6/3.4(土日) 二ッ峰

飯豊主稜線から新潟側に目をやると、ひときわ鋭い鋭鋒に気づくだろう。その頂を見たアルピニストならばそこへ立ってみたい衝動にかられるのではないだろうか。残雪期の縦走路として有名な二王子〜門内。あるいはかつては登山道として整備されていたものの諸事情により廃道となった胎内尾根。この2本のルートを辿る時にこの頂を越えることとなる。去年同時期、日帰りで胎内尾根に入り一ノ峰まで行きその頂を目に焼き付けて帰ってきた。今年は4月の低温傾向から雪消えは遅れている。チャンスは今しかない、そう考えた。門内小屋まで1日で辿り着けないことも十分考えられるので、テントもザックに入れた。

6/3(土)2:54 家を出る。風倉トンネル手前で一般車両進入禁止。そこから自転車で奥胎内ヒュッテを目指す。今まで担いできた中で最高に思いザックがずしりと肩に食い込む。ほぼ登りこう配のこの道、早くも降りて押すこととなる。サイクリストのはしくれとしては、このくらいの斜度で降りて押すなどということはすなわち敗北を意味するようなものなのだが、乗れないものは乗れない。ほとんど拷問のような自転車によるアプローチも1時間ほどで終わらせることができた。ヒュッテを通り過ぎて舗装された林道から右へと下るスロープと呼んでも差し支えない道に進む。胎内川と頼母木川の合流点近くにある吊り橋から今では廃道となってしまった「胎内尾根」ははじまる。その吊り橋が、、

胎内尾根初っぱなの吊り橋 ずぐなしなのでこの橋は渡ることができなかった
10秒ほど考え、2歩ほど渡ろうと試みるがそれ以降足は出ず、胎内尾根は却下。一般登山道の足の松尾根に予定変更。登山口までまたもや自転車に乗る。しかしここからの道路も急こう配だ。また降りて押す。まぁ、ゆっくり行けばいいさ。未舗装になりしばらく行くと林道に土砂がなだれていて、その手前で自転車をデポし歩いていく。家を出るころには星も見えなかったが、すっかり広がった頭上の青空に、良い景色を見られるのではという期待と、暑くなりばててしまわないかという不安が交錯する。

6:55登山口。(足の松尾根取り付き)

足の松尾根へようこそ byブナの巨木
木漏れ日を受けて気持ちの良いブナ林を進むと、がつんと壁のような斜面にぶちあたり、道はその斜面に電光形につけてある。ここは手を使いながら着実にゆっくりと進む。急登ひといきで尾根に乗ると斜度も落ち着く。あとはなだらかになったり急登になったりを繰り返し高度を上げる。重荷のせいか姫子の峰までもたずに標高500mを越えたあたりで早くも休憩を入れる。そして眺めの良い姫子の峰で再びザックを下ろし木の根に腰をかけ(8:12)、はるか遠くの飯豊主稜線に思いをはせ上昇した心拍数をクールダウンさせる。

ふと現れたヒメシャガ
10:22 直進すると水場への道で、右折して、雪で埋まったヒドを渡る。残雪と新緑のコントラストがまぶしい。

                  カタクリ
この尾根は1400mぐらいからの所ががまんのしどころだ。そこを忍の一字で耐え、なんとか大石山の西のピークでほっと息をつく。緩やかになった道をわずかに進むと(0:12)大石山の分岐だ。取り付きから5時間20分ほどかかった。ここは飯豊主稜線とはいえ、ほとんど最低鞍部なのでまだ油断できない。しかし疲れには勝てず、標柱脇の草の上で5分ほど横になる。そうしたらいくらか充電できたようだ。ハクサンイチゲたちはまだ眠っているだろうか、それとも、、と期待しながら頼母木小屋へ向かう。

咲いていてくれました
              ハクサンコザクラ
しばし可憐な花々たちとたわむれのあと頼母木小屋へと歩を進める。疲れた脚にはわずかな登りでもしんどい。1:30 頼母木小屋。さて大休止するぞとザックを下ろし、火を使おうとがさごそする。コッヘルセットが出てこない。なかみを全部出しても見あたらない。♪そし〜て僕は途方に暮れるゥ あのころの君の笑顔でこの部屋は満たされてゆく ならいいが、現実問題としてこの局面をどうとらえるか。ざっと見て、火を使わなくても食べることが出来る物だけで、なんとかぎりぎりカロリー摂取できそうだ。ということで大きな不安をかかえながらも門内小屋を目指した。頼母木山までは小屋からおよそ30分弱。一ヶ月ぶりのお地蔵様である。あの時辿った藪を目で追うがはっきりしない。次は地神北峰だ。単独行とスライドする。よく見れば新津のNさんだ。おととしの御西小屋、去年春の蒜場、先月の西俣〜頼母木、そして先週の粟。これだけ会ってしまうとおかしくなってくる。氏は石転びを登り、今夜は杁差小屋、明日は丸森下りだそうだ。ではではと別れ、ペースの落ちた足取りで地神北峰(3:35)。ここでは二人連れとスライド。話す言葉が同じようなので訊くと三条のひとたちだった。「足を止めさせてしまいすいませんでした。」と別れ際に言ったセリフが、あぁ新潟の人らしいなと思わせた。こちらは話しができうれしいくらいだったのに、そんなセリフをもらうとは思いもしなかった。体は疲弊しきっていたが気持ちは軽くなった。4:00地神山、新潟側はガスにかくされていた。反対の山形側はまだクリアな空のままだ。4:40扇の地紙。門内小屋、誰かいるだろうか?もしいたら鍋を貸してもらおう、などといやしい考えがわいてくる。なだらかな胎内山の登りでさえやっとこさっとこ歩く。小屋手前の池の近くに水の流れる音がする。融雪水が取れるようだ。5時までに小屋に入りたかったが10分遅かった。5:10門内小屋着。

