103 大型免許取得 其の弐 |
到着した日の夜は、静かに消灯を迎えた。 「明日からどんな毎日なのだろう?」 先が見えない気楽さと不安が入り混じった静かな夜でした。 翌朝は廊下で点呼整列。 ただの2列横隊で人数確認。 いつのまにか36人もの隊員が集まっていた。 それもそのはず、18人部屋が2つで36人。 新隊員後期教育隊の時の倍! 暑苦しい! 狭苦しい! またしても全国から個性的な奴らが集まった。 さすがに二等陸士は居なかったですが、一等陸士がちらほら居たのが羨ましかった。 一等陸士で来たという事は未だ一任期の途中だという事。 羨ましいなぁ。 なぜか三等陸曹も居る。 ぷちエリートコース出身の曹候補学生だ。 同い年か年下のくせに同時期に入隊しても階級が上。 しかもトントン拍子に階級が上がるエリートコースの三等陸曹。 到着した時から完全なる上から目線だった。 1つの教育隊に一等陸士から三等陸曹まで居る。 これまでの教育隊は同期生だけだったのに… 中隊とは違う、今までの教育隊とも違う。 異様な空間。 点呼が終われば朝礼までに朝飯とトイレ・歯磨きを済ませます。 掃除は何処を掃除すればいいのか分からないし… 誰も率先してホウキなんて持たない。 我先に自分の身支度を黙々と済ませるだけ。 ますます異様な空間。 「朝礼集合準備やっ!」 サングラスをかけた自教関係者らしき隊員が低い声で1回だけ囁く。 ダラダラに慣れてしまった中隊生活を引きずって戦闘服を整えながら朝礼場所に向かいました。 「さっさと集合せんかいや!」 「とりあえず4列横隊に並んどけ!」 ムカつく言葉使いだと思いながら適当に4列横隊に並んで国旗掲揚。 駐屯地の国旗が全く見えない場所だったので国旗がある方向に向かって姿勢を正す国旗掲揚。 ラッパの音が鳴り止んだところで国旗掲揚が終わる。 「おまえらみたいなヤル気のねー奴らの面倒なんか見たくもねーから帰りたい奴は今すぐ帰れや!」 「帰るのが嫌で残る奴は普通に免許が貰えると思うんじゃねーぞ!」 「アホれーとしとったら殴り倒すでのう!」 方言混じりの脅しは妙に迫力があった。 「6人一班制で3人一組や。」 「午前と午後で学科と実技が入れ替わる毎日だでのぅ。 今から割り振るでよー聞いとけや。」 という事で僕は2班となり、他5人とも知り合った。 直接行動を共にするのは3人。 「面倒くせー! 三曹が居るじゃんか!」 あ… でも僕より階級が上の人が居たほうが気楽かな? もう一人は大人しそうな一等陸士だし♪ 責任は三曹君に背負わせて、雑用は一等陸士君に背負わせれば楽しく3ヶ月間が過ごせそうだ♪ こういう計算だけは早いのが僕です。 いつも2班とか2区隊とか2直とか… 『2』に縁があるから不思議。 2班というのは教習車が2号車で、教習車は6台存在します。 もちろん各班に一人の班長(教官)が存在。 6人の班長と、学科専門の教官。 それとヨボヨボ爺ちゃんの教育隊長で自教は成り立っているのです。 2班の教官… 6人のうちで一番喧嘩が強そうでした。 マラソンが得意で… 若い頃は鉄人レースにも出ていたそうな。 雰囲気的にはアニメ『タッチ』に登場する監督代理:柏葉英二郎そのもの! スッゲー怖かったです。 腕の太さは半端じゃなく… 「テメーらがハンドル操作を誤った時にいつでもハンドルを奪えるように右腕だけは鍛え続けとるんじゃ!」と…。 最初から逆らうつもりなんてないけど、要注意人物に値する。 各班に分かれて、青空の下で自己紹介が始まった。 「第8高射特化群 第3○○中隊から来た本多です! 愛知県西尾市出身。 二十歳。 射撃が得意です! どーぞ宜しくお願いします。」と、ある程度マジメに自己紹介をしました。 「善通寺から来た○○三曹です。 宜しくお願いしま〜す。」と… ちょっと階級が僕よりも上で、教官よりも年齢が半分以下なのに教官と1つしか階級が離れていない事からナメた口調で自己紹介をするエリート隊員。 「○○… 趣味はぁ?」 「特にありませんが…。」 絶対ヤバイ雰囲気。 これってエリート隊員の挑戦? 教官…ますます柏葉英二郎と化してきている。 「○○よぅ! 趣味の1つもねーのか?」 「趣味がないとイケナイのですか?」 おいおい。 昨日、暴力教室のビデオでも観たのかよ! なんで自己紹介タイムでこんなに熱くなるの? マジメに自己紹介した僕が優等生みたいじゃん♪ つか…中学・高校じゃないんだけどね。 そうこうしてる間に他の班では教官にぶん殴られてる隊員が(@。@); いい加減な自己紹介をする隊員も隊員だけど、教習中でもないのに既に殴られてる隊員ていったい?? 久しぶりにドキドキする課業だ! もの凄い圧力! 今まで中隊でのほほんと過ごしてきたから怖いのを通り過ぎて、むしろ笑える。 新隊員教育隊の半年間よりも凄い所に来てしまったのだろうか? 殴られても逆らえない。 逆らえば追い出されて免許が取れない。 教官にとってはそれが盾であり、矛でもあるのだろう。 僕たちには弱味でしかない。 自教を追い出されて中隊に帰らされたら、中隊どころか駐屯地中で恥をかく事になる。 大型免許が無ければ仕事にならないから上官には相手にされず… そんな隊員は部下からも相手にされずにナメられるだけ。 その日は松山駐屯地の案内と、教習所の案内で一日が終わりました。 駐屯地の正門を出て最初の信号機を直進すれば… そこが陸上自衛隊松山自動車教習所。 一般の人は居ません。 僕たち36人が3ヶ月間、予科練の如く扱かれる地獄の教習所がそこにあるのです。 3ヶ月間… 週替わりで班の3人一組が午前と午後で入れ替わって学科・実技を毎日学ぶ。 大型免許を取得するのが仕事。 仕事だから衣食住を与えられ、給料もボーナスも貰える。 もちろん教習にかかる費用は必要ありません。 タダです。 それが自衛隊。 by606 |