64松浦伯爵家(旧平戸藩主)
84松浦伯爵家並某家蔵器展覧入札 昭和9年11月5日 東京美術倶楽部
松浦家は、鎌倉幕府の鎮西御家人となった松浦党に源を発する武家の名門であり、江戸時代を通して平戸藩主としての地位を保った。4代藩主松浦鎮信が石州流を学び、自らも鎮信流を開いた茶人であり、また、幕末・明治初頭の当主であった松浦詮も心月と号した茶人として知られる。特に、詮が中心となって明治31年に立ち上げた和敬会には、東京の華族、政財界人が集い、明治初期に衰えた茶道復興のきっかけとなり、その後の近代数寄者茶道の発展につながった。
松浦伯爵家の名では、昭和2年、6年、9年の3度にわたって売立を行なっている。金融恐慌以降の経済混乱の中で、松浦家でも所蔵品の売立を進めざるを得ない状況であったと思われるが、松浦家では、昭和2年の第1回の入札に先立ち、道具商山澄力蔵や王子製紙社長の藤原銀次郎らに個別取引で所蔵品のうちの優品を売却し、約400,000円を得たと高蓮箒庵『近世道具移動史』は伝えており、入札会の時点で残っていた優品は少なかったと思われる。3回の入札会には、いずれも茶道具、茶事に関連する書画類を中心とした出品を行なっているが、その中では、ここに紹介する昭和9年(第3回)の売立が、作品の質において最も高いものといえる。
この第3回の入札では、牧谿「遠寺晩鐘図」が83,000円、「大江山絵巻」(現、逸翁美術館)が28350円などで落札され、総落札額は、430,000円に達した。