13 銃授与式
 陸上自衛隊員にとって無くてはならないのが『自動小銃』です。 
入隊する前は「鉄砲持てるぞ!」「実弾射撃訓練あるぞ!」と… その道のマニアなら涎がでるくらい嬉しい言葉だったでしょう。 しかし僕は全然興味がありませんでした。 と言うよりも実感がなかったです。 『鉄砲』『銃』『実弾』『射撃』 どれも頭にはありませんでした。 徐々に染まってきた頃には大好きになってましたが。(笑)

 豊川駐屯地に入隊試験を受けに行った時に、駐屯地の正門で小銃を持ってた隊員さんを見たぐらい。 その時は小銃がどうこうよりも頭の中が真っ白で「いずれこんな事もやるようになるのかな?」ぐらいにしか見てませんでした。

 もちろん入隊してからは何度も小銃を見てます。 それが実弾が入ってる! 今すぐ撃てる! となれば近づきたくもない品物です。 だけど100%弾が入ってない事が分かれば張子の虎です。 オブジェにしか見えませんでした。 ただ… 小銃を抱えて走ってる隊員を見て「うわぁ〜大変そうだなぁ!」とは思っていました。 実際、これが本当に大変なのですが…。

 銃授与式。 これまでいろんな○○式というのがありましたが、この式ほど簡単&楽だったモノはありませんでした。
 武器庫の前で、1区隊1班から順に授与式は始まりました。 遠くから「じゅう!」「じゅう!」と叫び声が聞こえてきて、いったい何やってるのだろうか?と思った。    
 2区隊2班の順番がきて、別の武器庫の前に整列。 班長から「武器係りから銃を渡されたら大きな声で『銃!』と叫んで節度を持って受け取るように!」と指示されました。

 武器庫を開けると警報装置が鳴り響きます。 そして重そうな扉を開くとドドーンと64(ロクヨン)式7.62mm自動小銃が並んでるのが見えました。 綺麗に並んでましたね。 なんとなくカッコいいと思った。 
へんてこなオイル臭さと鉄の臭い。 初めて嗅いだ『戦争の臭い』でしたね。

 さらに10丁ずつ立て掛けられてる棚の鍵を開けて1丁ずつ手渡されました。 ちょっとドキドキしたけど僕も「銃!」と叫んで受け取った。 どうしてイチイチ「銃!」と言わされたかは知りません。 きっと何か意味があるのでしょう。 昔からの伝統なのかな?

 64式自動小銃を受け取って、その重さに驚きました。 「鉄砲ってこんなに重いのぉ?」と武器係りにタメ口聞きそうになったぐらいです。
 銃口付近はカッコいいのに、銃尾の部分はなぜか木製でカッコ悪い。 第2次世界大戦のままなのかな? 
さらに『銃剣』(笑っちゃう画像ですが)というモノも付属品の如く受け取りました。 この銃剣…単品だとカッコいいナイフみたいな小刀なのですが、これまた第2次世界大戦を彷彿する一品でした。 昔、図書館で読んだ『のらくろ』の突撃シーンでよく見ました。

 「いいかぁ! 手渡された銃は自分だと思え!」 「命だと思え!」 「粗末に扱ったらキチンと礼をさせるぞ!」と…マジで怖い顔をして忠告された。 この時は特別なんとも思わなかったけど… 4年間の自衛隊生活で「この銃さえなかったら楽なんだけどなぁ!」と、銃を持つ度に思ったのは僕だけではなく、隊員の99%が思った事でしょう。
 それだけ重要なアイテムだったのです。

 銃授与式は「銃!」と叫んで受け取るだけで終了です。
銃を受け取り、各区隊ごとに分かれて銃の分解組み立て作業を行うため…各学習室に移動しました。

 わずかな移動距離だったけど銃を持っての移動は大変でしたね。 肩に担いで運ぶ方法(いずれ教育される)で歩いたのですが…肩と二の腕が痛くなった覚えがあります。

 学習室では銃の分解組み立てで使う専用の毛布(雑毛布)を広げて自分のスペースを確保します。
班長ならびに助教の指示通りに分解を開始します。 銃尾の蓋を開けると工具が入ってて驚きましたわ♪ 工具と言ってもわずか3種類ぐらい。 たったそれだけの工具で64式自動小銃は分解できました。 銃口やら銃身、銃尾などの大きなパーツもあれば…消しゴムのカスほどの小さなパーツもありました。 

 「これから何度も何度も銃の分解組み立てを行うが、どれか1つでも紛失したら見つけるまで探させるから肝に命じておけ!」 確かに1つでも無いと組み上がらない。 と言うよりも本当にオブジェになってしまう。 無くしたらどうなるか想像しただけで寒気がしました。

 組み立ては分解よりも気を使いました。 小さなバネなんて少し間違ったら勢いよく飛んでしまいそうだし… 手は油でヌルヌルだし。 なんとか組み上がって、銃の内部を専用の工具で掃除した後に班長の点検を受けます。
 銃が正常に動くかどうかを確認し、銃の中を点検して「9時の方向にゴミがある!掃除やり直し!」と返却されたりもする。
非常に細かい。 どれだけ綺麗にしたって、渡すまでに埃が入る事だったあるじゃん。

 一通り分解&組み立てを行い、自分の銃に魂を吹き込みました。 銃を持っての訓練・戦闘訓練・射撃などなど…これからず〜っとコイツと一緒です。 爪の中はもちろん、手のひらや戦闘服が油だらけになりました。 手の臭いを嗅げば64式自動小銃の臭いが残ってる。 しかし、そんな臭いは直ぐに慣れてしまうほど…これからの訓練で出番が多くなります。 毎朝「銃!」と叫び続ける前期教育課程。

by606