去る24日、アニメーションクリエーター、武藤健司くんの映像作品を観に、
愛知万博へ行って来ました。僕は作品の音楽を担当させて頂いていたので、
門外漢ながら、ガンバってその一連の催しに付き添わせてもらいました。
彼の今回の映像作品は、万博で日々行われている無数の催しの中でも、
「市民プロジェクト」と呼ばれているものの中のひとつで、
「世界ミーム博覧会2005」というプロジェクトのコンセプトを表現した作品。
「ミーム」とは、生命体の自己複製子(遺伝子)に相当する、生物の脳から脳へ
コピーされるもうひとつの自己複製子(文化的遺伝子)という概念を表した造語。
このミーム(文化的遺伝子)という切り口で、文化伝承、知識進化、概念形成、
技術進化、組織進化など、知の形成プロセス、メカニズムを解明し、
モデル化することなどを探求領域とする対話プロジェクトが今回の催しの主旨。
遺伝子の表現型が生命体であるなら、ミームの表現型は、機械、道具、建物、
エネルギー、組織等…。人類の言葉の発明により、ミームは急速な進化を遂げ、
現代においては、ミーム伝播の乗り物としての脳、生物種とその存在を対立する
までに至っている。と実行委員会は警鐘的な報告をする。この現象の加速化を調整し、
遺伝子進化の産物である我々生命体との進化を適切にコントロールする必要がある
という事を対話や、作品制作を通して考えていこうと言う試みなのだそうだ。
こんな論旨の対話が、知識人たちの間で取り交わされ、その合間に僕らの作品が
バックのメイン・スクリーンで上映される。僕がついこの間、部屋で録った
インストの曲が普通に会場に流れ、なんだか呆気にとられ、不思議な気持ちになる。
また、純粋に作品として録り直すことになってはいるのだけど。というよりも、
録り直す必要多いにアリ。こんなテーマだったとは、やっとおぼろげながら知覚。
日中は万博観光に繰り出し、夕方、関係者のバスに同乗させてもらい名古屋能楽堂へ。
ミームの概念に基づく、ポスト・デジタル社会のコンピューターを介した、
音と映像のインスタレーション。これがなかなか興味深かった。
みんな本気のアート。
中でも、幸村真佐男さんというメディア・アーティストの「天地人:色即是空」
という作品がクールで印象的だった。
スクリーンに映し出された、何気ない、町や自然、人の写真に、
「○即是○」の四文字が載り、舞台に一人立つ女性が、
ソプラノの、か細い消え入りそうな声で詠唱し続けていく。
以下、作家によるコンセプトの抜粋。
私が動きまわり、写真を撮影し、メモリーに収め、スクリーンに写し出す。
色即是空は私たちが認識している世界はすべて実は幻影にすぎないということだ。
JISの第一水準にリストアップされている漢字はおおよそ3000字だ。
それは中国人が造りだし、日本人が発達させて来た。三千の基本的な概念、現象、
物象であるし考え方のパターンを表している。色即是空の色と空の部分に
その3000字を入れ替える事によって、ただ単に新しい四文字熟語を創りだす
ばかりでなく、世界が相互に連関し万物が照応している事を、個別の漢字同士の衝突
と融合を通じて表現する。そしてそれらの四文字と百万を超える写真群との
偶然的な出会いと衝突によって、奇妙な不可思議な空間を構成する。
〜このような一連の催し。普段の自分にない経験が出来て非常に良かった。
挨拶させて頂いた、環境デザイン/クロスオーバーメディアの大学名誉教授の方。
「視覚の死角 死角の自覚」という、ポストカードの言葉が印象的だった。
武藤くん、どうもありがとう。そして、大変お疲れさまでした。
[2005/06/26 03:32:16]