131 ホークミサイル実弾実射訓練 其の六 |
ドッキングの練習は仲の良かった1年後輩に、こっそり手伝ってもらっていました。 「左ゼロ! 右5cm!」 その5cmのズレを修正するには右の誤差を2.5cm修正してドッキングさせなければなりません。 5cm修正すれば左がズレちゃうもんね。 「左3cm! 右ゼロ!」と… そう簡単にはドッキングできない。 左右ピタッと合った時は『ゼロ!』と言われる。 その一言がスッゲー快感だった。 何度も何度も繰り返し練習してローダー車とパレットの感覚を身につけようと努力しました。 そして迎えたプレASP。 訓練場で行う練習の〆! 学芸会で言うところの校内発表会。 またまた雲の上の階級の方々がドッと観に来ます。 それなのに… 嗚呼、それなのに… あの頃ヘビメタにハマっていた僕は、前夜にコンサートに行って、ヘッドバッキングをやり過ぎたおかげで軽いむち打ち症になってしまっていた。 首が回らない。 歩くだけで首が痛い。 それでも3歩以上は駆け足の自衛隊。 検閲ともなれば、やたらめったら集合解散を繰り返される。 その度に全力疾走だ。 口を真一文字に閉じて、首を守りながら走る姿は忍者ハットリ君。 ローダー車に乗ってる時はスッゲー楽だった。 プレASPも中盤に入り、僕達が組み立てたミサイルをパレットからローダー車に積み込む時がきた! 駐屯地指令はもちろん、陸上幕僚幹部(駐屯地指令よりも階級が上)や側近の幹部、はたまた新隊員教育隊も遠くから見学している。 スッゲー緊張する。 なんとしてでも1発でドッキングさせねば。 久しぶりに味わうド級の緊張感。 「前へっ!」 班長が両手で自分を仰ぐように出す前進の合図に従って、ローダー車のアクセルをゆっくり踏んで、キュルキュルと前に進む。 「ゆっくり… ゆっくり…」 班長の両手はローダー車の爪とパレットとの距離を表すように両方の手のひらを近づけていく。 班長の両手のひらがピタっと合った時に、他の二人が「ゼロ!」 「ゼロ!」と左右から叫んだ。 1発でドッキングに成功! 観ていた人達から拍手をもらいながらパレットからローダー車にミサイルを積み替えました。 そのまま発射機まで3人に誘導されて移動し、発射機にミサイルを搭載して舞台から消えて行く。 (>。<) くぅーっ! 目立っちゃった! 自分で自分に惚れたぁ! 中隊長やたくさんの幹部にヘルメットを叩かれたり、背中を押されたり、くすぐられたりして褒められたけど… 首が痛くて死にそうだった。 「本番も頼むぞ!」と中隊長に真面目半分、笑顔半分で言われた。 「任せといてください!」と、空っぽの笑顔100%で答えました。 だって… 一発でドッキングできたのは、昨日の練習の時に左右ゼロになった時のキャタピラの跡以外全部消して、ゼロの足跡だけを残しておいた。 そして今日その足跡を同じように進めば、同じようにドッキングできちゃう!って技。 誰にも気が付かれずに成功しただけの事。 仲の良い一年後輩だけが、こっそり知っていた。 ヤル時だけヤレばいいのが自衛隊なのさ♪ by606 |