先日、田中亜矢さんの歌を聴きに行きました。
下北沢のleteという、とても小さな画廊部屋でのライヴでした。
前半、後半、間に小休憩をはさんでのアンプ、マイク一切なしの
純正アコースティックの、自然な音が自然に響くワンマン・ライヴでした。
前半は、アルバム「朝」からの曲と、久しぶりにやったというデビュー・アルバム、
「sail」から数曲。10年ぶりに新しく買ったというガット・ギターでの演奏。
あいだに、ドノヴァンのカヴァー。暫くギターを弾く手を休めて、アカペラで歌う小節が素晴らしい。
田中さんは、歌っている時と同じように話し、話している時と同じように歌を歌う人です。
歌によってガラリと表情を変えるという風でもなく、どの曲にも彼女なりの穏やかな心情が
強く刺し貫かれていました。その歌にある削られ具合が尋常ではなく、心地よい緊張感がありました。
後半では、ガット・ギターをゲストのボサノヴァ弾きの男性に委ね、ヴォーカルのみに専念し、
カエターノ・ヴェローゾを2曲カヴァー。一曲は「私の愛、私の人生」という意味のタイトルを持つ曲で、
カエターノがいつもライヴで、一番始めに演奏する曲なのだそうです。二人が歌う姿はとてもカッコよく、
この会場の部屋のトビラを開けたら、外はバイーアの浜辺であってほしいとまで思えるほどでした。
「私は引っ越しが多かったので、里帰りするところがある人が羨ましいです。」
「最近、壱岐の島へ行ったんですが、夜は真っ暗闇で月しかなく、日本の原風景を見た気がしました。」
と、日本のトラディショナルとも言える「ふるさと」をカヴァー。
もともと、僕はこの歌を聴くと涙腺がゆるみそうになるのですが、まさか田中さんが
演るとは思わず、アブナいところでした。この透徹とも言える演奏曲の選曲センスには吃驚しました。
すべての歌は祈り。ボサノヴァに代表されるブラジルの歌が持つ、精神性のようなものを、
僕は日本人である田中さんの日本語の歌から、ひしひしと全身に浴びせられたような気がしました。
田中亜矢/ふるさと
兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川 夢は今も めぐりて 忘れがたき 故郷
如何に在ます 父母 恙なしや 友がき 雨に風に つけても 思い出ずる 故郷
志を はたして いつの日にか 帰らん 山は青き 故郷 水は清き 故郷
(高野辰之作詞・岡野貞一作曲/文部省唱歌)
田中亜矢/いつまでも
「いつまでも」 きみが言った
どこまでも つづく波を見ていた
あたたかく 海は満ちて
どこまでも 青く広がっていた
「いつまでも」 ぼくが聞いた
やわらかい 風が吹いた
日は沈み 月が昇って
どこまでも つづく闇を照らしていた
[2005/08/10 03:21:46]