33益田信世
益田信世氏所蔵品入札 大正13年10月27日 東京美術倶楽部
益田信世は、三井物産創業者で、三井合名会社理事長などを歴任した三井財閥育ての親で、数寄者としても、戦前最大級の美術コレクションを形成した益田孝(鈍翁)の三男。三井本店、三井造船などで勤務し、晩年は初代小田原市長を務めた。
しかし、信世には、古美術品に関する趣味はなく、実際には、その母で鈍翁の側室であった益田たきのコレクションであると見られる。たきは、鈍翁の財界人脈から得た情報をもとに、株式投資で多額の収入を獲得し、その資金を美術品の購入に充て、コレクションを形成していた。また、自らも、紫明と号する女流茶人として知られていた。この入札は、信世の個人的借財の返済のため、たきがコレクションを提供したものと見られている(鈴木邦夫「鈍翁コレクションのアルケオロジー」(島美術館編『鈍翁の眼 益田鈍翁の美の世界』平成10年)。総売上は、約267,000円に上った。
出品作の中で特に注目されるのは、「大中臣頼基像(佐竹本三十六歌仙)」(現、遠山記念館)である。佐竹本「三十六歌仙絵巻」は、大正8年末に分割されたが、分割された各図の中で、最も早い時期に分割時の所蔵者の手許から離れた例である。