31酒井伯爵家(旧小浜藩主)

若洲酒井伯爵家御所蔵品入札 大正12年6月14日 東京美術倶楽部

 旧小浜藩主酒井家は、徳川幕府重臣の酒井家の別家で、徳川家光・家綱時代に老中・大老を歴任した酒井忠勝を藩祖とする。歴代藩主の多くが幕府の要職について活躍したが、幕末期に京都所司代に就いた酒井忠義は、幕府の立場を擁護する一方、幕府の権威を背景に、多くの茶器の収集に努めた。また、復古大和絵系の絵師、冷泉為恭に自家の「伴大納言絵巻」(現、出光美術館)の模写を行なわせるなど、その庇護にあたったが、為恭は、幕府要人との交際が反幕派から疑われ、暗殺されたことは、よく知られている。
 この入札は、108点と出品点数は多くなかったが、多数の優れた茶器が含まれていたことで、総売上2,400,000円に上った。最高落札額は200,000円の「国司茄子茶入」(現、藤田美術館)であるが、特に三井家は、幕末期、召し上げに近い形で忠義に買収された「北野肩衝茶入」(落札価格159,200円)、「二徳三島茶碗」(同76,200円)、「粉吹茶碗」(同76,200円)(いずれも現、三井記念美術館)などを買い戻した。
 絵画の出品の中では、平安末期の「吉備大臣入唐絵巻」(現、ボストン美術館)が出品され、札元の一人であった戸田弥七が188,900円で買収したが、その後、買い手がつかず、昭和7年、ボストン美術館に買収された。この海外流出劇が、旧国宝以外の文化財の海外流出を防止するための「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」制定の契機になった。
 なお、小浜酒井家伝来のもう一つの重要な絵画作品である「伴大納言絵巻」は、この入札の際には出品されず、戦後、出光美術館の所有になった。