重い扉をぎぎぎと開ける。一階右にひとり横になっていて、左にひとり分の荷物がもとめられていて、二階にもひとりいるようだった。一階の左奥に居を構えることにする。荷物を置き水を汲みに行く。さきほど休んでいた人に鍋を貸してもらおうと願い出ると、こころよく承諾してもらえた。おかげで人並みの夕食&朝食を摂ることができた。夕方になって新潟方面もいつしかガスが消え去り、胎内渓谷とそれらを囲む山々が姿を見せ始めた。新潟東港の火力発電所の鉄塔が良く見える。

       夕陽を受けて光る日本海 5:53
        ダイグラ尾根、飯豊本山、クサイグラ尾根、烏帽子岳、北股岳 たなびく雲 6:36(夕方)
小屋に泊まっても寝たのかよくわからないまま朝になるパターンが多いが、今回はよく眠れた方だと思う。以前、大朝日の小屋でもガスのカートリッジを忘れた時があり、その時もよく眠れた。なにかを忘れると、よく眠れるというよくわからない因果関係があるのか。


6/4(日)

窓の外が白み始めてきた3時半頃起床。朝食を摂ったり、日の出のドラマを眺めたりしてすごす。

門内〜二ッ峰のログ
朝の雲海
5:35 行動食、水、雨具、それらだけザックに入れ残りは小屋に置いて二ッ峰を目指す。アイゼンは車の中、ピッケルは藪で邪魔になるだろうとこれも小屋で留守番。門内岳山頂より少し北股岳方面に進んだ所から西に向かう。残雪の上に昨日のパーティーのアイゼンのトレースをなぞるように進む。雪面が固くアイゼンがあったほうがより安心かなという場面もあるにはあったが、それほど難渋せずに通過。雪が切れて頂稜のチシマザサの中を歩く所も出てきたが、門内に近い所はそのチシマザサの背丈の低く、かつ、踏み跡もしっかりしている。

5:39 二王子への道
また雪の上を進む。目指す鋭鋒が近づいてくる。前方左に蒜場〜大日岳の稜線。乳房のような烏帽子山。空はピーカン。枝につかまり体を持ち上げなければならない場面も出てくる。足場がすだれのようになっていて踏ん張れない。より滑らない、わずかなスタンスを見つけファイト一発。なんとか安全地帯までこれたと思ったのもつかの間。わずか数メートルではあるが、チシマザサの海を渡らなければいけない。背丈も高いが太さも今までで見たことがないくらいの太さ。覚悟を決め突進する。前傾姿勢で猫科の動物のようなイメージ。チシマザサの根元を手でかきわけ、体をそこに入れ、またかき分け、少しでも藪が薄そうな所を選んでじりじり進む。離した竹がはじけてサングラスが飛ばされる。漫才のやすきよのやっさんが眼鏡を探すようにサングラスを探す。これが無いと雪目になってしまう。あせりながら探す。あったあった、ほっと胸をなで下ろす。しかし藪はまだ終わらない。また藪こぎを続ける。

前方が明るくなりようやく藪から開放される。藪ぼこりでのどがいがらっぽい。またまた快適に雪の上を歩く。近づく二ッ峰。振り返れば門内はじめ主稜線は高く遠くなった。そして二ッ峰直下まで来る。両手両足を使い慎重に登る。種類は忘れたが色々な花が咲いていた。長年憧れ続けたこのピークに本当に立てるのか。そう思うと胸がいっぱいになった。古びて錆びた鎖にすがりながらよじ登り、7:13 二ッ峰の三角点をなでる。越後の山旅で「極端にせまい」と紹介してあったその山頂は思ったより広かった。360°の展望を見渡した。

               中央 門内岳 右 北股岳  二ッ峰より 7:14
三角点と大日岳
帰り道が心配なので長居はできない。後ろ向きに下り、雪で埋まった藤七の池まで来て少しほっとする。来た時に通った藪にまた潜る。脱出し雪の上を進む。雪をかじりながら歩く。

北股川源頭部、オーインの逆峰、遠景右烏帽子山 8:12
門内の山頂に着いたのは9:23。小屋で失われたカロリーを補うべく食事を摂りながらパッキング。水場で水を補給(まだ午前中なので昨日の夕方よりも細くなっていた)10:20に歩き始める。10:43扇の地紙 11:16地神山頂 11:27地神北峰 11:53頼母木山頂 0:05頼母木小屋通過 お昼休憩。0:45出発。

                 アゴク峰とハクサンイチゲ12:53
1:10大石山分岐 2:03水場分岐(休憩) この足の松尾根を下山する時にいつも感じることなのだが、最後の休憩を姫子の峰でとろうと下る。しかし姫子の峰にはなかなか着かない。だましピークに2回ほどだまされる。今回もそう感じた。最後の激下りを一歩一歩慎重に足を運び、ブナ林でほっとし、4:07足の松尾根取り付き。いつもならここに自転車が待っているのだが、今回はもうしばらく林道歩きをこなさなければならない。これが一番大変だった。次のあのカーブを曲がれば自転車が。そう思いながらも数回裏切られ、4:25やっとこさ自転車のところへ辿り着く。ヒュッテには4:32。それ以降は昨日の拷問のようなヒルクライムの見返りとして快適ダウンヒルで風になり5:10風倉トンネル手前の駐車地点に到着。帰路途中、出湯の[うるおいの湯300円]で二日間の汗とやぶぼこりを流し帰宅。二ッ峰の登頂、残雪と様々な花たち、会心の山旅と言ってさしつかえないであろう。

6/10記

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