35前田侯爵家(旧金沢藩主)

前田侯爵家御蔵器入札目録 大正14年5月25日 前田侯爵邸

 江戸時代最大の大名であった旧金沢藩主前田家。大名としての規模の大きさと同時に、歴代藩主には、文化や学術の振興に熱心なものが多かったことから、多くの美術品・文化財のコレクションを蓄積し、明治以降もこれを所蔵し続けてきた。
 前田家が、この入札を実施した目的は、入札で得た利益をもとに、所蔵品のうち重要なものを保存するための体制を固めることであったと思われる。当時の当主前田利為は、関東大震災を経験し、多くの名家が所蔵してきた文化財を喪失するという事態に遭遇し、これに対する危機感を有した。大正15年2月26日、利為は、公益法人育徳財団(現、前田育徳会)を設立しているが、これは、前田家の所蔵品を、財団の管理とし、より安全な形で保存していくために設けられた組織である。尾張徳川家の徳川義親が、自家伝来の美術品・文化財の管理のため、徳川黎明会(徳川美術館)を設けた例と同様のものである。
 そのため、前田家伝来の作品の中で特に優れたものが出品されたとはいえないが、「織部餓鬼腹茶入」(現、野村美術館)が57,800円など茶器を中心に、高額落札が相次ぎ、総落札額は1,090,000円を超えた。