脱いで、さっさと終わって居室で寛ぎたい気分だったのでナイスでハッピーな順番でした。
 面接会場となる駐屯地会議室の廊下で最初の隊員が終わるのを一人待つだけだったので、隣の数人が虎の巻ならぬ自分がPRしたい事をまとめた資料に目を通しているのを「アホらしっ!」と腹で笑って、日曜日は何処に遊びに行こうか考えながら仮眠。


 最初の隊員が一礼をして面接会場から出てきた。  「ちょっと緊張してきちゃったなぁ♪」と、僕の後に並んでいる隊員に余裕を見せつつ、顔色の悪い隊員に笑顔をもらう。


 「はい。 次!」  事務的な呼び方しかできない階級が高い偉い人に呼ばれた。

 「本多士長入りま〜っす♪」  語尾をのばしてヤル気の無さをアピール。  
 (@。@) おお! 偉い人がたくさん並んでいる!  3佐(少佐)以上がこんなに並んでいるのはASP訓練以上の光景。

 「第3○○中隊 本多士長です。 よろしくお願いします。」  まぁコレだけで十分じゃねーの?  どうせ3佐から見た陸士長なんて消耗品にしか見えないのだろうから…。


 開口一番、「君はなぜ陸曹になりたいのかね?」と…  ボクシングの試合で1R開始早々いきなりカウンターパンチを喰らって片膝を崩すような質問を受けた。

 「…。」

 「…。」

 「んんんんんんん…。」  答えが見つからん(>。<);   1問目でチェックメイトの雰囲気。
 だって別に陸曹になりたくて今ココに居るワケじゃないし…  強いて言えば江藤より階級が上になったら面白い!程度で今ココに来てるんだもんなぁ。  どっちの答えも答えになってないし、更にツッコミが入りそうだもん。 


 「えっと… 自分がどこまでやれるか挑戦してみたかったからです。」と…  それほど長い時間考えていないと思うけど、自分では1時間ぐらい時間が止まったように思えた時間で、やっと手ごろな答えを返す事ができた。

 その時、全員の面接官の頭の上に『?』が表示され、全員が固まったのが分かった。  「ヤバイ雰囲気だなぁ〜。」と思っていたら、思っていた通りに更にヤバイ質問が投げられた。

 「それはどういう事なのかな?」

 あかん(>。<)@  もうダメだ(>。<)@  

 「なんとなく…。」  

 面接で↑こんな返事をする奴は自衛隊以外にまず存在しないだろう。

 全員の面接官の頭の上にあった『?』が2つ、3つと増えていったのが本当によく分かった。


 その後は、「君が尊敬する人は?」  「うちの親父かな?」とか…  「好きな音楽は?」  「ヘビメタとかハードロック全般です。」と…  面接じゃなくて、やっぱり自己紹介タイムみたいなもので終始。  1500m持久走を5本くらいやった疲労感。
 面接会場に入る前は二十歳そこそこの元気な青年だったのが、面接会場から出る時は疲れきった表情で定年退職間際の隊員状態。  なんかこういう展開…  多いよなぁ。


 とりあえず全部終了。
by606