72平井仁兵衛
平井東庵氏所蔵品入札目録 昭和12年2月15日 京都美術倶楽部
平井仁兵衛は、京都の実業家。近江に生まれ、京都西陣の織物商平井家に養子で入り、京都瓦斯の役員を務めるなど、京都財界で活躍した。その一方、東庵と号し、画家、茶人としても活躍した。
この売立の目的は不明であるが、同年7月に勃発する盧溝橋事件から日中戦争に突入する直前、すなわち、金融恐慌以降の不況のあと、戦時に対応する統制経済体制が間近に迫った時期で、贅沢品である西陣織に関する商売には、厳しい時期が迫っているという事情を考慮する必要があろう。
出品作品で目を引くのは、「壬生忠見像(佐竹本三十六歌仙)」(現、個人蔵、分割時の所有者は、京都の実業家塚本与三次)が51,000円で落札されたほか、近世京都画壇の絵画や、茶器に優品が多数含まれる。それらの中には、「雁半伝来」、「下村(正太郎)家」伝来などの注記があるものも目立ち、大正から昭和期の数多くの売立で、平井仁兵衛が落札したものも目立つ。総売上は920,000円余に及んだ。