紫陽花



 渇き切った故郷の気候の所為だ。
 およそ教皇という職務柄、ありとあらゆる土地を知ってはいても、降りしきる雨には未だに慣れない。見上げるシオンの困惑をよそに、当代アテナの故国でもあるこの極東アジアの異国の空は、今日も粛々と細やかな雫を落とし続ける。
 いったい何処から運ばれて来るのだろう。雪解けのヒマラヤの大河よりも豊かな水が、止めどなく絶え間なく天から滴り落ちて来る。こんなにも大量の水を浴び続けて、地上の生き物には何事も起こらないのだろうかと不思議に思う。思い続けてどれ程の歳月が経ったのか。いつものように何気ないある年の、初夏を少しく過ぎた頃。
 古びた社寺を訪れて漸く、合点が行った。
 しっとりと立ち籠めた朝靄のなか、まるで明けそめる空の繊細な色合いが、光と闇の一瞬のうちに、刻々と相貌を変えてゆくように。
 淡く深く、静かな蒼の暈かし染め。境い目すらも判らぬうちに、いつしか移りゆく神秘の紫。かすかにひらめく哀しみのように、花弁の縁は、ほんのりと紅く。
 七変化。
 やはり何事も起こらぬはずなど無かったのだ。こんなにも雨を浴び続けた所為で、斯くの如く美しい姿になってしまったのに違いない。その色彩は、どこかお前の面影に似て。
 ……かの心に降り続けたのは雨か、それとも。

 花などに喩えられたら、お前は気を悪くするだろうが。


《END》

***
2010年の日記再録。
何となく4割ほど手直し致しました。(本人主観比)
うちのサイトのシオンののろけ方は基本的にこういう感じ。
さり気ないし、本人に言わないし、外部にも漏らさないよ!だめじゃん!
まったく意味がないよ!でも恥ずかしいよ!
(恐らく「酷い話」のシオンは相当暑さにやられたものかと思われます・大笑)

紫陽花を見るたびに激しいムウ様萌えが沸き起こってならない。毎年。

***(2021.3.11追記)
設定的に気になる点を発見したので、ちょっとだけ修正しました。


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(2010/06/24 first draft @diary → 2011/06/03, 2021/3/11 rewritten by T'ika)