63稲束家

摂津池田稲束聴松軒氏所蔵品入札 昭和9年1月18日 大阪美術倶楽部

 稲束家は、江戸時代以来続く摂津池田の旧家で、代々酒造業を営んできた。池田には、与謝蕪村、呉春、頼山陽ら江戸時代後期を代表する画家や文人が立ち寄り、当地の酒造業者等は、彼らに対するパトロン活動を行なったことで知られているが、稲束家も、そのような一家であり、多くの書画の作品を江戸時代以来収蔵してきた。
 明治期の同家の当主であった稲束司馬太郎は、多くの書画の収集に努めた人物として知られ、その息稲束猛は、哲学、美術史等の研究者として、再建懐徳堂で教鞭をとり、また美術史研究誌『国華』に原稿を寄せる等の活躍をした。
 その所蔵作品は、明治期以来、多くの文化人の関心をひき、河東碧梧桐ら蕪村に関心を寄せる近代の俳人が所蔵品の観覧に訪れている。また、同じ池田の旧家である岸本善五郎や、阪急グループ創業者で日本・東洋美術の収集家、逸翁美術館の創立者として知られる小林一三などとは親密な交流があり、彼らのコレクション活動にも大きな刺激を与えたと思われる。
 稲束家と美術に関しては、石川遼子「第4章 近代池田の芸術と文化」(『新修池田市史 第3巻 近代編』 池田市 平成21年)に詳しい。また、稲束家の歴代が江戸時代から近代まで書き継いできた『稲束家日記』は、同家の芸術文化活動のみならず、池田並びに北摂地域の歴史を研究するための根本史料として貴重視され、『池田市史 史料編 第4・5・6巻』(池田市役所 昭和48年〜61年)に、宝暦8年から明治45年までの分が公刊されている。
 出品作品には、与謝蕪村、呉春ら池田ゆかりの画家の作品を中心に、円山応挙をはじめとする京都画壇諸流派の画家、岡田米山人・半江父子をはじめとする大阪画壇の画家の作品が多数を占める。