タテとヨコとアテナとハーデス (日記より再録・一部編集)
チエ・ナカネ著 『タテ社会の人間関係』 という本があります。 1967年からのロングセラーであるこの書籍、一応日本社会分析モノなのですが、実はよく読むとアテナ軍とハーデス軍の組織の違いが構造的に説明されていて、聖闘士星矢好きにとってはそりゃあもう大笑いできる本なのです。 というのも、なんでもこの本によると、世の中には「タテ」関係重視の社会と「ヨコ」関係重視の社会とがあるらしいのです(ちなみに日本は典型的に「タテ」関係を重視する社会らしい)。そして、そのタテ社会というのは、組織を作って運営して行く際に、先輩後輩・上司部下といった直接の人間関係が何よりも重視されるので、たとえ同じ団体に所属していても、直属の上司が違えば、関係がものすごく弱くなるのだそうです。 したがって必然的に、「上司Aとその部下達」・「上司Bとその部下達」同士で固まってしまうことになり、さらに上司Aと上司Bの仲が悪かったり、上司Aと上司Bをまとめるリーダー役が不在だったりすると、部下が直属の上司の言う事しか聞かなくなってしまうらしいのです。 どこの冥界軍の話ですか、アナタ!(爆笑) いや、例えば、パンドラ様がハーデス城捨てろって言ってんのに「ラダマンティス様が直接命令しないかぎり言う事聞きたくありません!」とか堂々とのたまっていた御馬鹿な部下達とかですね。「ミーノス軍団とアイアコス軍団に後れを取るなー!」とか叫んでいた、その直属の上司とかですね。そんなバラバラな部下を持ちながら、部下同士の相互折衝なんぞにはまったく興味関心を持っておられなかった某冥界神様とかですね。 ちなみに、『タテ社会の人間関係』によると、このような社会は、その構造自体に常に分裂の危険をはらんでいる――つまり、必然的に内部分裂が起こりやすい。らしいです。 基本的に人間関係重視の組織なので、しっかりと全体がかみ合っていればものすごく強い組織になるが、その反面、リーダーの存在感が薄かったり、サブリーダー同士の仲が悪かったりすると、大変もろい組織になるのだとか。 結論。 ハーデス軍は、どうせハーデス様が何百年も不在なんだから、こういう、リーダーの存在感とかリーダーとの人間関係とかがすべてを決めるような、現状のような組織構造はさっさと捨てるべきだと思います。(ってまあ捨てろといって捨てられるもんでもないんだろうけどな……;) さて、他方。 聖域というところは、冥界よりもわりと「ヨコ」社会なようです。言い換えれば、冥界軍よりも日本的で無いということでしょうか。 まあ冥界軍が日本的な組織構造であるのは、作者が車田である以上仕方が無いとは思うのですが、聖域が「ヨコ」社会の要素をもっているっていうのは、多分「アテナ」や「教皇」という概念辺りから、意図せずして西洋的な組織構造が持ち込まれた結果かもしれません。 この「ヨコ」社会においては、組織の人間は、直接の人間関係に左右されない抽象的なルール(神とか立法とか契約とかそういう)によってつながっているのだそうです。 ……そう、これはまさしく聖域の統合原理そのものではありませんか。アテナという、人知を超えた形而上学的存在によって、有象無象の変人どもが見事に連帯しきっておる。 ちなみにこのヨコ社会は、タテ社会とは違って、直接の人間関係が組織の成立基盤な訳ではないので、仲の良し悪しとは無関係に、その共通の目的のもとに色んな人がまとまることができるのだそうです。 さらに、組織の根本は上下の人間関係ではなく共通ルールなので、身分の高低を問わず全員に発言権があり、ルールのもと正しいことを言ってさえいれば、身分の高低を問わず全員の意見が通り得るのだそうです。 (したがって、「上司に遠慮して自分の意見を言わない部下」だとか「暗黙の了解のもと、上司の意見が自動的に通る会議」だとかいういわゆる「日本的な組織」(?)のあり方は、こうしたヨコ社会の人間にとっては異次元に見えるらしい) しかしこれは逆に言えば、「暗黙の了解のもと、上司の意見が自動的に通る」という、ある意味で効率の良いまとめ方ができないため、必然的に意見統一がものすごく困難になるのだとか。 ……確かに意見統一、無理っぽいよな、あの面子(アテナ軍)。だって例えば、特に教皇に反抗していると言うわけじゃないにもかかわらず、十二宮に攻め上ってきた青銅聖闘士を勝手に試して勝手に通しちゃう某黄金聖闘士(しかも複数)とか。あと例えば、アテナが蘇った後ですら、彼女の制止を振り切ってまで、勝手にカノンをボコっていた某黄金聖闘士とか。(笑) しかしそれと同時に、何と言うか成る程、ああいう組織形態を取る事が可能な聖域とは、やはり本当に「アテナ」という存在が極めて重い意味を持っている社会なのだなあ。とも思いました。(ここでは明白に、「ルール=アテナ=地上の正義」ですので。) 実際、確かに聖域では黄金から白銀から青銅から一雑兵に至るまで、それぞれが直接アテナという存在を信じ、その原理に直接従って動いているような気がします。(この辺はもはや具体例を挙げるまでもないですが。青銅聖闘士とかカシオスとか。) しかし、ひとつ疑問なのは、アテナ軍だってハーデス軍と同じで自軍の神様が何百年もいないのに、どうしてこういうヨコ社会になり得たんだろう。 ……と、ふと思ったのですが、そうか!もしかしたらそのための教皇様制度なのかもしれません。アテナ不在の間も、教皇様の存在によって、アテナへの信仰=ルールが強固に維持できる、と。(なので集団の結束力が揺らがない、と。) ということは、逆に言うと、ハーデス軍とアテナ軍との組織構造の違いは、教皇様制度があるかないかの違いに由来する、のではないでしょうか。もしかすると。 とは言っても、全員が数百年間封印されてしまうハーデス軍にとっては、教皇様制度は実際問題、やろうとしても物理的に不可能なわけで。しかも既に述べた理由から、タテ社会的な組織構造を取ったとしても、一番のリーダーが数百年不在なわけだから、原理的に言ってもろいものにならざるを得ないわけで。 ……結論。成る程どうりでハーデス軍が勝てないわけだ。 |