107 大型免許取得 其の六 |
【実技教習 @】 3人一組で一人の教官(班長)と1台の教習車で半日習う。 僕が当時『陸士長』で、福ちゃんという『陸曹候補学生』(例のエリートコース隊員)と荻ちゃんという『一等陸士』の3人。 3人とも別の駐屯地からココに集まった。 2人が何処の駐屯地から来たのか… あまり考えなかったし、考えても意味の無い事でした。 福ちゃんは裕福な育ちで5つぐらい年上。 頭だけでエリートコースに進んだタイプ。 荻ちゃんは上下関係を重んじて、同年齢でも僕には敬語を使ってくれた3ヶ月後輩の素敵で無口で無表情な奴。 そして教官は若い頃は鉄人レースに出ていたほどの肉体派。 話す時は後ろ手に組んで下から睨み上げて話すから、そりゃあ怖かったですよ。 どの班長にも共通して言えるのが誰もがキレやすいタイプだという事。 その中でもキレたら半端なさそうだったのが、僕たちの教官でした。 階級は二等陸曹。 福ちゃんより1つ… いや、福ちゃんがすぐに追い越すけど1つ上です。 教習車は型遅れの3.5t装甲車。 荷台は幌も幌骨もなく、後方視界を得る作り。 1〜6号車(1班〜6班)まであって、僕たちは2班なので2号車にて教習を受けます。 朝礼もしくは昼礼が終わったら、駆け足でモータープール(駐車場)まで移動して、教官が来るまでに各班ごと車両の点検を行います。 フロント部分から細かく点検するのですが… 毎日毎日「ヘッドライト良し!」とか「ホーン良し!」とか…正直無意味に思えたけど、これが自衛隊なのです。 「やれ!」と言われた事は無駄な事と分かっていても実行しなければなりません。 「ナンバー良し!」って何が良しなんだろうね。 教官が歩いて来るのが見えたら教習車の前に整列して、一番階級が上の福ちゃんが「2号車異常なし!」と教官に報告。 どんな時も後ろ手に組んで、下から睨み上げて「今日は最初だから発進停止の練習から行う。」と今日の予定を僕たちに告げる。 その後で、機嫌が良い時は昨夜飲んだ話とか、面白かった話をするのですが… 機嫌が悪いと何も喋らずに、「乗車」と低く小さな声で命令を受ける。 3人声を揃えて「乗車!」と復唱して僕と荻ちゃんが荷台に乗って、福ちゃんが助手席に乗ります。 「乗車良し!」と荷台から報告して、教官が教習所まで運んでくれました。 まぁ正門を出て15秒くらいで教習所に着いちゃうのですがね。 その僅かな間の走りでも機嫌の良し悪しは分かった。 特に午前中、僕たちが学科教習をしてる間に教習所で教官を怒らせたかどうかは分かりましたね。 3人揃って発進の手順と止まる時の手順を教官から説明を受けました。 そして階級順に福ちゃんから運転席に座らされて発進の手順を実技教習。 いきなりの3.5t大型車! ゆっくり動き出した教習車。 しかし突然ロデオマシーンの如く上下に暴れ狂った! クラッチの繋ぎ方が唐突だと暴れるらしい。 エンストするのか?クラッチが繋がっているのか?微妙な位置でロデオマシーンになるみたいだ。 暴れ牛状態の教習車は助手席のブレーキで止まる。 しかも教官の怒りが込められているから超急ブレーキ。 低速でも鞭打ち症になるほど福ちゃんは前のめりになって驚いていた。 正直大笑いしたけど…次は僕の番。 「前方良し! 後方良し!」と指差し確認して教習車に乗り込む。 「シート位置良し!」と…マニュアルに従ってやっていたら、「さっさとエンジンかけて発進せんかいや!」と、何も悪い事してないのに罵声を浴びせられる。 ただでさえドキドキしてるのに、真横で怒鳴られたらドキドキするやんか! 運転席に座って、いきなり3.5t車の発進を命じられた。 ドキドキさせるから発進すらできない。 ロデオマシーン状態にすらならない。 「クラッチを少しずつ離してコツンと当たるところがあるやろう? そこで一旦止めてみー!」と… 教習じゃなくて脅迫。 コツンと当たるところで教習車がユルユルと前進した。 「ゆっくりアクセル踏んでみー!」と言われたので、ゆっくり踏んだらロデオマシーンになって、超急ブレーキで鞭打ち症。 怒叱られて教習車から降ろされて自信喪失。 続いて荻ちゃんが乗車。 「失敗しろ〜! 怒られろ〜!」という念を福ちゃんと一緒に送り続けていたら… キレイに発進して2速、3速とシフトアップまでして教習所を1周して僕たちの前でキレイに停止した。 満面の笑顔の教官。 荻ちゃんは相変わらず無表情で教習車から降りて戻ってきました。 無表情というよりはクール。 再び福ちゃんがロデオマシーンになって鞭打ちになってる間に、「なんであんなに上手なの?」と荻ちゃんに尋ねたら… 普通免許を持ってやがった!! 立場上(階級上)負けるわけにはいかないけど… 一等陸士の荻ちゃんが神様に見えた最初の実技教習だった。 by606 |