24徳川侯爵家(尾張徳川家)

尾州徳川家御蔵品入札 大正10年11月7日 東京美術倶楽部

 徳川御三家筆頭である尾張徳川家は、御三家の中では、水戸家に次いで、大正10年11月7日に第1回、同17日に第2回の売立を実施したが、その目的は、他の旧大名家のような借財の返済や家の財政の安定化など、経済的苦境に対応するためのものではなかった。その経緯については、すでに小田部雄次氏が指摘している通り、尾張家伝来の優れた美術品・文化財の永続的な保存のため、財団法人徳川黎明会を設立し、美術品の保存、公開施設としての徳川美術館を建設する資金を得るためであった(『家宝の行方』)。この入札に関しても、高橋箒庵が、世話人として関わっているが、その出品作品に価値の高い物が少なかったため、度々、価値のある作品の出品を尾張家に求めたが、優品を美術館で保存しようという尾張家側の意向を崩すことはできなかったという。箒庵は、『大正茶道記』大正10年10月31日付「尾州家蔵品払」で、この入札の趣旨を紹介している。
 出品作に優品が少ないという当時の世評にも拘らず、第1回の総売り上げは、570,000余円に及んだ。