73大原孫三郎

三楽庵所蔵品入札 昭和15年2月16日 大阪美術倶楽部

 大原家は、江戸時代以来、備中倉敷で続いた豪商で、明治以降、倉敷紡績、倉敷レーヨンなどを創業し、日本の繊維産業等をリードした実業家一族であることは言うまでもない。三楽庵を号した大原孫三郎は、友人の画家児島虎三郎をパリに派遣し、収集させた多くの西洋絵画のコレクションを、大原美術館を設立して公開したことで知られる。一方、日本・東洋美術の収集においても、多数の優品をコレクションしていたことが知られる。
 近代日本における代表的な美術作品蒐集者である孫三郎であるにもかかわらず、昭和15年に売立を実施したのは、翌年1月に社長の座を子の總一郎に譲ったこと、この年の6月に、倉敷紡績が国光紡績を吸収合併したことと関連すると思われる。すでに、日本は戦時体制の統制経済時代に入っており、その中で紡績業は、大企業のみに集約する企業統合策が、国家によって進められつつあったが、この合併などの企業規模拡大策により、倉敷紡績は存続することができた。
 この売立では、「泣不動縁起絵巻」(現、東京国立博物館)、文成筆「牧牛図」(現、京都国立博物館)等の他、文人画をはじめとする江戸絵画、茶器類にも優品が多く出品された。しかし、これらは大原家の日本・東洋美術コレクションの一部に過ぎず、戦後も数多くの優れた作品を収蔵し続けた。