TITLE:エリック・アンダースン 


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NAME: miyata    URL
8月から9月にかけて、エリック・アンダースンはずっと日本にいた。

札幌、狭山、金沢、名古屋、京都、神戸、山口、長崎、熊本、福岡、広島、下北沢、横浜。

歌をカバンに詰めて日本中を旅した彼は、そのカバンを開け放って忘れたまま海を越えて帰って行った。
彼が帰った後も、そのカバンからはずっと彼の歌が聞こえて来て、彼の歌を聴きに行った人たちは、
原っぱで虫の声を聞くように、彼の歌をどこかで聴いていた。それは彼からの本当に素敵な忘れ物だった。
エリックが帰ってまもなく、日本には秋がやって来た。

エリック・アンダースンは、ウディ・ガスリーの衣鉢を継ぐガスリーズ・チルドレンと総称される
歌い手の一人としてそのキャリアをスタートさせたという。60年代のフォーク全盛期における重要な
ターニング・ポイント、64〜65年の「プロテスト・シンガー」から、「ニュー・フォークス」
「ライター・シンガー」への転換期。(シンガーソングライターという言葉は、まだなかった。)
社会的抗議一辺倒の表現から、自己内省、率直な私的感情の表現へ。そんなギターと歌を根幹としながら、
よりフレキシブルで、自由な音楽スタイルを模索するようになった「ニュー・フォークス」たちを、
当時全面に押し出していた「ヴァンガード」からデビューした一人が、エリック・アンダースンだった。

エルヴィス、エヴァリー・ブラザーズへの憧憬。ボードレーヌ、ランボー、ジェームズ・ジョイスらへの傾倒。
ボブ・ディラン、フィル・オクスら、フォーク・サーキット仲間。フレッド・ニール、ジェリー・ジェフ・
ウォーカー、トム・ウェイツといった、個性がジャンルからはみ出してしまった才人たちからの薫陶。
彼は03年、ビートニクス、オン・ザ・ロード、カムバック作の「BEAT AVENUE」という2枚組の
アルバムを、ボブ・ディランに捧げた。以下の言葉と共に。

BOB DYLAN:true poet,hard worker,man of constant wonder,good friend,teacher,the master

9月17日、そんな彼の単独来日公演を観に行きました。

下北沢ラ・カーニャは、落ち着いた雰囲気のグリニッジ・ヴィレッジのコーヒー・ハウスのようなお店。
地下へ続く階段を下りると、そこではハイド・パークで観たハンバートハンバートが歌っていました。
彼らは(鈴木慶一が述べていたように)、フェアポート・コンベンションのような、日の光に暖められた
田舎の庭や畑の土のような、牧歌的な大らかさを感じる優しくてさり気のない歌を歌っていました。
この日は、ヴォーカルとギターのデュオでしたが、宙を見つめて歌う息の合った二人の演奏は素敵でした。

エリックの登場。店内では小さく敷き詰められたイスに、みんなちょこんと座って観ていました。
僕はたまたまソデに近かったので、彼は僕と体が触れるくらいに近いところから登場して来ました。
だから僕は彼を真上に見上げるかたちで拍手を送りました。両手を合わせてお辞儀しながらステージへ。
エリックはとても背が高く、「ブルー・リヴァー」のアルバム・ジャケットほどヒョロヒョロではなく
とても逞しい体格。62歳とは言え、とてつもなくイイ男でした。聞いていて数分で、今自分が観ている
ライヴが非常にゼイタクな経験であることに気づきました。「ブルー・リヴァー」や「BE TRUE TO TOU」
(邦題:愛と放浪の日々)からの曲が中心で、(中にはセカンド・アルバムの一曲目、「VIOLETS OF DAWN
WITH DEBBIE GREEN, 2ND GUITER」のような相当古い曲もやっていました。この曲スゴく好きだ。
ハイド・パークでも披露していた、ルー・リードとの共作曲「YOU CAN'T RELIVE THE PAST」では、
ザックザックとタイトにビートを刻み、ロックでグルーヴィーな楽曲をギター1本
で表現する技量には、やはり唸らせられるものがあった。)
声のトーンはもちろん低く太くはなっていましたが、とても味わい深い歌声でした。
彼が歌の節目節目でごく微かにその表情を変える時、僕はなんだかとても切ない気持ちになりました。
中川五郎さんとの英語と日本語を代わりばんこで歌うデュエットでは、彼の歌の歌詞がどんなに切なく
ピュアであるかとうことがダイレクトに胸に迫りました。温かい男の優しさに満ちた歌の凄みを見ました。

言葉少なげに、歌と共に旅した男の歌。「愛と放浪の日々」に生きた男の美しさがそこにはありました。

ERIC ANDERSEN / BLUE RIVER

年老いた男は川へ行き 多くの悩みを落とす
もし彼がしたいというなら行けたんだ それは漕ぐための船なのさ

水色の川は流れ続ける 岸辺に沿って
深みや暗さから僕らを守ってくれる だって余り遠くまで彷徨いたくないから

ほこりっぽい道ばたで 老犬のモーと日々暮らしている
僕には彼の考えていることが分からない

けれども彼の為に、時はゆっくりと過ぎなければならないんだ…でしょ

水色の川は流れ続ける 岸辺に沿って
深みや暗さから僕らを守ってくれる だって余り遠くまで彷徨いたくないから

若いロブは、手におのを持って立っている
穀物が採り入れられるのを信じつつ 薪が積まれている、十ずつ
妻や、仲間や、子供たちや 
一族や…そしてひとりの友のために

水色の川は流れ続ける 岸辺に沿って
深みや暗さから僕らを守ってくれる だって余り遠くまで彷徨いたくないから
[2005/09/27 03:25:34]

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